さとみが霊体を戻すと、目の前に朱音の顔があった。
「うわっ!」
さとみは驚いて後ろの仰け反る。危うく倒れそうになったのをしのぶが両腕をつかんで支えた。
「会長、理科室の椅子は背凭れが無いんですから、気を付けてください」しのぶがさとみの後ろから言う。「わたしが居なかったら、大怪我するところでしたよ」
「……ああ、ありがとうね」
「で?」朱音は瞳をきらきらさせて、さとみを見る。「また霊とお話したんですね?」
「え? そうなんですか!」しのぶが言う。「何をお話ししたんですか?」
前と後ろからの圧にさとみは困惑する。
「……わたしたちは帰っちゃうから、後を任せたのよ」
「どう言う事ですか?」朱音がぐいっと詰め寄って来る。「そこの所、詳しく!」
「そうです!」しのぶがさとみをつかむ手に力が入った。「そこの所、詳しく!」
「わたしの役に立ちたいって言っているから、じゃあ、わたしたちが帰った後、ずっと骸骨標本を監視していてね、何かあったら教えてねって、頼んだのよ」
「えええっ!」朱音が驚く。「会長は、霊を意のままに扱うことが出来るんですか! 凄いっ!」
「わたしも初めて聞きました!」しのぶも驚く。「妖怪や式神を使うって言うのは知っていますけど、霊を使うなんて知りませんでした! 会長って、もの凄い霊能者なんじゃないですか?」
「そんな事は無いと思うわよ」さとみはきらきら眼の後輩二人に言う。「みんなわたしの仲間、って言うか…… とにかく、使ったり使われたりって言う関係じゃないわね」
「そうなんですか」しのぶがうなずく。「じゃあ、会長は、霊たちとお友達なんですね?」
「え? ……う~ん、強いて言えば、そんな感じかな?」さとみは言うと竜二を見る。「……まあ、若干の例外はあるかもだけど」
「会長……」朱音は言うと目に涙を浮かべる。「会長って、優しいんですね。霊までお友達だって言えるなんて…… ねぇ、のぶ! わたしたちって、ひょっとしたら、凄い人と知り合っちゃったのかも!」
「そうそう! わたしもそう思っていたところよ、かね!」
二人はさとみを挟んで、きゃいきゃいとはしゃぎ始めた。
「はいはい、もうおしまい!」さとみは立ち上がる。「帰るわよ。……先生、それで良いですか?」
「ああ、良いよ」松原先生は言う。それから、感心したように続ける。「それにしてもだ、綾部、お前って本当に凄いのかもしれないな……」
「ヤダ、先生!」さとみは照れくさそうに言い返す。「そんな事ないですよう!」
みんなで理科室を出た。竜二は座り込んで律儀に骸骨標本を見つめている。その横に竜二にべったりとくっついている虎之助がいる。さとみは苦笑しながら理科室の引き戸を閉めた。
理科室の鍵はしのぶと松原先生とで返しに行く事になった。朱音とさとみは先に学校を出た。途中、近道になるので公園の中を歩いた。
「朱音ちゃんは、しのぶちゃんと一緒じゃなくて良かったの?」
さとみが朱音に訊く。朱音はにやっと笑む。
「のぶ、松原先生が好きなんです。だから、あれで良いんですよ。ささやかながらも二人の時間」
「でも、松原先生には彼女さんがいるって……」
「ははは、会長! 先生を好きになるなんて言うのは、憧れですよ。恋愛じゃないです」
「そうなんだ……」さとみはつぶやく。恋愛に関しては、今一つ奥手なさとみだ。「……じゃあさ、朱音ちゃんはどうなの?」
「そうですねぇ……」朱音は立ち止まる。それから、恥ずかしそうな顔をさとみに向ける。「……百合恵さん、かな?」
「あら……」予想外の答えにさとみは驚く。「……でも、何となく分かるわ。百合恵さんって、素敵な女性だもんね。憧れちゃうわ」
「……肩を抱かれた時、ぽわんと甘い香りがして…… 大人の完成された女性だし……」
「それはあれよ」さとみは、ぽうっとした顔の朱音に言う。「百合恵さん、ちょっと朱音ちゃんをからかっているのよ。わたしもやられたわ」
「それでも良いんです」朱音はまだぽうっとしている。「わたし、百合恵さんが好きです! でも、一番好きなのは…… 会長!」
朱音は言うと、さとみに抱きついてきた。突然で、さとみは倒れそうになった。
「ちょっ、ちょっ、ちょっとぉ!」さとみは慌てる。「みんな見ているわよう!」
「え?」朱音は周りを見回す。「誰もいないじゃないですか」
「いるわよう!」
さとみには、にやにや笑いながら、あるいは眉をひそめながら二人を眺めている多くの霊が見えていた。
「とまあ、そう言う事なんで」朱音はさとみを放した。「また明日です!」
朱音は言うと走って行った。照れ隠しなのかもしれない。
「……やれやれ……」
ため息をつくさとみだった。
つづく
「うわっ!」
