「わがはいはジェシルを守る」
ハ-ビィは言うと、自分の左手をジェシルの脚の上に置いた。そして、右手で地面に置いた時限爆弾をつかんだ。
「ハービィ、どうする気?」
「これを、遠くに放り投げるのだよ、ハニー」
「それなら、もっと早くに気が付いてやってもらいたかったよ」ムハンマイドがハービィに言う。「あ、でも、ジェシルが鎖と紐の事しか言わなかったからなぁ……」
「何よ、気が付かなかったわたしが悪いみたいじゃない!」
「今は、そんな事を言い合っている場合じゃないだろう!」
「そうだったわね……」ジェシルは軽く咳払いをするとハービィを見る。「じゃあ、ハービィ。爆弾を遠くに放り投げちゃってちょうだい!」
「了解だ、ハニー」
ハービィは答えると、爆弾を持ったまま二人に背を向けた。それから、爆弾を持った右手を、腕の付け根からぐるぐると回し始めた。勢いを付けているようだ。ジェシルとムハンマイドが、呆れたような、一縷の期待を持っているような表情でハービィを見ている。
と、ハービィは、左手を失ったせいなのか、バランスを崩してよろけてしまった。その拍子に回していた右腕が止まり、持っていた爆弾を落としてしまった。
爆弾は、胴体の、剥き出しになっている駆動装置に引っかかってしまった。
ハービィは爆弾を取ろうとするが、右手では届かない左側の腰辺りの装置に位置に引っかかっている。ハービィは右手を何度も伸ばしてみるが、指先が微妙に届かない。
デジタル表示は着々と減って行く。
「ハービィ……」ジェシルは優しく言う。「もう良いわ。あなたは頑張ってくれたわ。もう充分よ。……ねぇ、ムハンマイド?」
「……そうだな」ムハンマイドは笑顔を作る。「素晴らしかったよ、ハービィ」
ハービィは突然、頭を真後ろに回し、ジェシルを見た。
「わがはいはジェシルを守るのだ」
ハービィは頭を戻すと、その場で、がちゃがちゃとせわしなく足踏みを始めた。
「何? どうしたの、ハービィ?」
ジェシルは怪訝な顔でハービィの後ろ姿を見ている。それから、ムハンマイドを見る。ムハンマイドもジェシル同様、怪訝な顔をしてハービィを見ている。
と、ハービィが走り出した。そこそこの速さだ。がちゃがちゃと言う音が激しい。
「ハービィ!」
ジェシルが叫ぶ。しかし、ハービィは走ったままだ。脚の付け根部分から煙が立ち上って来た。
「ハービィ…… 無茶だ。君は走るようには作られていないんだ……」ムハンマイドはつぶやいて、はっとし、ジェシルに叫ぶ。「ジェシル! ハービィを止めろ!」
「ハービィ! 止まって!」ジェシルは叫ぶ。しかし、ハービィは止まらない。がちゃがちゃ音が遠くなる。「ハービィってばあ!」
と、ハービィの姿がオレンジ色の光と土煙に包まれた。一瞬遅れて、爆発音と爆風が二人に襲い掛かった。時限爆弾が爆発したのだ。
「ハービィ……」
ジェシルはつぶやく。土煙が晴れた。そこにはハービィはいなかった。
思い出したように、ごろごろとハービィの部品らきしものが転がって来た。
「……ハービィが守ってくれたわ」
「ジェシル……」
ムハンマイドが言う。ジェシルは、泣き出しそうな顔をムハンマイドに向けたが、すぐに顔をそむけた。自由になった手で目元を拭うようなしぐさをしている。
それを見たムハンマイドも辛そうな顔をする。
「ジェシル……」ムハンマイドは改めてジェシルに呼びかける。「……感傷に浸っている所で悪いんだけどさ。紐を切ってくれないか?」
「……そうね……」ジェシルはそむけていた顔をムハンマイドに向けた。いつものジェシルの顔だ。「ハービィが守ってくれたんですものね」
「そう言う事だよ」ムハンマイドが大きくうなずく。「そして、早く家に戻って、通信システムを起動させるんだ」
「そうね、オーランド・ゼムとミュウミュウの事を宇宙パトロールに知らせて、迎撃態勢を敷いてもらわなきゃ!」
「ははは、大袈裟だな」
「何を言っているのよ! オーランド・ゼム一味が、あなたの武器を組み立てるのを阻止出来ないんだから、そうするしかないじゃない! それとも、何か武器に欠点でもあるの?」
「無い」ムハンマイドは即答する。「ボクの持てる知力を注いだものだからね」
「それが逆に迷惑だわ!」
「まあ、今は家に戻るのが先決だ」ムハンマイドは言うと、爆発した辺りを見た。「ハービィの部品回収は後回しになってしまうな……」
「その時は、手厚く葬らなきゃね……」
「おや、意外と信心深いんだな」
「ふん! 今回は特別よ!」
ジェシルは、ハービィの左手で脚の紐を切って行く。ジェシルは「変態馬鹿女、今度会ったら死んでもらうわ」とか「あんなじいさんのどこが良いのかしら、老け専ブス」とか、ミュウミュウの悪口を言いながら切り進める。切り終わると、ムハンマイドの手首の紐を切った。終わると、ハービィの左手をムハンマイドに渡す。
「足は自分でやって」ジェシルは額に汗を浮かべている。「ミュウミュウが、足をぐるぐる巻きにしたせいで、切るだけで疲れちゃったわ。あの変態暴力馬鹿女めぇ!」
口を尖らせているジェシルを見て、ムハンマイドは苦笑する。
つづく
