「オーランド・ゼムからの話は聞いています」ミュウミュウは言う。口調は優しく穏やかだ。「ジェシルさんが大会に出場する形で『姫様』とわたしを救出に来て下さると言う事を」
「そうだったんですね」ジェシルは答える。ミュウミュウに影響されて、いつもと違う口調になっている。「それで、段取りについては何か言っていました?」
「……いえ、特には。ジェシルさんが助けに行くとだけ……」
……オーランド・ゼムめ! 本当に全部わたしに丸投げしたのね! ジェシルは見えない舌をべえとオーランド・ゼムに突き出した。
「あの……」ミュウミュウは遠慮がちに言う。「……それで、どのような段取りなのですか? 今すぐ救出して下さるのですか?」
「あ、いえ、まだ、それは……」
「では、何をしに見えたのですか?」ミュウミュウの口調は変わらなかったが、ジェシルは思い切り叱責された気分になった。「あなたがジェシル・アンさんである事は分かっていますよ」
「いえ、別に自己紹介に来たわけじゃないんですけど……」ジェシルは戸惑う。とても珍しい事だ。同僚のカルースが隣に居たら、ジェシル戸惑うの話が、全宇宙にあっと言う間に広まっただろう。「会場で目が合ったから、来たんです……」
「それだけですか?」
「さっき、ここへ来たのは良い判断だと言ってくれましたけど?」
「ですから、救出の段取りの話かと思ったのですよ」
二人は黙った。何となく気まずい雰囲気が漂う。
「あ、そうだ!」ジェシルは言う。突破口になると思ったのか、笑みを浮かべる。「会場で『姫様』がわたしの名を呼びましたけど、あれにはどう言う意味が?」
「ああ、あれですか……」ミュウミュウがつぶやく。「……ご存知だとは思いますが、『姫様』の家と、ジェシルさん、あなたの家との間には確執があります」
「あの、それって、『姫様』側の一方的な思い込みですよ。わたしにはそんなものは全く無いですから」
「あなた個人がと言う事ではないのですよ……」『姫様』の代弁者のようにミュウミュウは言う。「あなたの一族は全宇宙で様々な分野でトップとなって君臨しています。『姫様』は、それがお気に召さないようなのです」
「そんな事を言われても……」ジェシルは口ごもる。そして、次第に腹を立て始める。「たまたま、わたしがそんな家系に生まれただけじゃないですか! 言葉は悪いけど、つまらないやっかみじゃないですか? それに、家柄で格決めをするなんて、一体いつの時代の話なんでしょうかね?」
「『姫様』を侮辱なさるのですか?」
「家柄を重要視している割には、ジョウンズなんて言うシンジケートの大ボスに乗せられて好い気になってさ!」ジェシルの怒りが噴き出し始めた。「わたしの一族が主要なポストを占めているのは、単に家柄だけじゃないわ。それなりに働いているからよ。『姫様』一族のヴェルドヴィック家が、どれだけの人物を輩出しているのかは分からないけど、正直、あまり聞かないわ」
「……それは『姫様』が一番ご懸念な話なのですよ」ミュウミュウの声のトーンが下がった。「ジェシルさんの家には敵わないと実感しているのですが、感情的には認めたくないのです」
「うわっ、面倒くさい……」ジェシルはつぶやく。「……じゃあ、『姫様』はわたしに救出してほしくは無いと言う事なのかしら?」
「昨日まではそうでした」ミュウミュウが言う。「わたしが説得しても、決して首を縦には振りませんでした」
「昨日までと言うのは……?」
「……お恥ずかしい話ではあるのですが……」ミュウミュウは通路を振り返る。もちろん、警備員は居ない。それでも、声を潜めて話を続ける。「昔、『姫様』はオーランド・ゼムと恋仲だったのです」
「は?」
「昔の過ちです。オーランド・ゼムは自身の身分を隠していたそうです。ヴェルドヴィック家に取り入ろうとしたのでしょうね。『姫様』はそんな事とは知らず、オーランド・ゼムに夢中になられたそうです」
「悪いヤツねぇ……」ジェシルは笑顔のオーランド・ゼムを思い浮かべた。「天性の女たらしって感じだものねぇ……」
「しかし、ついにオーランド・ゼムの正体が露見する事となりました」
「『姫様』、怒ったでしょう? それとも呆れて離れちゃったのかしら?」
「どちらでもありませんでした…… 『姫様』はオーランド・ゼムにシンジケートを辞めるようにと説得したのです」
「そりゃ、無理だわね」
「そう、無理でした。結婚してヴェルドヴィック家を継がせると、涙を流してまで説得する『姫様』を、オーランド・ゼムは捨てました」
「そうなんだ……」
「それから、『姫様』は女性解放の運動に傾倒されて行きました」
「怨みのパワーの威力って感じかしらね……」
「ジェシルさん、言葉を慎んでください」ミュウミュウは言う。声は穏やかだったが、顔は笑っていない。「……でも、たしかにその一件が大いに係わっているとは思います。なので、この度の話には、『姫様』は全く乗り気ではありませんでした。ですが、わたしはジョウンズに好い様に扱われている『姫様』のお姿が、以前から忍び難かったのです」
「オーランド・ゼムから、『姫様』よりもあなたがメインだと聞いているわ」
「そうですか…… 独断ですが、わたしが救出を申し出たのです」
「『姫様』、納得はしていないんでしょ?」
「そうです、それが昨日まででした」
「じゃあ、心変わりになる事があったの?」
「そうです。それのおかげです……」
