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コーイチ物語 3 「秘密の物差し」 102

2020年08月07日 | コーイチ物語 3(全222話完結)
「何言ってんの……」
 逸子は呆れた。逸子だけではない、ナナもタケルも呆れてしまった。
「エデンの園って……」ナナがつぶやく。「アダムとイブが居るんじゃなの?」
「そう。だからボクも冗談のつもりだったんですよ」タロウも呆れた顔で答える。「でも、アツコは真剣な顔になって…… それから色々と調べ始めて……」
「じゃあ」逸子が言う。「あなたはコーイチさんもエデンの園に居ると思っているの?」
「はい、可能性は高いと思います……」
 逸子とナナとタケルは顔を見合わせた。
「ねぇ、どう思う?」逸子が二人を交互に見る。「エデンの園だなんて……」
「う~ん、何とも言えないねぇ……」タケルが腕組みをする。「有りそうな無さそうな……」
「わたしもそんな感じがするわ、お姉様」ナナは首を横に振る。「はっきりどっちとは言えない……」
「未来のあなたたちがそう言うんじゃ、もうお手上げねぇ……」
 逸子はタロウを見た。タロウはじっと逸子を見つめ返してきた。その眼には嘘偽りの翳りはない。……じゃあ、行くとしたらエデンの園って言うのは間違いないんだ…… 逸子は思った。
「それじゃ、エデンの園へ行ってみましょうか?」逸子が言って、ナナとタケルを見た。二人は驚いた顔で逸子を見返す。「だって、他に打つ手がないのよ。ここに居ても解決しないし……」
「でもさ……」タケルが手を上げた。「行くとしても、時間的なものがはっきりしていない。そもそもエデンの園がどれだけの期間続いたのか分からない。そんな中、アツコたちより先の時間に着いてしまうと無駄足になるし、後だとどんな危険が潜んでいるのか分からない」
「危険なんて蹴散らしゃ良いのよ!」
「その通りよ、お姉様!」
 逸子とナナは顔を見合わせてうなずき合う。……こう言う意見の一致は早いんだよなぁ、タケルは思った。……この二人、ますます性格が似て来たぞ、思わず喉を鳴らすタケルだった。
「タケルさん……」逸子がじろりとタケルをにらむ。「あなたより前の時代のアツコでさえエデンの園に行けたのよ。あなたの時代の方があれこれ進んでいるんでしょ? だったら、何とかなるんじゃない?」
「いや、行けないとは言ってないよ。どんぴしゃのタイミングでエデンの園に着けるかどうかが問題なんだ」
「なんとかしなさいよ!」逸子は言う。赤いオーラが立ち昇りはじめる。「未来人でしょ? タイムパトロールなんでしょ?」
「え? そうなんですか?」タロウが割って入り、タケルに言う。「じゃあ、支持者って人物が分かりますか?」
「いや、分からない。最近聞いたばかりだったからね」
「そうですか……」タロウは悔しそうだ。「そいつのせいで、結局は『ブラックタイマー』は無くなちゃったし、アツコもいなくなっちゃったし……」
「諸悪の根源は、その支持者って感じだね……」
「そう言えますね……」
 タケルとタロウは腕組みをして考え込んでしまった。
「ねえ!」逸子が大きな声で言う。「それは後で考えて! 今は、コーイチさんを取り戻すのが先よ!」
「……ああ、そうだったね」タケルは言う。「じゃあ、タイムパトロールの本部に戻って、資料室に行って、関連する項目をコンピュータに入れて検索しなきゃならないかな。……それでも、どこまで正確な答えが出るか……」
「でも、調べないよりはマシね」逸子はうなずく。「で、それって、どれくらいで出来るの? 五分? 十分?」
「そりゃあ無理だよ……」タケルは困惑の表情になる。「最速でも三日はかかる」
「はあ?」逸子のオーラが高まる。「わたしに三日も待てって言うの? 今すぐにでも行きたいって言うのに!」
「でもさ、どうにもできないよ……」
「しかも、正確かどうかも分からないなって言ってるじゃない? どうしてくれるのよ!」逸子はいらいらしている。「この場で、さささって出来なの? 未来人なんでしょ? 何とかしなさいよ!」
「無理だよ……」タケルは消え入りそうな声で答える。「時間に関しては、まだまだ分からない事も多いんだよ……」
 タケルをじっと見つめる逸子のオーラがすっと消えた。代わりに、大粒の涙が流れ落ち、ほほを濡らした。
「逸子さん!」
 ナナが逸子に駈け寄る。声を殺して泣いている逸子の背を優しく撫でさする。そうしながら、ナナはきっとした顔でタケルをにらみ付けた。
「タケル! あなたは乙女心が分からない、最低な男ね! お姉様の悲しくて辛い胸の内が分からないの? 大好きな人の居いる所に届きそうで届かない、この痛みが分からないの? じれったさが分からないの? あなたって、人間なの?」
 そう言うとナナも涙ぐみ始めた。
「ナナ…… ありがとう……」
 逸子とナナは抱き合ってわあわあ泣き出した。
「分かった、分かったよ!」タケルは言う。「全力を尽くすよ。とにかく待っていてほしい。ただ……」
「ただ、何よ? 何か問題でもあるって言うの?」
 ナナが泣き顔をタケルに向けた。タケルは困ったような顔をする。
「アツコ、と言うか、この時代のタイムマシンはパラレルワールドを作る」
「じゃあ、行けないって言うの?」
「そうじゃないよ。現にここに来れただろう? ここだってパラレルワールドだぜ」
「じゃあ、何が問題なのよ?」
「ここを見てもわかると思うんだけどさ、戦国の城にモニタースクリーンとスピーカーだ。これは明らかにアツコの趣味が反映してると思う。……そうだろう、タロウさん?」
「そうですね」タロウは答える。「アツコは自分好みに作り替えるのが好きだったから……」
「って事はさ」タケルが続ける。「エデンの園も自分好みにしたんじゃないかって思うんだよ」
「ああ、その可能性はありそうですね!」タロウがぽんと手を打ってうなずく。「家でも建てたかもしれない」
「それだけなら良いけどさ、自分のエデンの園だってんで、自分たちがアダムとイブになっていたりしてさ……」
 逸子の全身から赤いオーラが噴き出した。オーラは天井を吹き飛ばした。青空天井の状態になった。それでも逸子のオーラは鎮まらない。
「タケル! 馬鹿!」
 ナナが叫んだ。


つづく


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