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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第七章 屋上のさゆりの怪 25

2022年06月17日 | 霊感少女 さとみ 2 第七章 屋上のさゆりの怪 
「それで?」さとみが楓を促す。「色々と聞かせてよ」
「何が聞きたいね?」楓が逆に訊く。「それを言ってくれなくちゃ、話し様がないってもんさ」
「生い立ちは聞いたからなぁ……」さとみは腕組みをして考え込む。その間、楓はつまらなさそうな顔で部屋の中を見回している。「あっ、そうだ!」
「何か思いついたかい、お嬢ちゃん?」楓がさとみを見る。「何でもお聞きな」
「じゃあ、ずばり聞くけど……」さとみはにやりと笑む。楓もつられる。「さゆりの弱点を教えて!」
「弱点、かい……」楓は戸惑っている。「弱点ねぇ……」
「……まさか、弱点が無い、とか?」
「いや、そんな事はないけどさ……」
「じゃあ、教えてよ」
「でもさ、ばれたら、絶対わたしが言ったってなるに決まっている」楓はイヤな顔をする。「そうなったら、わたしは消されちゃうよ」
「それは、お気の毒だと思うわ……」さとみも戸惑う。「でも、何でも聞いてって言ったのは楓じゃない?」
「そうだけどねぇ……」楓はため息をつく。「消されるってのは、文字通りの意味なんだよねぇ」
「怖がってるの?」
「まあ、ね……」楓は力なく笑む。「この世にしがみついて数百年だからねぇ……」
「だったら、尚の事、弱点を教えてよ。そうすれば、楓だって消えなくて済むんでしょ?」
「何だか、本当に怖くなってきたよ……」楓は周囲を見回す。「さゆりの取り巻きって、一杯いるからさ……」
「楓を尾けている連中が居そうって事?」
「そうだねぇ。今、さゆりは力を付けている最中だ。色んな所から色んな碌で無しが集まって来ているんだよ。何とかさゆりに取り入って、良い思いをしたいって連中がさ」
「楓だってそうだったんじゃないの?」
「だから、わたしは、お嬢ちゃんや百合恵の味方だってば!」
「今一つ信じられないんだけど…… 素直にさゆりの弱点を教えてくれないしさ」
「だからさ、どこでどいつが見ているのか分かんないからさ……」
「じゃあ、ここに来たのは意味が無いじゃない!」
「だからさ、わたしは味方だってだけでも伝えたくってさ」
「そうは言うけど、その言葉だって、誰かに聞かれているかも知れないわよ?」
「あっ!」
 楓は慌てて口に手をやる。もう手遅れよ。さとみは思う。
「どうしよう……」楓は今さらのように動揺している。「ばれたら、わたしは消されちまうよ!」
「じゃあ、もう屋上へは行かなきゃいいじゃない? さゆりって地縛霊なんでしょ? そこから動けないんだから、行かなきゃいいのよ。わたしもそうしているわ」
「お嬢ちゃんはそれで良いだろうけどね、わたしはそうは行かないんだ…… 今さ、さゆりの側近をやってんだろ? だから、いきなり消えたら、さゆりの配下がわたしを探しに駈け回る。いずれ見つかって、とっ捕まっちまう。とっ捕まってさゆりの前に引っ張り出されて、消されるのさ……」
「楓並みに強い霊体がいるって事?」
「そりゃあ、いるさ!」楓はぶるっと身震いをする。「繁華街の主様の時を思い出しなよ。わたしの他にも強いのがいただろう? あんなのが集まり始めてんだよ」
「新たな四天王って感じね…… でも、楓は四天王になるんじゃないの?」
「もっと強いのが来れば、弾き出されちまうさ」
「そうなんだ。大変なのねぇ……」さとみは妙に感心する。「だったら、尚の事、さっさと弱点を教えて、協力してよ」
「でもなぁ…… 聞かれちまうかもしれないしなぁ……」
「そんな事言うんなら、ここへ何しに来たのよう!」
「そりゃあ、お嬢ちゃんを助けるためさ」
「あのさあ……」さとみはため息をつく。「言っている事が無茶苦茶だわ。矛盾だらけじゃないのよう」
「それだけ、さゆりが怖ろしいんだよ……」楓が声を押し殺す。「とにかくさ、助けたいのは本当さ」
 さとみは尚も疑り深い表情で楓を見ている。
「なんだよ? やっぱり信じてもらえないのかい……」楓は悲しそうな頭を項垂れた。「……そりゃ、今までが今までだから、お嬢ちゃんの気持ちは分かるけどさ。でもさ、わたしだって、百合恵と一緒に居たあの穏やかな日々が嬉しかったんだよ。それは嘘じゃない」
 さとみはじっと楓を見つめる。口は開かない。
「良いよ、分かったよ!」楓は立ち上がる。「お嬢ちゃんなら分かってくれると思ったんだけどね。わたしが甘かったようだねぇ……」
 楓はさとみに背を向けて壁に向かって歩き出す。
「待って!」さとみが楓に声をかける。「……本当に、わたしたちの味方なのね?」
「……そうさ」楓は言うとさとみに振り返る。涙が頬を伝っていた。それを乱暴に手で拭う。「ちぇっ、何だよこりゃあ…… こんなものガキの時しか流しゃしなかったのにさ……」
「分かった、楓、あなたを信じるわ!」
「嬉しい事を言っておくれじゃないか……」
 さとみと楓は手を取り合った。


つづく


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