「え? 今のって、その彼がやったって言うの?」
ジェシルは呆れた表情をオーランド・ゼムに向ける。オーランド・ゼムはうなずく。……こんなすごい武器、いいえ、もうこれは兵器ね! こんなのがあるのなら、シンジケートどもはあっという間に殲滅できるわ! ジェシルは呆れた表情から残忍な笑みへと変わる。
「……では、ハービィ。ムレイバ星へ降りてくれ」オーランド・ゼムがハービィに指示を出す。「場所は……」
「着陸地点はこちらで指示する」スピーカーから声がする。若々しい張りのある声だ。「年寄りは、知ったかぶらないで、大人しくしていてくれ」
「何でぇ! 若造がぁ!」怒鳴ったのはアーセルだった。「年寄りを馬鹿にするんじゃねぇ!」
「馬鹿にされたくなきゃ、黙っていろよ」スピーカーからの声にはあからさまな軽蔑が含まれていた。「そして、過去の栄光にでも浸っていろ!」
「何だとおぉぉ!」
アーセルは怒りに任せて、空になったボトルをスピーカーめがけて投げつけた。しかし、高い所に位置するスピーカーには届かなかった。
「まあまあ、アーセル……」オーランド・ゼムは苦笑する。「彼はわたしたちと意志を同じくする者なのだよ。歓迎しなくてはね」
「ふん!」
アーセルは鼻を鳴らし、ぶつぶつと文句を言い続けている。
「着陸地点を了解しました」ハービィが言う。ムハンマイドから指示を受けたのだろう。「予定では三十分後に着陸しますです」
「遅いな」スピーカーの声は苛ついている。「ボクは忙しいんだ。早く来てくれなきゃ困るんだ」
「この宇宙船の性能限界を試みても二十分は掛かります」ハービィが答える。「ですが、故障の可能性が上がります。それでも良ければ、そう致しますです」
「……まあ、良いや、分かったよ」スピーカーの声は小馬鹿にしている。「人も機械も、年寄りには無理をさせられないものな。……では三十分後に」
スピーカーから「ぶつっ」と音がして静かになった。ハービィは何事も無かったかのように操縦をしている。アーセルは、いつの間に取りだしたのか、新しいボトルに直接口を付けてぐびぐびと飲んでいる。そして「若造がぁ……」とつぶやいている。オーランド・ゼムは、そんなアーセルを見て笑っていた。
「ねぇ……」ジェシルはオーランド・ゼムに話しかける。「ムハンマイドって人、年寄りが嫌いのようね」
「ああ、そうなんだ」オーランド・ゼムが言う。「それも徹底的に、存在を消してしまいたいくらいにね」
「極端ねぇ……」
「父親が原因なんじゃないかねぇ……」
「シンジケートの大ボスとか言う?」
「そうだ」オーランド・ゼムはうなずく。「ムハンマイドはずっと父親やその周りの大人たちを見てきた。先の短い連中がみっともないくらいに利権やら権力やらにしがみついる。先の短い連中は新しい事を嫌う。なので、有能な若い者たちに嫉妬して潰すところも見てきた。自分が死んじまった後の事なんぞ全く考えていないから、後目だって組織の発展よりも自分のお気に入りに継がせる。結論として、年寄りは害悪だとなったのさ。それとともに、こんな馬鹿どもしか生まないシンジケートは無用だとも考えた。害悪で無用なものは排除するしかないってわけさ」
「ちょっと過激ねぇ……」
「ムハンマイドはシンジケートを含む裏世界とは縁を切り、その天才を使って様々な事を行なっている。しかし、自ら組織を作る事はしない」
「あら、勿体無い……」
「群がって来て、利権やら何やらを貪ってくる連中が大嫌いなんだそうだ」オーランド・ゼムは言うと苦笑する。「そう言う連中は大概が良い歳をした大人、年寄りや年寄り予備軍なんだそうだ」
「分かるわ……」ジェシルはうなずく。「わたしがまだ宇宙パトロールに入り立てだった頃に、退官しているくせに先輩風を吹かせて乗り込んでくる連中がいたわ。大抵は上級職だったヤツらね。そして、やれ昔はどうだったこうだったと下らない思い出話とか、今の若い奴らはダメだとか性根が座っていないと自分の物差しで批判したりとか、誰も言い返せないから、言いたい放題だったわ」
「ほう、君も黙っていたのかね?」
「本気で腹が立つ事があって、元副長官だったおじいちゃんの横っ面を思い切り張り飛ばしてやった事があるのよ」
「何を言われたんだね?」
「女なんか広報でもやっていろ、捜査官なんて無理だ、それとも色仕掛けでもするのかってね。最後の台詞の時はいやらしい目付きだったわ。だからぶち切れちゃったのね」
「ははは、君らしい」
「喚いていたわ。年寄りに何をするとか、若い者は先輩に敬意を示す事が出来ないのかとか、これだから今の若いヤツらはとか…… だからね、本当は使いたくなかったんだけど、わたしの身元を教えてやったのよ。そうしたら手の平返しだったわ。知っていたらこんな事は言わなかっただの、どうか処罰をしないでくれだのって言い出していたわね」
「ほう…… それで、許してやったのかね?」
「わたしが、そんなヤツに優しくすると思う?」ジェシルの問いにオーランド・ゼムは首を横に振る。「正解。本当は使いたくなかったけど、わたしの持てる権力を使って、その人から全てを奪ってやったわ。偉そうにしていても、何にも無くなっちゃえば、ただのしょぼくれおじいちゃんよ。今頃はどこかの薄汚い星の薄汚い路地裏で細々と生きているか、野垂れたんじゃない? それ以降は乗り込んでくる連中はいなくなったわ」
「君を怒らせるのは、禁物だねぇ、ジェシル……」
つづく
