「……あんた、どうして……?」
さゆりが驚いた顔でさとみを見る。それから振り返り、大の字になっているさとみを見る。
「そうか。あんた……」
さゆりはつぶやきながら背後に立っているさとみに振り返る。
「そうよ!」さとみが言う。「霊体を抜け出させたのよ!」
さとみは言うと胸を張る(見た目では変化はない)。
「しかもね、それだけじゃないの」
さとみはさらに胸を張って(やはり見た目に変化はない)、右手を差し出して、開いて見せた。
「……あんた、それって……」
「そうよ!」
さとみの手には、片岡のペンダントが握られていた。
「どうして、そんなもの持ってんのよう!」さゆりが語気を荒げた。「あんた、床に置いたじゃないのさ!」
「置いたわよ」さとみが言う。「あなたが気を打って来る前に、ご丁寧にも『さようなら』なんて言ってくれたから、タイミングが分かったのよ」
「何だい、その『たいみんぐ』ってのは?」
「え~とね……」さとみは考え込む。「チャンス(さゆりは分からないと言った顔つきだ)…… ポイント(さゆりはますます分からないと言う顔をする)…… そうそう、絶好の機会だったのよ!」
「だったら、最初からそう言いなよ!」さゆりは口を尖らせる。「……で、何が絶好の機会だったんだい?」
「だからさ!」さとみはいらいらしながら答える。「あなたが気を打つ直前に、わたしはしゃがんでペンダントを拾って、それから霊体を抜け出させたのよ。霊体って、抜け出す時の生身の状況を引き継ぐから」
「なっ……」
さゆりは絶句する。さとみはさらに得意気に胸を張る(何度も言うが、全く変わらない)。
「わははは! さすがはさとみだ!」そう高らかに笑ったのは静だった。「そのペンダントがありゃ、お前の衝撃波は効かないだろうね!」
「さとみ殿!」みつの声だ。感心した顔をしている。「お見事です! 斯様な危機的状況で、よくぞそこまでの事がお出来になりましたな!」
「さとみ様!」冨美代が自分の両頬を両手で挟んでいる。「惚れてしまいそうですわ……」
「やかましいわ!」さゆりが怒鳴る。「周りでごちゃごちゃ言ってんじゃないわよ! さとみには効き目が無くってもね、あんたらやあっちの生身のヤツらには十分に効くんだよ!」
さゆりは両の手の平を皆の方へと向けた。
「ダメよ! させないわ!」
さとみは言うと、さゆりの両手首をつかんで、手の平を自分のお腹に当てさせた。
「……おい、放せよ!」
さゆりがもがく。しかし、びくともしない。ペンダントの力をさとみが受けているようだ。さゆりの顔がさとみのすぐ目の前にある。さとみはじっとさゆりを見つめる。
「ねぇ、さゆり、もうおしまいにしてよ」さとみは真顔で言う。「あなたはあの黒い影に操られているだけなのよ。だから、あなたがそう思えば、きっとあの世へ逝けるはずだわ。そして、今度はもっと良くなれるはずなの」
「さとみ……」
さゆりのもがいていた手が止まる。さゆりの表情も穏やかなものになって行く。
「……わたしの事、そんなに心配してくれてんだ……」
「そうよ。わたしはあなたがとても気の毒なの」
「そうかい…… わたしの事をそんなに思ってくれているなんて……」
さゆりの手から力が抜けた。さとみはゆっくりと、さゆりの手首をつかんでいた手を力を緩める。それに連れて、さゆりの手も下がって行く。
「良かった、分かってくれて……」
さとみはほっと息をつく。さゆりは笑む。さとみも笑みを返し、さゆりから少し離れた。さゆりは顔を伏せた。
「さとみ、ありがとう……」泣き出しそうな声で、さゆりが言う。すっと顔を上げた。泣いていなかった、邪悪な笑みが貼り付いていた。「……な~んて、なるわけないじゃない!」
さゆりは声を荒げると、左右に手を開き、手の平から衝撃波を打ち出そうとした。さとみは咄嗟にさゆりの両手首をつかんで、手の平を自分のお腹に向けた。打ち出された衝撃波が、さとみのお腹を直撃する。さゆりとさとみの間に強烈な青白い光が立ち昇っている。
「あはは!」さゆりが笑う。「いくら勾玉を持ってたって、こんな近くからじゃ、そのうち消えちまうぞ! イヤなら手を放せよ」
「そんな事をしたら、みんなに向かって打つんでしょ? みんなには絶対手を出させないわ……」さとみが苦しそうな声で言う。「あなたって、根っからの嘘つきなのね! もう怒ったからね! もう知らないからね!」
「あはは、怒ろうが知らなかろうが、もうおしまいさ。……綾部さとみ、お前の霊体は消えて無くなり、空っぽになった生身だけが死ぬまで生きるのさ!」
つづく
