「はい、はい、はい」
ドアチャイムに返事をしながらコーイチは立ち上がった。ドアに向かった。鍵を開け、ドアを押し開いた。
立っていたのは逸子だった。昨夜と打って変わって、ジーンズに白のTシャツと言った普段着姿だった。心配そうにしていた表情が、ドアの所に現れたコーイチの顔を見たとたん、ほっとした表情になり、ついには涙ぐんでしまった。
「コーイチさん…… よかった。なんともないんですね……」皮製のショルダーバッグから白いハンカチを取り出すと、目頭をすっとぬぐった。笑顔が戻る。「すっかり酔いつぶれていたので、とっても心配してました。それで、父にコーイチさんのアパートの住所を聞いて、押しかけちゃいました……」
「そう、それは、ありがとう……」コーイチは照れくさそうな顔で礼を言った。「自分でも驚くくらい元気になったんだ。もう心配はいらないよ」
「京子さんのお蔭なんですね……」逸子は言って、ちょっと不満そうな顔をした。「まだ、居るんですか?」
「そうよぉ、まだ居るのよぉ、逸子ちゃ~ん!」
コーイチの背後から、からかうような声を出してシャンの顔が覗いた。
「スミ子パワーの効き目、早すぎよ!」
続いて憮然とした顔のブロウが覗いた。
二人はコーイチを押しのけるように前に出て並んだ。
「……あなたは ……京子 ……さん?」
逸子は赤い服の憮然としたままのブロウに向かって言った。隣の白い服のシャンはにこにこしながら逸子を見ていた。
「あ、そうか!」シャンは言って、くすくす笑った。「パーティ会場で会ったのは、実は私だったのよ!」
「え?」逸子はシャンを見た。「確かに服装は、パーティの時に京子さんが着ていた物だけど……」
「あの時も言ったでしょ?」シャンは逸子にウィンクして見せた。「私は魔女だって」
そう言うと、シャンは右人差し指をピンと立てて軽く振った。シャンの服がブロウの服と入れ替わった。
「こんな姿だったわよねぇ…… そしてあなたは……」
シャンは楽しそうに言い、また指を振った。逸子の服がパーティで手品の助手を務めた時の、白いミニドレスに白い大きなリボンをあしらった白いシルクハットをかぶり、白い網タイツに白いブーツを履いた衣装になった。
逸子は驚いた顔のままで固まったように動かない。二人の後ろでコーイチはあたふたしている。
「お姉様、この娘が逸子って娘ね……」ブロウは言って、逸子をじっと観察するように見つめた。「ふうん…… 可愛い娘じゃない。それに、心も純だわ。『恋の色』にふさわしい娘ね。……ま、いいんじゃないかしら、コーイチ君に。もし、変な娘だったらガマガエルにでもしてやろうと思ったけどね」
「あのね、二人とも……」コーイチが声をかけた。シャンとブロウは振り返る。コーイチが今度は前に出た。「そうポンポンと逸子さんを驚かさないでくれよ。いきなり、許容範囲を超えてしまっているよ」
「いいえ、大丈夫です!」逸子はコーイチに向かってきっぱりと言った。「つまり、この人(「私の名前なシャンよ」と、シャンは楽しそうに答えた)が、魔法を使って、姿形を隣の人(「私はブロウ。シャンお姉様が色々と迷惑をかけちゃったわね」と、ブロウが笑顔で言った)になっていたって事ですよね? そして、今、私の服も魔法で変えた……」
「……まあ、そう言う事なんだねぇ」コーイチはさり気ない感じで言った。しかし、急に声をひそめて続けた。「驚いたろう? 彼女たち、本当に本物の魔女なんだよ」
「はい。でも、本物の魔女に会えるなんて……」逸子はシャンとブロウを交互に見た。「とってもステキ!」
……今時の娘は、こんな事があっても平気で、むしろ楽しめるんだ。やれやれ、ボクが歳をとったのかなあ。コーイチはため息をついた。……ま、面倒になっていないから良しとするかな。
「さ、狭い所だけど中に入って」
シャンが逸子に言った。
「散らかっているけど、男の人の一人暮らしだから、大目に見てね」
ブロウも言って、くすくす笑った。
「はい、お邪魔します」
逸子はブーツを脱ぎ、部屋に上がった。きゃっきゃと笑いながら三人はコーイチを押しのけて奥へと進んで行った。
「……ここ、ボクの部屋なんだけどなあ」一人残されたコーイチがつぶやいた。「……って言っても、全然聞いてはくれないだろうけど」
「コーイチ君! いらっしゃいよ!」
シャンの呼ぶ声がした。
つづく
