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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第三章 窓の手形の怪 17

2022年01月02日 | 霊感少女 さとみ 2 第三章 窓の手形の怪
 気がついたみつはうっすらと目を開ける。すぐ眼に前に目を閉じたミツルの顔があった。
「ぬっ!」
 みつは唸ると身を捩る。抱きしめているミツルの腕に力がこもる。
「放せ! この虚け者め!」
 みつはさらに身を捩る。ミツルが腕を解いた。みつは転がりながらミツルから離れ、立ち上がる。みつの刀は壁に突き立っていた。
「ふふふ……」ミツルはゆっくりと立ち上がる。「これは相打ちになるのかな? わたしも君も怪我一つないが?」
「くっ……」みつは悔しそうな表情でミツルを見つめる。「ならば、今一度勝負だ!」
「だがね、君はほんの一瞬ではあるが気を失っていたね。わたしはそうでは無かったよ」
「お前は刀を投げつけると言う卑劣な手段に出た。剣術をなす者として許させる事ではない」
「そうか。じゃあ、もう一度勝負をしても良いけど……」ミツルはにやりと笑う。「君の唇は柔らかかったな。男を知らぬ乙女のそれだったよ」
「なっ!」みつは驚愕し、虎之助と冨美代を見た。「何の事です?」
「……言いにくいんだけどさ」虎之助が言う。「みつさんが気を失っている時、そいつがキスをしてたんだよ……」
「き、きすう?」
「みつ様……」冨美代が顔を真っ赤にして呟くように言う。「その、接吻の事ですわ……」
「接吻ですと!」みつは目を丸くする。「わたしが? このミツルと言う女と? 女と? ……ぶっ!」
 みつは唾を吐くと右の手の甲で幾度も自分の唇を拭った。
「何と言う事をしてくれたのだ、お前は!」みつはミツルを睨みつける。「正気の沙汰とは思えんな!」
「言ったはずだよ。わたしと一緒になってくれと」ミツルは平然として言う。「接吻は恋人の、そして、夫婦の契りだよ」
 みつは怒りと屈辱とでからだを震わせている。と、その場に座り込み、脇差を抜いた。切っ先が窓から射す月光に光る。
「最早ここまで!」
 みつは切っ先を己が腹に向け、柄を両手で握った。自害する気だ。
「みつ様! やめてくれい!」豆蔵が窓を叩いて叫ぶ。「おい、虎之助! みつ様を止めやがれ!」
「おみっちゃん!」竜二も叫ぶ。「これは事故だ! 誰も気にしちゃいねぇよう!」
「みつさん!」虎之助がみつに駈け寄り、みつの手を握り、必死に止める。「ダメ! あんな糞女のせいで、そんな事をしちゃダメ!」
「止めないでください! この屈辱は己で濯がねばなりません!」
「でも、こんな濯ぎ方は間違っているわよう!」
「これは武士としての始末です! お放し下さい!」
「イヤ、死んでも放さない!」
 と、ミツルが一歩前に出た。その顔には冷たい笑みが浮かんでいる。虎之助がミツルを睨みつける。しかし、ミツルは虎之助を無視した。
「丁髷女子……」ミツルは笑んだままみつを見る。「それで良いのかね?」
「何だと!」みつはミツルを睨みつける。「屈辱を受けてまで彷徨う事はせぬ!」
「そう言う事じゃないよ。……屈辱を受けたと言う事は、君の負けだ。違うかい?」
「くっ……」みつは悔しそうな表情で唇を咬む。「それは、否定は出来ぬ……」
「そうさ、君はわたしを斬れなかった。わたしが刀を投げつけるとは思わなかったからだ。そんな捨て身の戦法があるとは知らなかった君は、まだまだ修行とやらが足りないな」
「あれは卑怯の戦法だ、邪道だ!」
「ふふふ、邪道も戦法さ。正道だけが道じゃない。実際、わたしのような者、この女男氏のような者(そう言って虎之助を顎で示す)、そして、君のような真の男装の麗人…… それぞれは人によっては邪道だよ。でも、自分自身は正道と見ている」
「何が言いたいのだ!」
「道には邪も正も無いって事さ。事実だけが残る。その事実とは、君の負けだ」
 ミツルの言葉に、みつは脇差を手放した。床に転がった脇差を虎之助が素早く取り上げる。そして、振り向きざまにミツルの腹に脇差を繰り出した。しかし、それを読まれていたのか、ミツルは虎之助の手に己が手刀を当てた。激痛に顔を歪め、虎之助は脇差を落とした。ミツルがそれを遠くの壁に蹴り飛ばした。
「……さあ、これで君は丸腰だ。君の刀は全てかわした事になる。つまりは、君の負けの確定だ」ミツルの目が妖しく光る。「約束通り、わたしのものになってもらうよ」


つづく


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