さとみは驚いて後ろの仰け反る。危うく倒れそうになったのをしのぶが両腕をつかんで支えた。
「会長、理科室の椅子は背凭れが無いんですから、気を付けてください」しのぶがさとみの後ろから言う。「わたしが居なかったら、大怪我するところでしたよ」
「……ああ、ありがとうね」
「で?」朱音は瞳をきらきらさせて、さとみを見る。「また霊とお話したんですね?」
「え? そうなんですか!」しのぶが言う。「何をお話ししたんですか?」
前と後ろからの圧にさとみは困惑する。
「……わたしたちは帰っちゃうから、後を任せたのよ」
「どう言う事ですか?」朱音がぐいっと詰め寄って来る。「そこの所、詳しく!」
「そうです!」しのぶがさとみをつかむ手に力が入った。「そこの所、詳しく!」
「わたしの役に立ちたいって言っているから、じゃあ、わたしたちが帰った後、ずっと骸骨標本を監視していてね、何かあったら教えてねって、頼んだのよ」
「えええっ!」朱音が驚く。「会長は、霊を意のままに扱うことが出来るんですか! 凄いっ!」
「わたしも初めて聞きました!」しのぶも驚く。「妖怪や式神を使うって言うのは知っていますけど、霊を使うなんて知りませんでした! 会長って、もの凄い霊能者なんじゃないですか?」
「そんな事は無いと思うわよ」さとみはきらきら眼の後輩二人に言う。「みんなわたしの仲間、って言うか…… とにかく、使ったり使われたりって言う関係じゃないわね」
「そうなんですか」しのぶがうなずく。「じゃあ、会長は、霊たちとお友達なんですね?」
「え? ……う~ん、強いて言えば、そんな感じかな?」さとみは言うと竜二を見る。「……まあ、若干の例外はあるかもだけど」
「会長……」朱音は言うと目に涙を浮かべる。「会長って、優しいんですね。霊までお友達だって言えるなんて…… ねぇ、のぶ! わたしたちって、ひょっとしたら、凄い人と知り合っちゃったのかも!」
「そうそう! わたしもそう思っていたところよ、かね!」
二人はさとみを挟んで、きゃいきゃいとはしゃぎ始めた。
「はいはい、もうおしまい!」さとみは立ち上がる。「帰るわよ。……先生、それで良いですか?」
「ああ、良いよ」松原先生は言う。それから、感心したように続ける。「それにしてもだ、綾部、お前って本当に凄いのかもしれないな……」
「ヤダ、先生!」さとみは照れくさそうに言い返す。「そんな事ないですよう!」
みんなで理科室を出た。竜二は座り込んで律儀に骸骨標本を見つめている。その横に竜二にべったりとくっついている虎之助がいる。さとみは苦笑しながら理科室の引き戸を閉めた。
理科室の鍵はしのぶと松原先生とで返しに行く事になった。朱音とさとみは先に学校を出た。途中、近道になるので公園の中を歩いた。
「朱音ちゃんは、しのぶちゃんと一緒じゃなくて良かったの?」
さとみが朱音に訊く。朱音はにやっと笑む。
「のぶ、松原先生が好きなんです。だから、あれで良いんですよ。ささやかながらも二人の時間」
「でも、松原先生には彼女さんがいるって……」
「ははは、会長! 先生を好きになるなんて言うのは、憧れですよ。恋愛じゃないです」
「そうなんだ……」さとみはつぶやく。恋愛に関しては、今一つ奥手なさとみだ。「……じゃあさ、朱音ちゃんはどうなの?」
「そうですねぇ……」朱音は立ち止まる。それから、恥ずかしそうな顔をさとみに向ける。「……百合恵さん、かな?」
「あら……」予想外の答えにさとみは驚く。「……でも、何となく分かるわ。百合恵さんって、素敵な女性だもんね。憧れちゃうわ」
「……肩を抱かれた時、ぽわんと甘い香りがして…… 大人の完成された女性だし……」
「それはあれよ」さとみは、ぽうっとした顔の朱音に言う。「百合恵さん、ちょっと朱音ちゃんをからかっているのよ。わたしもやられたわ」
「それでも良いんです」朱音はまだぽうっとしている。「わたし、百合恵さんが好きです! でも、一番好きなのは…… 会長!」
朱音は言うと、さとみに抱きついてきた。突然で、さとみは倒れそうになった。
「ちょっ、ちょっ、ちょっとぉ!」さとみは慌てる。「みんな見ているわよう!」
「え?」朱音は周りを見回す。「誰もいないじゃないですか」
「いるわよう!」
さとみには、にやにや笑いながら、あるいは眉をひそめながら二人を眺めている多くの霊が見えていた。
「とまあ、そう言う事なんで」朱音はさとみを放した。「また明日です!」
朱音は言うと走って行った。照れ隠しなのかもしれない。
「……やれやれ……」
ため息をつくさとみだった。
つづく
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