ドアチャイムに返事をしながらコーイチは立ち上がった。ドアに向かった。鍵を開け、ドアを押し開いた。
立っていたのは逸子だった。昨夜と打って変わって、ジーンズに白のTシャツと言った普段着姿だった。心配そうにしていた表情が、ドアの所に現れたコーイチの顔を見たとたん、ほっとした表情になり、ついには涙ぐんでしまった。
「コーイチさん…… よかった。なんともないんですね……」皮製のショルダーバッグから白いハンカチを取り出すと、目頭をすっとぬぐった。笑顔が戻る。「すっかり酔いつぶれていたので、とっても心配してました。それで、父にコーイチさんのアパートの住所を聞いて、押しかけちゃいました……」
「そう、それは、ありがとう……」コーイチは照れくさそうな顔で礼を言った。「自分でも驚くくらい元気になったんだ。もう心配はいらないよ」
「京子さんのお蔭なんですね……」逸子は言って、ちょっと不満そうな顔をした。「まだ、居るんですか?」
「そうよぉ、まだ居るのよぉ、逸子ちゃ~ん!」
コーイチの背後から、からかうような声を出してシャンの顔が覗いた。
「スミ子パワーの効き目、早すぎよ!」
続いて憮然とした顔のブロウが覗いた。
二人はコーイチを押しのけるように前に出て並んだ。
「……あなたは ……京子 ……さん?」
逸子は赤い服の憮然としたままのブロウに向かって言った。隣の白い服のシャンはにこにこしながら逸子を見ていた。
「あ、そうか!」シャンは言って、くすくす笑った。「パーティ会場で会ったのは、実は私だったのよ!」
「え?」逸子はシャンを見た。「確かに服装は、パーティの時に京子さんが着ていた物だけど……」
「あの時も言ったでしょ?」シャンは逸子にウィンクして見せた。「私は魔女だって」
そう言うと、シャンは右人差し指をピンと立てて軽く振った。シャンの服がブロウの服と入れ替わった。
「こんな姿だったわよねぇ…… そしてあなたは……」
シャンは楽しそうに言い、また指を振った。逸子の服がパーティで手品の助手を務めた時の、白いミニドレスに白い大きなリボンをあしらった白いシルクハットをかぶり、白い網タイツに白いブーツを履いた衣装になった。
逸子は驚いた顔のままで固まったように動かない。二人の後ろでコーイチはあたふたしている。
「お姉様、この娘が逸子って娘ね……」ブロウは言って、逸子をじっと観察するように見つめた。「ふうん…… 可愛い娘じゃない。それに、心も純だわ。『恋の色』にふさわしい娘ね。……ま、いいんじゃないかしら、コーイチ君に。もし、変な娘だったらガマガエルにでもしてやろうと思ったけどね」
「あのね、二人とも……」コーイチが声をかけた。シャンとブロウは振り返る。コーイチが今度は前に出た。「そうポンポンと逸子さんを驚かさないでくれよ。いきなり、許容範囲を超えてしまっているよ」
「いいえ、大丈夫です!」逸子はコーイチに向かってきっぱりと言った。「つまり、この人(「私の名前なシャンよ」と、シャンは楽しそうに答えた)が、魔法を使って、姿形を隣の人(「私はブロウ。シャンお姉様が色々と迷惑をかけちゃったわね」と、ブロウが笑顔で言った)になっていたって事ですよね? そして、今、私の服も魔法で変えた……」
「……まあ、そう言う事なんだねぇ」コーイチはさり気ない感じで言った。しかし、急に声をひそめて続けた。「驚いたろう? 彼女たち、本当に本物の魔女なんだよ」
「はい。でも、本物の魔女に会えるなんて……」逸子はシャンとブロウを交互に見た。「とってもステキ!」
……今時の娘は、こんな事があっても平気で、むしろ楽しめるんだ。やれやれ、ボクが歳をとったのかなあ。コーイチはため息をついた。……ま、面倒になっていないから良しとするかな。
「さ、狭い所だけど中に入って」
シャンが逸子に言った。
「散らかっているけど、男の人の一人暮らしだから、大目に見てね」
ブロウも言って、くすくす笑った。
「はい、お邪魔します」
逸子はブーツを脱ぎ、部屋に上がった。きゃっきゃと笑いながら三人はコーイチを押しのけて奥へと進んで行った。
「……ここ、ボクの部屋なんだけどなあ」一人残されたコーイチがつぶやいた。「……って言っても、全然聞いてはくれないだろうけど」
「コーイチ君! いらっしゃいよ!」
シャンの呼ぶ声がした。
つづく
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