みきはまさきときりとを連れてさとみの前に立つ。まさきもきりとも、竜二に叱られた時よりも大人しくなって、みきの隣に並んでいる。
「さあ、なんでもきいて」ミキは大人びた口調でさとみに言う。「このふたりって、ようちえんでもいたずらっこたちだったのよ」
「そうなんだ……」さとみは言うとしゃがみ込み、子供たちと同じ目線になる。「でも、みきちゃん、わたしが話が聞きたいって、良く分かったわねぇ」
「だって、ポコおねえちゃん、はるみせんせいになんかきいていて、はるみせんせいがくびをよこにふっていたから、こんどはこっちにきくのかなって」
「凄い観察眼ねぇ……」さとみは感心する。「なんだか、名探偵みたいだわ」
「わたし、テレビアニメで『名探偵エラリー』みているもん」みきが胸を張る。「わたしのうまれるずっとまえからやっているんだって、ママがいっていたわ。それもぜんぶみたから、わたし、めいたんていなの」
「そう、凄いわ」さとみは笑む。「……じゃあ、三人に訊くわね」
「じんもんってやつ?」
「そんな大袈裟じゃないわ。ちょっと確認したいだけ」さとみはみきに言うと、軽く咳払いをする。「みんながこの体育館へ連れ去られて来たって、春美先生が言ってたけど、その時、黒い影みたいなの見なかったかしら?」
「かげ……?」みきはつぶやくと、まさきときりとを見た。「ふたりはみた?」
「いや、しらない」まさきが言う。「いきなりここにきて、ひろいからはしりまわってた」
「そうそう、ひろいんだもん」きりとも言う。「それに、おっきなおにいちゃんおねえちゃんが、はしったりボールであそんだりしていてたのしそうだった」
放課後の部活の練習の事を言っているようだ。真剣な練習も子供たちには遊んでいるように見えるらしい。
「みんなおれたちがみえないみたいだったから、いたずらしちゃった」まさきが言う。「でも、もうやらないよ。あのおじちゃんとやくそくしたから」
まさきは竜二に振り返る。竜二はやっと泣き止んだ。
「そうか、二人とも気がついていないのか……」さとみは残念そうに呟く。「これじゃ、影の仕業かどうかってはっきりしないなぁ……」
「わたし、みたわ」みきが言う。「そとにいたとき、いきなりめのまえにでてきて、ひっぱられるようにしてここにきたの」
「そう、怖かったでしょ?」さとみが心配そうな顔で訊く。「あれは悪いヤツなのよ。だから早くここから出なきゃいけないの。春美先生はちょっとだけここから出られたって言っていたけど」
さとみは手持ち無沙汰な様子で立っている春美を見る。
「……ねえ、ポコおねえちゃん」みきが声を潜める。「きになることがあるの」
「気になる事……?」
「うん。……でも、いまはまだはなせないわ。もうすこししょうこがいるから……」
「そう……」さとみは言うと立ち上がった。「今日はもう遅いからこれでおしまいにするわね。それと、みんなに居てもらえるように話をしておくから、今は春美先生の所で大人しくしていてねね」
さとみは言うと、皆の所へ行った。みきたちは春美の所に集まっている。
「さとみちゃん、すっかりポコお姉ちゃんねぇ」虎之助が笑う。「でも、みんな聞き分けの良い子になったわね。……これは竜二ちゃんのお手柄よ!」
そう言うと、虎之助は竜二に抱きつく。
「いててて、本当にあばら骨が折れるってばぁ!」竜二は苦しそうだ。「さとみちゃん、何とかしてくれよう」
「子供に言う事を聞かせられるんだから、虎之助さんだって出来るでしょ?」
「だって、さとみちゃん、虎之助は子供じゃないんだぜ」
「じゃあ、恋人?」さとみは意地悪っぽい眼差しを竜二に向ける。竜二は赤くなって返事をしない。「ふふふ…… だったら、尚更言う事聞いてもらえるようにしなきゃ」
「……嬢様」豆蔵が小声で言う。「あの娘っ子の話、本当でやすかねぁ?」
「どうして?」さとみはみきの後ろ姿を見ながら言う。「気になるの?」
「へい…… 最初に影の事を聞いた時には、すぐに見たって言いやせんでしたよね。坊主たちに話を振って、見ていないって分かった後で、見たって言い出しやした」豆蔵もみきの後ろ姿を見る。「目明しの勘ってやすけどね、あの子、話を作っているかもですぜ」
「そう……」さとみは大きく息をつく。「実は、わたしもそう思っているの。みきちゃんの『今はまだ話せない。もう少し証拠がいる』って言った言葉、『名探偵エラリー』で探偵が犯人を指摘する前の決まり文句なの。わたしも何回かそのアニメを時間つぶしに見た事があったから、覚えているのよ」
「って事は、あの娘っ子、そのあにめえ(「アニメよ、アニメ」さとみが訂正する。豆蔵には言いにくいようだ)の真似をしてるだけだと?」
「大人っぽく見られたいんじゃない? おませな子には有りがちよ。背伸びしちゃって、可愛いじゃない?」
「そうは言いますが」みつが割って入って来た。その隣には冨美代が立っている。「あの春美と申す女性、さとみ殿のお部屋に現われたのでしょう?」
「そうだったわね。何とか抜け出せたって言っていたけど……」
「どのようにして、ここから出たのでしょう? しかも子供を置いたままで」
「左様ですわ、さとみ様」冨美代が言う。「あの女性、なにやら怪しゅうございますわ。職務も全うできないと言う点も気になりますわ」
「そうねぇ……」さとみは子供たちに手を焼いている様子の春美を見る。「じゃあ、訊いてみるわ」