ハ-ビィは言うと、自分の左手をジェシルの脚の上に置いた。そして、右手で地面に置いた時限爆弾をつかんだ。
「ハービィ、どうする気?」
「これを、遠くに放り投げるのだよ、ハニー」
「それなら、もっと早くに気が付いてやってもらいたかったよ」ムハンマイドがハービィに言う。「あ、でも、ジェシルが鎖と紐の事しか言わなかったからなぁ……」
「何よ、気が付かなかったわたしが悪いみたいじゃない!」
「今は、そんな事を言い合っている場合じゃないだろう!」
「そうだったわね……」ジェシルは軽く咳払いをするとハービィを見る。「じゃあ、ハービィ。爆弾を遠くに放り投げちゃってちょうだい!」
「了解だ、ハニー」
ハービィは答えると、爆弾を持ったまま二人に背を向けた。それから、爆弾を持った右手を、腕の付け根からぐるぐると回し始めた。勢いを付けているようだ。ジェシルとムハンマイドが、呆れたような、一縷の期待を持っているような表情でハービィを見ている。
と、ハービィは、左手を失ったせいなのか、バランスを崩してよろけてしまった。その拍子に回していた右腕が止まり、持っていた爆弾を落としてしまった。
爆弾は、胴体の、剥き出しになっている駆動装置に引っかかってしまった。
ハービィは爆弾を取ろうとするが、右手では届かない左側の腰辺りの装置に位置に引っかかっている。ハービィは右手を何度も伸ばしてみるが、指先が微妙に届かない。
デジタル表示は着々と減って行く。
「ハービィ……」ジェシルは優しく言う。「もう良いわ。あなたは頑張ってくれたわ。もう充分よ。……ねぇ、ムハンマイド?」
「……そうだな」ムハンマイドは笑顔を作る。「素晴らしかったよ、ハービィ」
ハービィは突然、頭を真後ろに回し、ジェシルを見た。
「わがはいはジェシルを守るのだ」
ハービィは頭を戻すと、その場で、がちゃがちゃとせわしなく足踏みを始めた。
「何? どうしたの、ハービィ?」
ジェシルは怪訝な顔でハービィの後ろ姿を見ている。それから、ムハンマイドを見る。ムハンマイドもジェシル同様、怪訝な顔をしてハービィを見ている。
と、ハービィが走り出した。そこそこの速さだ。がちゃがちゃと言う音が激しい。
「ハービィ!」
ジェシルが叫ぶ。しかし、ハービィは走ったままだ。脚の付け根部分から煙が立ち上って来た。
「ハービィ…… 無茶だ。君は走るようには作られていないんだ……」ムハンマイドはつぶやいて、はっとし、ジェシルに叫ぶ。「ジェシル! ハービィを止めろ!」
「ハービィ! 止まって!」ジェシルは叫ぶ。しかし、ハービィは止まらない。がちゃがちゃ音が遠くなる。「ハービィってばあ!」
と、ハービィの姿がオレンジ色の光と土煙に包まれた。一瞬遅れて、爆発音と爆風が二人に襲い掛かった。時限爆弾が爆発したのだ。
「ハービィ……」
ジェシルはつぶやく。土煙が晴れた。そこにはハービィはいなかった。
思い出したように、ごろごろとハービィの部品らきしものが転がって来た。
「……ハービィが守ってくれたわ」
「ジェシル……」
ムハンマイドが言う。ジェシルは、泣き出しそうな顔をムハンマイドに向けたが、すぐに顔をそむけた。自由になった手で目元を拭うようなしぐさをしている。
それを見たムハンマイドも辛そうな顔をする。
「ジェシル……」ムハンマイドは改めてジェシルに呼びかける。「……感傷に浸っている所で悪いんだけどさ。紐を切ってくれないか?」
「……そうね……」ジェシルはそむけていた顔をムハンマイドに向けた。いつものジェシルの顔だ。「ハービィが守ってくれたんですものね」
「そう言う事だよ」ムハンマイドが大きくうなずく。「そして、早く家に戻って、通信システムを起動させるんだ」
「そうね、オーランド・ゼムとミュウミュウの事を宇宙パトロールに知らせて、迎撃態勢を敷いてもらわなきゃ!」
「ははは、大袈裟だな」
「何を言っているのよ! オーランド・ゼム一味が、あなたの武器を組み立てるのを阻止出来ないんだから、そうするしかないじゃない! それとも、何か武器に欠点でもあるの?」
「無い」ムハンマイドは即答する。「ボクの持てる知力を注いだものだからね」
「それが逆に迷惑だわ!」
「まあ、今は家に戻るのが先決だ」ムハンマイドは言うと、爆発した辺りを見た。「ハービィの部品回収は後回しになってしまうな……」
「その時は、手厚く葬らなきゃね……」
「おや、意外と信心深いんだな」
「ふん! 今回は特別よ!」
ジェシルは、ハービィの左手で脚の紐を切って行く。ジェシルは「変態馬鹿女、今度会ったら死んでもらうわ」とか「あんなじいさんのどこが良いのかしら、老け専ブス」とか、ミュウミュウの悪口を言いながら切り進める。切り終わると、ムハンマイドの手首の紐を切った。終わると、ハービィの左手をムハンマイドに渡す。
「足は自分でやって」ジェシルは額に汗を浮かべている。「ミュウミュウが、足をぐるぐる巻きにしたせいで、切るだけで疲れちゃったわ。あの変態暴力馬鹿女めぇ!」
口を尖らせているジェシルを見て、ムハンマイドは苦笑する。
つづく
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます