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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 36

2022年06月28日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
 校長室を出ると、廊下に末松校長と坂本教頭とが立っていた。教頭が慌てて寄ってくる。
「これはこれは、皆さんお揃いでどちらへ?」教頭は精いっぱいの愛想笑いで訊く。揉み手をせんばかりの雰囲気だ。「何でしたら、わたしが先導いたしますが?」
「いえ、大丈夫ですわ」百合恵が答える。百合恵も負け無いほどの愛想笑いを浮かべている。「現役のさとみちゃんがいますから、ご心配ご無用です」
「はあ、そうですか……」教頭は残念そうだ。名誉挽回の機会だからだ。「せめて、どちらへいらっしゃるかだけでも……」
「ええ、そうですわね…… 校内を少し……」
「教頭先生!」校長が割って入る。「君は百合恵さんが迷惑しているのが分からんのかね? 我が校の優秀な生徒がついていると、ありがたいお言葉を頂いているじゃないか(「え?そんな事言いました?」と言った顔でさとみは百合恵を見る。百合恵はただ微笑んでいる)! 君のは下衆の詮索だよ」
「は、はいっ!」教頭は言うと、校長に向かって深々と頭を下げた。「大変、申し訳ございませんでした!」
「わたしに頭を下げてどうするんだね?」校長は言うと、百合恵に向かって、困った教頭だと言うような顔をして見せた。「頭を下げるのは、皆様にだろう?」
「は、はい、そうでした!」教頭は百合恵たちに向きを変えて、頭を下げた。「申し訳ございませんでしたぁ!」
「いえいえ、ご心配頂いて、恐縮です」
 片岡は答えて頭を下げた。それに気がついた教頭が、負けじとさらに頭を下げた。百合恵は吹き出しそうなのを堪えて横を向く。さとみは世にも珍しい物を見ていると言った顔をしている。
「坂本教頭、何時までやっているのかね?」校長がいらいらした声を出す。「皆様お出掛けなのだよ。無駄に足止めをするんじゃない」
「ははっ!」武将の下知に答える家来のように答え、教頭は脇へ退くと、再び頭を下げた。「どうぞ、お通り下さい! もし、何か必要な事があれば、いつでもご連絡ください!」
「ええ、もちろんそうさせて頂きますわ」
 百合恵は言って、教頭の前を通る。それに続いて片岡が、さとみが続いた。すたすたと歩き、廊下の角を曲がる時、さとみはちらと教頭を見たが、校長と楽しそうに話をしていた。
「ね?」百合恵が声をかけてきた。「教頭先生が怒られていたのって、大人の事情なのよ。本気で怒っていたわけじゃないの」
「そう見たいですね……」さとみは答えるが、呆れ気味だ。「大人って、面倒なんですね……」
「ふふふ、いずれはさとみちゃんも仲間入りよ」百合恵が笑う。「でも、さとみちゃんなら、ずうっとそんな感じかもねぇ……」
「そんな気がしますね」片岡もうなずく。「今のままな感じのさとみさんでいて欲しいですね」
「じゃあ、ずっとお子様じゃないですぁ」さとみはぷっと頬を膨らませる。「それはイヤですよう」
「ほほほ」百合恵は笑う。「何時までも困った霊体を助けるさとみちゃんでいてほしいって事よ」

 すでに午後の授業が始まっていて、校内は静かだった。さとみを先頭に百合恵と片岡が歩いている。
 三人には、そこかしこに居る霊体が見えていた。丁髷で薄汚い着物の男の霊体や、着物をだらしなく着崩した女の霊体や、竜二など足元にも及ばないほどの貫録のあるダブルのスーツを着た親分のような男の霊体や、化粧が濃く露出度の高い衣服に身を包んだ女の霊体など、他にもたくさんの霊体が北校舎に近づくにつれて増えてきた。それらに共通しているのは、隠し様のない碌で無し感と、恨み辛みの念だった。霊体たちは何かをしてくると言う事はなかった。ただ、じっと三人を見つめていた。
「あんまり良い感じがしませんね……」さとみがつぶやくように言う。「これもさゆりの影響なんでしょうか?」
「そうでしょうね」片岡が答える。「もっと集まって来るでしょうね」
「うわぁ……」
 さとみは思い切りイヤな顔をした。それが面白かったのか、霊体の幾人かが笑った。さとみはぷっと頬を膨らませた。その顔も面白かったのか、さらに多くの霊体が笑い出した。
「失礼しちゃうわ!」さとみはぷんぷんと怒っている。「わたしは娯楽提供者じゃないわよう!」
「いえいえ、さとみさん」片岡が言う。「皆、さとみさんに癒されたようですよ。邪気が減っています」
「そうよ」百合恵が言うと、そばに居た親分格の霊体が百合恵に話しかけてきた。百合恵はくすくす笑う。「……さとみちゃん、こちらが言うには(百合恵は隣に立つ親分格の霊体を手で示す。親分はにやりと笑って親指を立てて見せた)、『さっきの変な顔を見ていると、何だか、恨み辛みを持っているのが馬鹿馬鹿しくなった』だって。凄いじゃないの、さとみちゃん」
 さとみは言い返そうとしたが、確かに多くの霊体から邪気が減っているのが分かった。……じゃあ、まあ、良いかな。さとみは思った。
 そのまま北校舎に入った。午後の日差しは北校舎には注がれていないかのように、ひんやりとしていた。
「……なるほど」片岡はうなずく。「ここなら、檻がありそうですね。しかも上の階の方がより強い霊体が居そうです」
「霊体も高い所が好きなのねぇ……」百合恵はくすくす笑う。「人の上に立つって言う意味を間違えているわねぇ」
 さとみたちは階段を上る。重く陰鬱な気配とともに、イヤな臭いも漂ってくる。邪悪そうな霊体も増えている。昼間だと言うのに姿を隠そうともしない。階を上がるごとにイヤな霊気が強くなって行く。以前よりもかなり良くない状況になっているようだ。
「四階が最上階です」さとみが三階と四階の間の踊り場で言う。「イヤな感じが強くなっていますね……」
「檻を作ってお仲間を閉じ込めているのが、居そうですよ」片岡が踊り場から四階を見上げて言う。「それを守っている連中も居そうです」
 さとみも四階を見上げた。


つづく


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