ミュウミュウはジェシルの首元を指差した。
つづく
「そうだったんですね」ジェシルは答える。ミュウミュウに影響されて、いつもと違う口調になっている。「それで、段取りについては何か言っていました?」
「……いえ、特には。ジェシルさんが助けに行くとだけ……」
……オーランド・ゼムめ! 本当に全部わたしに丸投げしたのね! ジェシルは見えない舌をべえとオーランド・ゼムに突き出した。
「あの……」ミュウミュウは遠慮がちに言う。「……それで、どのような段取りなのですか? 今すぐ救出して下さるのですか?」
「あ、いえ、まだ、それは……」
「では、何をしに見えたのですか?」ミュウミュウの口調は変わらなかったが、ジェシルは思い切り叱責された気分になった。「あなたがジェシル・アンさんである事は分かっていますよ」
「いえ、別に自己紹介に来たわけじゃないんですけど……」ジェシルは戸惑う。とても珍しい事だ。同僚のカルースが隣に居たら、ジェシル戸惑うの話が、全宇宙にあっと言う間に広まっただろう。「会場で目が合ったから、来たんです……」
「それだけですか?」
「さっき、ここへ来たのは良い判断だと言ってくれましたけど?」
「ですから、救出の段取りの話かと思ったのですよ」
二人は黙った。何となく気まずい雰囲気が漂う。
「あ、そうだ!」ジェシルは言う。突破口になると思ったのか、笑みを浮かべる。「会場で『姫様』がわたしの名を呼びましたけど、あれにはどう言う意味が?」
「ああ、あれですか……」ミュウミュウがつぶやく。「……ご存知だとは思いますが、『姫様』の家と、ジェシルさん、あなたの家との間には確執があります」
「あの、それって、『姫様』側の一方的な思い込みですよ。わたしにはそんなものは全く無いですから」
「あなた個人がと言う事ではないのですよ……」『姫様』の代弁者のようにミュウミュウは言う。「あなたの一族は全宇宙で様々な分野でトップとなって君臨しています。『姫様』は、それがお気に召さないようなのです」
「そんな事を言われても……」ジェシルは口ごもる。そして、次第に腹を立て始める。「たまたま、わたしがそんな家系に生まれただけじゃないですか! 言葉は悪いけど、つまらないやっかみじゃないですか? それに、家柄で格決めをするなんて、一体いつの時代の話なんでしょうかね?」
「『姫様』を侮辱なさるのですか?」
「家柄を重要視している割には、ジョウンズなんて言うシンジケートの大ボスに乗せられて好い気になってさ!」ジェシルの怒りが噴き出し始めた。「わたしの一族が主要なポストを占めているのは、単に家柄だけじゃないわ。それなりに働いているからよ。『姫様』一族のヴェルドヴィック家が、どれだけの人物を輩出しているのかは分からないけど、正直、あまり聞かないわ」
「……それは『姫様』が一番ご懸念な話なのですよ」ミュウミュウの声のトーンが下がった。「ジェシルさんの家には敵わないと実感しているのですが、感情的には認めたくないのです」
「うわっ、面倒くさい……」ジェシルはつぶやく。「……じゃあ、『姫様』はわたしに救出してほしくは無いと言う事なのかしら?」
「昨日まではそうでした」ミュウミュウが言う。「わたしが説得しても、決して首を縦には振りませんでした」
「昨日までと言うのは……?」
「……お恥ずかしい話ではあるのですが……」ミュウミュウは通路を振り返る。もちろん、警備員は居ない。それでも、声を潜めて話を続ける。「昔、『姫様』はオーランド・ゼムと恋仲だったのです」
「は?」
「昔の過ちです。オーランド・ゼムは自身の身分を隠していたそうです。ヴェルドヴィック家に取り入ろうとしたのでしょうね。『姫様』はそんな事とは知らず、オーランド・ゼムに夢中になられたそうです」
「悪いヤツねぇ……」ジェシルは笑顔のオーランド・ゼムを思い浮かべた。「天性の女たらしって感じだものねぇ……」
「しかし、ついにオーランド・ゼムの正体が露見する事となりました」
「『姫様』、怒ったでしょう? それとも呆れて離れちゃったのかしら?」
「どちらでもありませんでした…… 『姫様』はオーランド・ゼムにシンジケートを辞めるようにと説得したのです」
「そりゃ、無理だわね」
「そう、無理でした。結婚してヴェルドヴィック家を継がせると、涙を流してまで説得する『姫様』を、オーランド・ゼムは捨てました」
「そうなんだ……」
「それから、『姫様』は女性解放の運動に傾倒されて行きました」
「怨みのパワーの威力って感じかしらね……」
「ジェシルさん、言葉を慎んでください」ミュウミュウは言う。声は穏やかだったが、顔は笑っていない。「……でも、たしかにその一件が大いに係わっているとは思います。なので、この度の話には、『姫様』は全く乗り気ではありませんでした。ですが、わたしはジョウンズに好い様に扱われている『姫様』のお姿が、以前から忍び難かったのです」
「オーランド・ゼムから、『姫様』よりもあなたがメインだと聞いているわ」
「そうですか…… 独断ですが、わたしが救出を申し出たのです」
「『姫様』、納得はしていないんでしょ?」
「そうです、それが昨日まででした」
「じゃあ、心変わりになる事があったの?」
「そうです。それのおかげです……」
ミュウミュウはジェシルの首元を指差した。
つづく
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