お話

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コーイチ物語 2 「秘密の消しゴム」 10

2008年09月04日 | コーイチ物語 2(全161話完結)
 エレベーターの中で、コーイチは洋子と並んで立っていた。
 ・・・エレベーターに乗っていると、どうして階を示す数字を見てしまうんだろう。止まってから、降りたい階かどうか確認すれば良いんだよなぁ。見続けている必要は無いんだよなぁ。でも、大勢が乗っていて、会話がはばかられそうな時なんか、黙々と数字が変わるのを見てしまうよなぁ・・・
 コーイチはふと視線を感じた。洋子の方を見た。それに会わせるように、洋子はプイと反対の方に顔を向けた。・・・なんだ、なんだあ? そっちが見ていたんだろうに。よっぽど嫌われちゃったんだなぁ。ま、いいか・・・
 コーイチは目を階を示す数字に戻した。また視線を感じた。洋子の方を見る。洋子はあわてた様子で視線を避け、反対の方を向いてしまった。
 何なんだろう! コーイチは唇を尖らせた。言いたい事があれば、言ってくれれば直す・・・かも知れないのに。よし、向こうが言い出す前に、こっちから切り出してやろう。
「あのね、芳川さん・・・」
 コーイチは洋子の正面に立ち、エレベーターのドアに背をもたせ、スラックスのポケットに手を突っ込んで、先輩らしい態度を示そうとした。
「はい?」
 洋子はむすっとした顔をコーイチに向けた。
「その、なんだ・・・」コーイチはにらみつけてくる洋子の視線に、しどろもどろになってしまった。・・・さっきは避けていたのに・・・ でも、ここは踏ん張らなければな、先輩なんだから。「今日初めて・・・うわわわわ!」
 エレベータは六階に着き、ドアが開いた。支えを無くしたコーイチは、そのままロビーへ後ろ向きのまま倒れ込んで、尻餅をついてしまった。ロビーにいた人たちは、呆れた顔をコーイチに向けた。中には肘で突つき合って、くすくす笑っている女子社員もいた。・・・なんか、カッコ悪いよなぁ・・・
 尻餅をついているコーイチの脇に洋子は立った。
「コーイチさん・・・」洋子はコーイチを見下ろし、溜め息をつきながら、頭を左右に振った。「大丈夫ですか? とってもカッコ悪かったですけど・・・」
「まあ、そんな事もあるさ」コーイチは平然とした声を出したが、よろよろと立ち上がった。無意識に尻をなでている。洋子は嫌そうな顔をした。「さ、気にしないで、次へ行こう!」
「さっきは何のお話だったんですか?」
「え?」コーイチは洋子の強い視線に戸惑ってしまった。急に怖気づいてしまった。「いや、別に、もういいや・・・」
「もういいって、わたしを軽く見たような言い方ですね・・・」
 洋子は怖い顔をした。メガネのレンズがきらりと光った。コーイチの喉がゴクリと鳴った。
「そんなつもりは無いよ・・・ それより、今は第六会議室の方が優先だろう?」
「・・・そうですね」
 洋子は不満そうな顔をしたが、壁に掲示してある六階の案内図の前に進み、右の親指と人差し指で、メガネのフレームの右側の上下を挟んで、位置を直した。しばらく案内図を見ていたが、洋子はすたすたと右の廊下を歩きだした。

       つづく



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