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ジェシル、ボディガードになる 116

2021年05月17日 | ジェシル、ボディガードになる(全175話完結)
 ジェシルは通路に出るとコックピットへ向かう。……いつまでこんな事を続けるつもりなのかしら。ジェシルは不満気に口を尖らせる。……早く帰りたいわ!
 歩いていると、オーランド・ゼムが立っていた。ジェシルを待っていたようで、笑顔を向けてくる。ジェシルは笑わない。
「あら? リタと一緒じゃなかったの?」
「やっぱり疲れたようでね、眠ってしまったのさ。ミュウミュウが付き添ってくれている」
「あなたが居るより安心ね」
「ははは、相変わらずきついねぇ……」
「それで? 人集めはもう終わりかしら?」
「その事なんだが、まだいるのだよ」
「やれやれ……」ジェシルはわざと大きな溜め息をついてみせる。「……もう、うんざりなんだけど」
「ビョンドルに許可をもらっているのだよ、ジェシル」オーランド・ゼムは勝ち誇ったように笑む。「わたしが終了と言うまで、君はわたしの許で働いてもらうしかないのだよ」
「……分かったわよ!」ジェシルは諦めた。「……で、あと何人集めるの?」
「実はあと一人だよ」
「そうなんだ。それで、今度はどこのおじいちゃん? それとも、おばあちゃんかしら?」
「それは後で話そう」オーランド・ゼムはにやりと笑う。「それよりもだ……」
「何が、それよりもだ、よ!」ジェシルはむっとした顔をする。「わたしはさっさと終わらせて、あなたから解放されたいのよ!」
「ジェシル、君は強いのだねぇ……」オーランド・ゼムはジェシルの怒りを無視する。「感心しているのだよ」
「何の話をしているのか、さっぱり分からないわ!」
「実は実況を観せてもらっていたのだよ」
「実況……?」ジェシルは思い切りイヤな顔をする。「実況って、あの、ミルカが撮影していたヤツ?」
「そう言う事だ」オーランド・ゼムがうなずく。「いやあ、大したものだねぇ。俊敏な動きもさることながら、あのビキニのユニホームが実に良い。若返った気分になったよ。それに、君の胸やお尻の豊かさと来たら……」
「ふん! ミルカのヤツめぇ!」ジェシルは鼻を鳴らし、オーランド・ゼムを睨みつける。「あなた、一体、何を観ていたのよう!」
「そう怒るな。それに、楽しんでいたのは、わたしだけでは無いはずだ。全宇宙の男たちも楽しんだはずさ」
「全く、どいつもこいつも!」
 オーランド・ゼムは、そんなジェシルの様子を楽しそうに見ている。
「あ、そうだわ!」ジェシルは言うと首元に手をやった。「終わったから、これは返しておくわね」
 ジェシルはネックレスを外し、オーランド・ゼムに差し出した。オーランド・ゼムは受け取った。
「リタおばあちゃん、このネックレスを見て、ミュウミュウと一緒に来る決心をしたそうよ」ジェシルが言う。「おばあちゃんの思い入れがたっぷり詰まった物だったようね」
「ふむ……」オーランド・ゼムはネックレスをしげしげと見つめた。ネックレスは通路の照明にきらりと光った。「……そう言えば、思い出したよ。わたしに足を洗えとしつこく言って来ていたな。厄介なお嬢様だったな……」
「今でも自分を忘れないでいてくれているんだって、思ったそうよ」
「そうか……」オーランド・ゼムは笑む。「単なる発信器として使ったのだがね、大きな収穫となったわけだな」
「オーランド・ゼム!」ジェシルは怒る。「そう言う言い方は無いじゃない! リタは、ずっと、あなたを慕っていたのよ!」
「そう怒るな…… わたしだって、こうなる事も想定して、リタのために色々と準備をしていたのだよ」
「まあ、確かにそのようね……」
 ジェシルは言う。オーランド・ゼムはわざわざリタのために部屋を用意していたのだ。全く考えに入れていなかったと言う訳ではなさそうだ。
「それに、もう『姫様』とは呼ばないでくれと何度も言っていたよ。なんだか辛そうだったな」
「要塞衛星で一騒動あった時、『姫様』の名をもってしても収まらなかったわ。ジョウンズがそれをさらに煽って…… すっかり権威が無くなってしまったと感じたのね」
「一騒動は、君が起こしたんじゃないのかね?」オーランド・ゼムがじろりとジェシルを見る。「責任の幾らかは君にもありそうだねぇ」
「……そうかもしれないけど……」
「ははは、冗談だよ、気にするな」オーランド・ゼムは笑う。「元々、権威なんて無かったのさ。利用されていただけだ。……かく言う私もその一人だったと言えるだろうな。気の毒をしたと今は思っているよ」
「じゃあ、うんと優しくしてあげる事ね」
「そうだな」オーランド・ゼムは真顔で言う。「もう一度、顔を出してくるよ。目を覚ました時にわたしが居る方が良いだろうからね」
「じゃあ、コックピットで待っているわね」ジェシルは一歩踏み出してから、オーランド・ゼムに振り向く。「ねえ。アーセルもコックピットに居るの?」
「ああ、ジェシルの映像を見ながらぐびぐび飲んでいたよ」
「……あのスケベじじいめ!」ジェシルは通路の先を睨みつける。「良いわ! 何かしでかしてきたら、引っ叩いてやるわ!」
 ジェシルは通路を歩いて行った。
「……リタ・ヴェルドヴィックか……」
 オーランド・ゼムはネックレスを握りしめると、リタの部屋の方へと向かった。


つづく


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