要塞衛星を発つと、ジェシルにオーランド・ゼムから通信が入った。
「ジェシル」ジェシルは返事をしない。「衛星の動きが止まったのを確認した。上手く行ったようだね」
ジェシルは答えない。「おい、ジェシル、聞こえているんだろう?」と、何度もオーランド・ゼムは呼び掛ける。……高見の見物をしていたようなヤツとは話したくないわよ! ジェシルは鼻を鳴らす。
「……ハニー」次に聞こえてきたのはアンドロイドのハービの金属的な声だった。「例の二人は救出できたのか?」
「あら、ハービィ!」ジェシルは飛び切り機嫌の良い声で答える。「ええ、救出できたわ。リタおばあちゃんはちょっとお疲れって感じだけどね」
「リタおばあちゃん……? ハニー、それは『姫様』の事か?」
「もう『姫様』はお終いなのよ。だから、リタおばあちゃんよ」
「……了解した」少し間があってからハービィは返事をした。オーランド・ゼムに訊いていたのだろう。「もうすぐそちらに着く。そこで待っていてくれ、ハニー」
ジェシルは周りの景色を眺める。意外と星々が輝いていて、暗いと言う印象が無い。ジェシルはつい、最近ヒットしたラブソングである「星々をすべて花束に」を口ずさんだ。
「君に奉げよう 愛の証しを 宇宙に輝く星々を すべて残さず花束にして……」
「おや、ジェシル、良い声じゃないか」オーランド・ゼムの声がした。通信を切っていなかったのだ。「君は、歌手でも成功しただろうね」
「ふん!」ジェシルは通信を切った。顔が真っ赤になっている。「……くそう、オーランド・ゼムめぇ!」
しばらくして、オーランド・ゼムの旧型で銀色の円盤型の宇宙船が姿を見せた。発着口が開いた。
ジェシルはノラの宇宙船を伴って乗り込んだ。発着口が閉じた。
オーランド・ゼムが待っていた。ジェシルは宇宙艇から立ち上がる。ノラの宇宙船の搭乗口が開いて、先ずノラが降りてきた。物珍しそうに周囲を見回している。続いてミュウミュウがリタの手を握り、支えるようにして降りてきた。オーランド・ゼムはリタたちに歩み寄る。優しい笑顔を浮かべている。リタはオーランド・ゼムを見つめる。
「……よく来てくれましたね」
オーランド・ゼムの声は丁寧で優しい。
「オーランド・ゼム……」
リタはミュウミュウの手を離し、オーランド・ゼムの前に立った。その瞳は再会の感激で潤んでいる。
「疲れたでしょう? ここを出てすぐの部屋でお休み下さい」
「いえ、わたくしは大丈夫です」
「でも、リタ様」ミュウミュウが言う。「今日は色々とあり過ぎました。少しお休みを致しませんと……」
「是非、そうなさって下さい」オーランド・ゼムは笑む。「それと、その部屋にはあなたに似合いそうな服などを一式揃えてありますよ」
「リタ様、それならば、尚の事、身だしなみも整えて、改めた方が宜しいかと」
「……分かりました。おっしゃる通りに致しましょう」
「ははは、素直なご様子に変わりはありませんね」オーランド・ゼムが明るく笑う。「では、わたしがご案内しましょう。……ジェシルは先にコックピットに行っていてくれ」
オーランド・ゼムはリタとミュウミュウと共に出て行った。
「……あの、ジェシルさん……」
しんとなった中で、ノラがおずおずと声をかけてきた。
「ああ、ノラ……」ジェシルは笑顔をノラに向ける。「あまりに一方的な展開で言葉を失っていたわ」
「わたしもです……」
「そう言えば、お礼も言われていなかったわねぇ」ジェシルは少しむっとする。「イヤな感じだわ!」
「いえ、そんな事ありません。ミュウミュウさん、宇宙船の中でお礼を言ってくれました」
「リタおばあちゃんはどうだったの?」
「……特に何も……」
「でしょう!」ジェシルはあからさまにイヤな顔をした。「これだから、高貴な身分を鼻に掛ける連中って嫌いなのよね!」
ノラは返事に困ったようで、曖昧な笑みを浮かべている。
「……それで、ノラはこれからどうするの? わたしと一緒にここに居る?」ジェシルはわざと「一緒に」を強調して言うと、ノラは顔を赤くして下を向く。この反応が面白い。「どうする? わたしからオーランド・ゼムに言えば、問題ないわよ」
「……はい」ノラは小さく答えて顔を上げる。ジェシルの予想に反して、ノラは真顔になっていた。「わたし、宇宙パトロールに入りたいです! そのためにうんと勉強して、絶対合格して見せます!」
「あら……」
「だって、そうすれば……」ノラは赤くなって下を向く。「ずっと、ジェシルさんと一緒に、本当に一緒に居られますから……」
「そう……」
「ジェシルさん!」ノラはジェシルの両手を取ると強く握った。「寂しい思いをさせるかもしれませんが、わたしが宇宙パトロールに合格するまでの辛抱ですから!」
「ええ、そうね……」真っ直ぐに見つめてくるノラに、多少戸惑いながらもジェシルは笑顔で返した。「待っているわ。それと、試験は学科だけじゃないわよ。実技もあるわ」
「大丈夫です、色々と調べていますから!」ノラはジェシルの手を離した。「じゃあ、帰って勉強します!」
ノラは、左手を握り胸元に当てる宇宙パトロールの正式な敬礼をして見せた。思わずジェシルも返した。
ノラは自分の宇宙船に乗り込んだ。ジェシルは発着口を開けた。ノラは勢い良く飛び立って行った。
「……頼もしい後輩になりそうね」
ジェシルはつぶやくと、笑顔を浮かべた。
つづく