つづく
「さあ、なんでもきいて」ミキは大人びた口調でさとみに言う。「このふたりって、ようちえんでもいたずらっこたちだったのよ」
「そうなんだ……」さとみは言うとしゃがみ込み、子供たちと同じ目線になる。「でも、みきちゃん、わたしが話が聞きたいって、良く分かったわねぇ」
「だって、ポコおねえちゃん、はるみせんせいになんかきいていて、はるみせんせいがくびをよこにふっていたから、こんどはこっちにきくのかなって」
「凄い観察眼ねぇ……」さとみは感心する。「なんだか、名探偵みたいだわ」
「わたし、テレビアニメで『名探偵エラリー』みているもん」みきが胸を張る。「わたしのうまれるずっとまえからやっているんだって、ママがいっていたわ。それもぜんぶみたから、わたし、めいたんていなの」
「そう、凄いわ」さとみは笑む。「……じゃあ、三人に訊くわね」
「じんもんってやつ?」
「そんな大袈裟じゃないわ。ちょっと確認したいだけ」さとみはみきに言うと、軽く咳払いをする。「みんながこの体育館へ連れ去られて来たって、春美先生が言ってたけど、その時、黒い影みたいなの見なかったかしら?」
「かげ……?」みきはつぶやくと、まさきときりとを見た。「ふたりはみた?」
「いや、しらない」まさきが言う。「いきなりここにきて、ひろいからはしりまわってた」
「そうそう、ひろいんだもん」きりとも言う。「それに、おっきなおにいちゃんおねえちゃんが、はしったりボールであそんだりしていてたのしそうだった」
放課後の部活の練習の事を言っているようだ。真剣な練習も子供たちには遊んでいるように見えるらしい。
「みんなおれたちがみえないみたいだったから、いたずらしちゃった」まさきが言う。「でも、もうやらないよ。あのおじちゃんとやくそくしたから」
まさきは竜二に振り返る。竜二はやっと泣き止んだ。
「そうか、二人とも気がついていないのか……」さとみは残念そうに呟く。「これじゃ、影の仕業かどうかってはっきりしないなぁ……」
「わたし、みたわ」みきが言う。「そとにいたとき、いきなりめのまえにでてきて、ひっぱられるようにしてここにきたの」
「そう、怖かったでしょ?」さとみが心配そうな顔で訊く。「あれは悪いヤツなのよ。だから早くここから出なきゃいけないの。春美先生はちょっとだけここから出られたって言っていたけど」
さとみは手持ち無沙汰な様子で立っている春美を見る。
「……ねえ、ポコおねえちゃん」みきが声を潜める。「きになることがあるの」
「気になる事……?」
「うん。……でも、いまはまだはなせないわ。もうすこししょうこがいるから……」
「そう……」さとみは言うと立ち上がった。「今日はもう遅いからこれでおしまいにするわね。それと、みんなに居てもらえるように話をしておくから、今は春美先生の所で大人しくしていてねね」
さとみは言うと、皆の所へ行った。みきたちは春美の所に集まっている。
「さとみちゃん、すっかりポコお姉ちゃんねぇ」虎之助が笑う。「でも、みんな聞き分けの良い子になったわね。……これは竜二ちゃんのお手柄よ!」
そう言うと、虎之助は竜二に抱きつく。
「いててて、本当にあばら骨が折れるってばぁ!」竜二は苦しそうだ。「さとみちゃん、何とかしてくれよう」
「子供に言う事を聞かせられるんだから、虎之助さんだって出来るでしょ?」
「だって、さとみちゃん、虎之助は子供じゃないんだぜ」
「じゃあ、恋人?」さとみは意地悪っぽい眼差しを竜二に向ける。竜二は赤くなって返事をしない。「ふふふ…… だったら、尚更言う事聞いてもらえるようにしなきゃ」
「……嬢様」豆蔵が小声で言う。「あの娘っ子の話、本当でやすかねぁ?」
「どうして?」さとみはみきの後ろ姿を見ながら言う。「気になるの?」
「へい…… 最初に影の事を聞いた時には、すぐに見たって言いやせんでしたよね。坊主たちに話を振って、見ていないって分かった後で、見たって言い出しやした」豆蔵もみきの後ろ姿を見る。「目明しの勘ってやすけどね、あの子、話を作っているかもですぜ」
「そう……」さとみは大きく息をつく。「実は、わたしもそう思っているの。みきちゃんの『今はまだ話せない。もう少し証拠がいる』って言った言葉、『名探偵エラリー』で探偵が犯人を指摘する前の決まり文句なの。わたしも何回かそのアニメを時間つぶしに見た事があったから、覚えているのよ」
「って事は、あの娘っ子、そのあにめえ(「アニメよ、アニメ」さとみが訂正する。豆蔵には言いにくいようだ)の真似をしてるだけだと?」
「大人っぽく見られたいんじゃない? おませな子には有りがちよ。背伸びしちゃって、可愛いじゃない?」
「そうは言いますが」みつが割って入って来た。その隣には冨美代が立っている。「あの春美と申す女性、さとみ殿のお部屋に現われたのでしょう?」
「そうだったわね。何とか抜け出せたって言っていたけど……」
「どのようにして、ここから出たのでしょう? しかも子供を置いたままで」
「左様ですわ、さとみ様」冨美代が言う。「あの女性、なにやら怪しゅうございますわ。職務も全うできないと言う点も気になりますわ」
「そうねぇ……」さとみは子供たちに手を焼いている様子の春美を見る。「じゃあ、訊いてみるわ」
つづく
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