さゆりが驚いた顔でさとみを見る。それから振り返り、大の字になっているさとみを見る。
「そうか。あんた……」
さゆりはつぶやきながら背後に立っているさとみに振り返る。
「そうよ!」さとみが言う。「霊体を抜け出させたのよ!」
さとみは言うと胸を張る(見た目では変化はない)。
「しかもね、それだけじゃないの」
さとみはさらに胸を張って(やはり見た目に変化はない)、右手を差し出して、開いて見せた。
「……あんた、それって……」
「そうよ!」
さとみの手には、片岡のペンダントが握られていた。
「どうして、そんなもの持ってんのよう!」さゆりが語気を荒げた。「あんた、床に置いたじゃないのさ!」
「置いたわよ」さとみが言う。「あなたが気を打って来る前に、ご丁寧にも『さようなら』なんて言ってくれたから、タイミングが分かったのよ」
「何だい、その『たいみんぐ』ってのは?」
「え~とね……」さとみは考え込む。「チャンス(さゆりは分からないと言った顔つきだ)…… ポイント(さゆりはますます分からないと言う顔をする)…… そうそう、絶好の機会だったのよ!」
「だったら、最初からそう言いなよ!」さゆりは口を尖らせる。「……で、何が絶好の機会だったんだい?」
「だからさ!」さとみはいらいらしながら答える。「あなたが気を打つ直前に、わたしはしゃがんでペンダントを拾って、それから霊体を抜け出させたのよ。霊体って、抜け出す時の生身の状況を引き継ぐから」
「なっ……」
さゆりは絶句する。さとみはさらに得意気に胸を張る(何度も言うが、全く変わらない)。
「わははは! さすがはさとみだ!」そう高らかに笑ったのは静だった。「そのペンダントがありゃ、お前の衝撃波は効かないだろうね!」
「さとみ殿!」みつの声だ。感心した顔をしている。「お見事です! 斯様な危機的状況で、よくぞそこまでの事がお出来になりましたな!」
「さとみ様!」冨美代が自分の両頬を両手で挟んでいる。「惚れてしまいそうですわ……」
「やかましいわ!」さゆりが怒鳴る。「周りでごちゃごちゃ言ってんじゃないわよ! さとみには効き目が無くってもね、あんたらやあっちの生身のヤツらには十分に効くんだよ!」
さゆりは両の手の平を皆の方へと向けた。
「ダメよ! させないわ!」
さとみは言うと、さゆりの両手首をつかんで、手の平を自分のお腹に当てさせた。
「……おい、放せよ!」
さゆりがもがく。しかし、びくともしない。ペンダントの力をさとみが受けているようだ。さゆりの顔がさとみのすぐ目の前にある。さとみはじっとさゆりを見つめる。
「ねぇ、さゆり、もうおしまいにしてよ」さとみは真顔で言う。「あなたはあの黒い影に操られているだけなのよ。だから、あなたがそう思えば、きっとあの世へ逝けるはずだわ。そして、今度はもっと良くなれるはずなの」
「さとみ……」
さゆりのもがいていた手が止まる。さゆりの表情も穏やかなものになって行く。
「……わたしの事、そんなに心配してくれてんだ……」
「そうよ。わたしはあなたがとても気の毒なの」
「そうかい…… わたしの事をそんなに思ってくれているなんて……」
さゆりの手から力が抜けた。さとみはゆっくりと、さゆりの手首をつかんでいた手を力を緩める。それに連れて、さゆりの手も下がって行く。
「良かった、分かってくれて……」
さとみはほっと息をつく。さゆりは笑む。さとみも笑みを返し、さゆりから少し離れた。さゆりは顔を伏せた。
「さとみ、ありがとう……」泣き出しそうな声で、さゆりが言う。すっと顔を上げた。泣いていなかった、邪悪な笑みが貼り付いていた。「……な~んて、なるわけないじゃない!」
さゆりは声を荒げると、左右に手を開き、手の平から衝撃波を打ち出そうとした。さとみは咄嗟にさゆりの両手首をつかんで、手の平を自分のお腹に向けた。打ち出された衝撃波が、さとみのお腹を直撃する。さゆりとさとみの間に強烈な青白い光が立ち昇っている。
「あはは!」さゆりが笑う。「いくら勾玉を持ってたって、こんな近くからじゃ、そのうち消えちまうぞ! イヤなら手を放せよ」
「そんな事をしたら、みんなに向かって打つんでしょ? みんなには絶対手を出させないわ……」さとみが苦しそうな声で言う。「あなたって、根っからの嘘つきなのね! もう怒ったからね! もう知らないからね!」
「あはは、怒ろうが知らなかろうが、もうおしまいさ。……綾部さとみ、お前の霊体は消えて無くなり、空っぽになった生身だけが死ぬまで生きるのさ!」
つづく
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