ジェシルは呆れた表情をオーランド・ゼムに向ける。オーランド・ゼムはうなずく。……こんなすごい武器、いいえ、もうこれは兵器ね! こんなのがあるのなら、シンジケートどもはあっという間に殲滅できるわ! ジェシルは呆れた表情から残忍な笑みへと変わる。
「……では、ハービィ。ムレイバ星へ降りてくれ」オーランド・ゼムがハービィに指示を出す。「場所は……」
「着陸地点はこちらで指示する」スピーカーから声がする。若々しい張りのある声だ。「年寄りは、知ったかぶらないで、大人しくしていてくれ」
「何でぇ! 若造がぁ!」怒鳴ったのはアーセルだった。「年寄りを馬鹿にするんじゃねぇ!」
「馬鹿にされたくなきゃ、黙っていろよ」スピーカーからの声にはあからさまな軽蔑が含まれていた。「そして、過去の栄光にでも浸っていろ!」
「何だとおぉぉ!」
アーセルは怒りに任せて、空になったボトルをスピーカーめがけて投げつけた。しかし、高い所に位置するスピーカーには届かなかった。
「まあまあ、アーセル……」オーランド・ゼムは苦笑する。「彼はわたしたちと意志を同じくする者なのだよ。歓迎しなくてはね」
「ふん!」
アーセルは鼻を鳴らし、ぶつぶつと文句を言い続けている。
「着陸地点を了解しました」ハービィが言う。ムハンマイドから指示を受けたのだろう。「予定では三十分後に着陸しますです」
「遅いな」スピーカーの声は苛ついている。「ボクは忙しいんだ。早く来てくれなきゃ困るんだ」
「この宇宙船の性能限界を試みても二十分は掛かります」ハービィが答える。「ですが、故障の可能性が上がります。それでも良ければ、そう致しますです」
「……まあ、良いや、分かったよ」スピーカーの声は小馬鹿にしている。「人も機械も、年寄りには無理をさせられないものな。……では三十分後に」
スピーカーから「ぶつっ」と音がして静かになった。ハービィは何事も無かったかのように操縦をしている。アーセルは、いつの間に取りだしたのか、新しいボトルに直接口を付けてぐびぐびと飲んでいる。そして「若造がぁ……」とつぶやいている。オーランド・ゼムは、そんなアーセルを見て笑っていた。
「ねぇ……」ジェシルはオーランド・ゼムに話しかける。「ムハンマイドって人、年寄りが嫌いのようね」
「ああ、そうなんだ」オーランド・ゼムが言う。「それも徹底的に、存在を消してしまいたいくらいにね」
「極端ねぇ……」
「父親が原因なんじゃないかねぇ……」
「シンジケートの大ボスとか言う?」
「そうだ」オーランド・ゼムはうなずく。「ムハンマイドはずっと父親やその周りの大人たちを見てきた。先の短い連中がみっともないくらいに利権やら権力やらにしがみついる。先の短い連中は新しい事を嫌う。なので、有能な若い者たちに嫉妬して潰すところも見てきた。自分が死んじまった後の事なんぞ全く考えていないから、後目だって組織の発展よりも自分のお気に入りに継がせる。結論として、年寄りは害悪だとなったのさ。それとともに、こんな馬鹿どもしか生まないシンジケートは無用だとも考えた。害悪で無用なものは排除するしかないってわけさ」
「ちょっと過激ねぇ……」
「ムハンマイドはシンジケートを含む裏世界とは縁を切り、その天才を使って様々な事を行なっている。しかし、自ら組織を作る事はしない」
「あら、勿体無い……」
「群がって来て、利権やら何やらを貪ってくる連中が大嫌いなんだそうだ」オーランド・ゼムは言うと苦笑する。「そう言う連中は大概が良い歳をした大人、年寄りや年寄り予備軍なんだそうだ」
「分かるわ……」ジェシルはうなずく。「わたしがまだ宇宙パトロールに入り立てだった頃に、退官しているくせに先輩風を吹かせて乗り込んでくる連中がいたわ。大抵は上級職だったヤツらね。そして、やれ昔はどうだったこうだったと下らない思い出話とか、今の若い奴らはダメだとか性根が座っていないと自分の物差しで批判したりとか、誰も言い返せないから、言いたい放題だったわ」
「ほう、君も黙っていたのかね?」
「本気で腹が立つ事があって、元副長官だったおじいちゃんの横っ面を思い切り張り飛ばしてやった事があるのよ」
「何を言われたんだね?」
「女なんか広報でもやっていろ、捜査官なんて無理だ、それとも色仕掛けでもするのかってね。最後の台詞の時はいやらしい目付きだったわ。だからぶち切れちゃったのね」
「ははは、君らしい」
「喚いていたわ。年寄りに何をするとか、若い者は先輩に敬意を示す事が出来ないのかとか、これだから今の若いヤツらはとか…… だからね、本当は使いたくなかったんだけど、わたしの身元を教えてやったのよ。そうしたら手の平返しだったわ。知っていたらこんな事は言わなかっただの、どうか処罰をしないでくれだのって言い出していたわね」
「ほう…… それで、許してやったのかね?」
「わたしが、そんなヤツに優しくすると思う?」ジェシルの問いにオーランド・ゼムは首を横に振る。「正解。本当は使いたくなかったけど、わたしの持てる権力を使って、その人から全てを奪ってやったわ。偉そうにしていても、何にも無くなっちゃえば、ただのしょぼくれおじいちゃんよ。今頃はどこかの薄汚い星の薄汚い路地裏で細々と生きているか、野垂れたんじゃない? それ以降は乗り込んでくる連中はいなくなったわ」
「君を怒らせるのは、禁物だねぇ、ジェシル……」
つづく
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