「ジェシル」ジェシルは返事をしない。「衛星の動きが止まったのを確認した。上手く行ったようだね」
ジェシルは答えない。「おい、ジェシル、聞こえているんだろう?」と、何度もオーランド・ゼムは呼び掛ける。……高見の見物をしていたようなヤツとは話したくないわよ! ジェシルは鼻を鳴らす。
「……ハニー」次に聞こえてきたのはアンドロイドのハービの金属的な声だった。「例の二人は救出できたのか?」
「あら、ハービィ!」ジェシルは飛び切り機嫌の良い声で答える。「ええ、救出できたわ。リタおばあちゃんはちょっとお疲れって感じだけどね」
「リタおばあちゃん……? ハニー、それは『姫様』の事か?」
「もう『姫様』はお終いなのよ。だから、リタおばあちゃんよ」
「……了解した」少し間があってからハービィは返事をした。オーランド・ゼムに訊いていたのだろう。「もうすぐそちらに着く。そこで待っていてくれ、ハニー」
ジェシルは周りの景色を眺める。意外と星々が輝いていて、暗いと言う印象が無い。ジェシルはつい、最近ヒットしたラブソングである「星々をすべて花束に」を口ずさんだ。
「君に奉げよう 愛の証しを 宇宙に輝く星々を すべて残さず花束にして……」
「おや、ジェシル、良い声じゃないか」オーランド・ゼムの声がした。通信を切っていなかったのだ。「君は、歌手でも成功しただろうね」
「ふん!」ジェシルは通信を切った。顔が真っ赤になっている。「……くそう、オーランド・ゼムめぇ!」
しばらくして、オーランド・ゼムの旧型で銀色の円盤型の宇宙船が姿を見せた。発着口が開いた。
ジェシルはノラの宇宙船を伴って乗り込んだ。発着口が閉じた。
オーランド・ゼムが待っていた。ジェシルは宇宙艇から立ち上がる。ノラの宇宙船の搭乗口が開いて、先ずノラが降りてきた。物珍しそうに周囲を見回している。続いてミュウミュウがリタの手を握り、支えるようにして降りてきた。オーランド・ゼムはリタたちに歩み寄る。優しい笑顔を浮かべている。リタはオーランド・ゼムを見つめる。
「……よく来てくれましたね」
オーランド・ゼムの声は丁寧で優しい。
「オーランド・ゼム……」
リタはミュウミュウの手を離し、オーランド・ゼムの前に立った。その瞳は再会の感激で潤んでいる。
「疲れたでしょう? ここを出てすぐの部屋でお休み下さい」
「いえ、わたくしは大丈夫です」
「でも、リタ様」ミュウミュウが言う。「今日は色々とあり過ぎました。少しお休みを致しませんと……」
「是非、そうなさって下さい」オーランド・ゼムは笑む。「それと、その部屋にはあなたに似合いそうな服などを一式揃えてありますよ」
「リタ様、それならば、尚の事、身だしなみも整えて、改めた方が宜しいかと」
「……分かりました。おっしゃる通りに致しましょう」
「ははは、素直なご様子に変わりはありませんね」オーランド・ゼムが明るく笑う。「では、わたしがご案内しましょう。……ジェシルは先にコックピットに行っていてくれ」
オーランド・ゼムはリタとミュウミュウと共に出て行った。
「……あの、ジェシルさん……」
しんとなった中で、ノラがおずおずと声をかけてきた。
「ああ、ノラ……」ジェシルは笑顔をノラに向ける。「あまりに一方的な展開で言葉を失っていたわ」
「わたしもです……」
「そう言えば、お礼も言われていなかったわねぇ」ジェシルは少しむっとする。「イヤな感じだわ!」
「いえ、そんな事ありません。ミュウミュウさん、宇宙船の中でお礼を言ってくれました」
「リタおばあちゃんはどうだったの?」
「……特に何も……」
「でしょう!」ジェシルはあからさまにイヤな顔をした。「これだから、高貴な身分を鼻に掛ける連中って嫌いなのよね!」
ノラは返事に困ったようで、曖昧な笑みを浮かべている。
「……それで、ノラはこれからどうするの? わたしと一緒にここに居る?」ジェシルはわざと「一緒に」を強調して言うと、ノラは顔を赤くして下を向く。この反応が面白い。「どうする? わたしからオーランド・ゼムに言えば、問題ないわよ」
「……はい」ノラは小さく答えて顔を上げる。ジェシルの予想に反して、ノラは真顔になっていた。「わたし、宇宙パトロールに入りたいです! そのためにうんと勉強して、絶対合格して見せます!」
「あら……」
「だって、そうすれば……」ノラは赤くなって下を向く。「ずっと、ジェシルさんと一緒に、本当に一緒に居られますから……」
「そう……」
「ジェシルさん!」ノラはジェシルの両手を取ると強く握った。「寂しい思いをさせるかもしれませんが、わたしが宇宙パトロールに合格するまでの辛抱ですから!」
「ええ、そうね……」真っ直ぐに見つめてくるノラに、多少戸惑いながらもジェシルは笑顔で返した。「待っているわ。それと、試験は学科だけじゃないわよ。実技もあるわ」
「大丈夫です、色々と調べていますから!」ノラはジェシルの手を離した。「じゃあ、帰って勉強します!」
ノラは、左手を握り胸元に当てる宇宙パトロールの正式な敬礼をして見せた。思わずジェシルも返した。
ノラは自分の宇宙船に乗り込んだ。ジェシルは発着口を開けた。ノラは勢い良く飛び立って行った。
「……頼もしい後輩になりそうね」
ジェシルはつぶやくと、笑顔を浮かべた。
つづく
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