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コーイチ物語 「秘密のノート」 39

2022年08月31日 | コーイチ物語 1 5) 部長・吉田吉吉  
 最初は小さな「え?」だった。その場の時間が止まったように、皆動かなかった。
 次は少し大きな「えー!」だった。清水は持っていた特製バッグをドンガラガッシャンシャンと床に落とした。林谷は着ていたキラキラ光る青いスーツの右肩がズルッと脱げた。印旛沼は仕込んでいたトランプを袖口からバババババッと発射してしまった。西川は横断歩道の歩けますマークのポーズのまま固まっていた。
 そして最後はロビー中に響き渡る大声で「ええええええええええ!!!」だった。
 コーイチだけが、にまあっとしていた。良かった! 良かった! 良かった! 課長の命に別状はないんだ! とんだボクの取り越し苦労だった! あんな夢にびくびくおどおどしていたなんて、なんてボクは愚かだったんだろう! わは、わは、わはははははは……! 
「北口課長!」
 大声が治まり、西川が言った。
「朝から冗談は止めてください!」
「冗談って、失礼な!」
 岡島が口を挟む。
 北口はまた両手を左右に振り否定する仕草をし、西川に答えた。
「西川君、冗談が嫌いな君なのは分かっているが、これは冗談ではないんだ」
「でも、あの吉田課長がどうして……」
 清水がよっこらしょっとバッグを持ち上げながら言った。何が入っているんだろう、あのバッグ…… コーイチは不思議そうに清水を見ていた。
「あのって、失礼じゃないか!」
 岡島が口を挟む。
「確かに理由が分からんのだよ。社内中大騒ぎなんだ」
 北口が清水に答えた。
「賄賂出せそうな懐事情とは思えないですもんねぇ……」
 林谷がスーツを着直しながら言った。ぴったりスーツがどうしてずれるんだろう…… コーイチは不思議そうに林谷を見た。
「賄賂って、失礼だろう!」
 岡島が口を挟む。
「まぁ、うちは安月給だからねぇ……」
 北口が林谷に答えた。
「どんな手品を使ったのか……」
 印旛沼が散らかったトランプを拾い集めながら言った。他にどんな種を仕込んでいるんだろう…… コーイチは不思議そうに印旛沼を見た。
「手品って、なんて言い草だ!」
 岡島が口を挟む。
「手品なら種も仕掛けもあるんだろうが、これにはないんだよ」
 北口が印旛沼に答えた。
 これらのやり取りを憮然とした顔で眺めていた守衛が突然立ち上がり、コーイチめがけて歩き出した。

       つづく

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