「豆蔵の話だと、学校の中らしいわ」百合恵がさとみに言う。「外に出たら、気合の入った豆蔵たちに見つかるだろうからね。見つかったら……」
「許さない、ってところですね」さとみも窓を見る。皆の持つ憤りが大きな塊になっているように思えた。「たしかに、気合は入っていますね……」
「そう。だから、結界の張ってある学校内が安心ね。豆蔵たちは入って来れないから」
「じゃあ、豆蔵たちが窓から覗くのを見ながら、あっかんべえが出来るんですね」
「まあね。あっかんべえどころじゃないと思うけどね」百合恵は苦笑する。「でも、豆蔵たちを煽るって言う意味では同じかもね」
「他に何かあるんですか?」さとみは首をかしげる。「相手を小馬鹿にするにはあっかんべえが一番だと思うんですけど……」
「ふふふ、『箱入り少女 さとみ』は、余計な事を知る必要はないわ」百合恵は言う。「とにかく、ミツルはみつさんと学校のどこかに潜んでいるわ」
「何処でしょうね?」
「う~ん、わたしには分からないわねぇ…… 霊体が潜んでいそうな所って言えば、暗くて人気のない所だろうけど」
「学校だと、結構ありそうですねぇ」さとみはため息をつく。「どうしたものかなぁ……」
「この前みたいに、夜にでも来てみる?」
「そうですね。それが良いかもしれませんね」
「じゃあ、わたしから先生にお願いしてみるわ」
百合恵は出入り口から覗き込んでいる松原先生に笑顔で近付く。
「ねぇ、先生、お願いがあるんですけど……」百合恵の言葉に松原先生は笑む。「よろしいかしら?」
「何でしょう?」松原先生のにやけが止まらない。「なんでもやっちゃいますよ」
「あら、嬉しいわ」百合恵はすかさず言って優しく笑む。「じゃあ、今夜また学校に潜り込めないかしら? 北階段の時のように」
「え?」松原先生が困った顔をする。「う~ん、今日は、ちょっと……」
「あらあら、今日はお店に来てくださるっておっしゃっていたじゃありませんの?」
「そうなんですけど……」松原先生はぽりぽりと頭を掻く。「実は今日、彼女とデートなんですよ。彼女、すっぽかすと激怒するタイプでして…… すみません」
「まあ……」百合恵は驚くが、すぐに笑顔になる。「分かりましたわ。先生、気を遣って下さらなくってよろしいですわ。彼女さんを怒らせちゃいけませんものね」
「いいえ、本当に百合恵さんのお店に行きたいんですよ。あ、そうだ、彼女と行こうかな?」
「それは、ありがとうございます」百合恵は頭を下げる。「では、今夜は学校は無理ですわね」
「はい…… 申し訳ないです……」
「いいえ、お気になさらずに……」
百合恵はさとみの所に戻る。
「先生、今日は予定があるからダメですって」
「百合恵さんのお店に行くって言ってましたけど? 嘘つきって文句言えば良いじゃないですか!」
「大人には本音と建前があるの。それは真逆なものが多いのよ」
「でも……」
「ふふふ、それを全部包み込んで許せるのが大人なのよ。さとみちゃんにはまだ早いわね」
「そうですか……」さとみはよく分からないと言ったようにため息をつく。「……みつさん、大丈夫でしょうか……」
「豆蔵たちの話から考えると、ミツルは手荒の事はしないはずね。むしろ、大切にしているんじゃないかしらね」
「じゃあ、明日以降で大丈夫ですね」
「そうね。わたしから豆蔵に話しておくわ」
百合恵は言うと、再び窓の傍に行く。
「……会長」話しかけてきたのはしのぶだ。隣には朱音がいる。二人とも心霊モードのようだ。目がきらきらしている。「百合恵姐さん、窓の所で、霊体とお話ししているんですか?」
「姐さんねぇ……」さとみは苦笑する。アイの教育は、ある意味しっかりしているようだ。「まあ、そうね。大事なお話し中だから、邪魔はしないでね」
「はい」しのぶは素直に答えると、百合恵にデジカメを向けてシャッターを押している。「カメラに霊体が写っていればいいんですけど……」
「これだけの霊障が残っているんだもの、きっと写っているわよ」朱音が壁や窓を見て言う。「そうだ! 学校のあちこちを写しても霊体が写るかもしれないわ」
「ここの所色々あったもんね! それは言えそうだわ!」
二人はきゃいきゃいとはしゃぐ。さとみは心霊モード全開の二人に何を言ってもダメだろうと思った。
「じゃあ、百合恵さんのお話が終わったら出ましょう。高島さんもお掃除があるでしょうから」さとみが皆に言う。「分かった?」
「はいっ! 分かりましたぁぁ!」
アイを筆頭に朱音としのぶが大きな声で答えて頭を下げる。
百合恵が窓から離れる。それを合図に皆は用具室を出た。
「さとみちゃん」百合恵が言う。「豆蔵たち、明日以降になったのは残念がっていたけど、とりあえず外を監視しているって言っていたわ」
「そうですか。それまで何も無ければいいですね」
「さっきも言ったけど、心配ないわ。ミツルはみつさんを気に入っているから。わたしがさとみちゃんを気に入っているのと同じよ」
百合恵は言うとさとみを抱きしめた。
「わっ! やめてくださいよう! こんな朝からあ!」さとみは身を捩る。「しかも学校ですよう!」
「あら、じゃあ、夜で学校じゃなかったらいいのかしら?」
「そう言う事じゃありませんよう!」
「ふふふ……」百合恵はさとみを離す。百合恵は真顔でさとみを見る。「さとみちゃん、深刻になり過ぎないでね」
「はい、そのつもりです……」
さとみはほうっと息をはく。
つづく
「許さない、ってところですね」さとみも窓を見る。皆の持つ憤りが大きな塊になっているように思えた。「たしかに、気合は入っていますね……」
「そう。だから、結界の張ってある学校内が安心ね。豆蔵たちは入って来れないから」
「じゃあ、豆蔵たちが窓から覗くのを見ながら、あっかんべえが出来るんですね」
「まあね。あっかんべえどころじゃないと思うけどね」百合恵は苦笑する。「でも、豆蔵たちを煽るって言う意味では同じかもね」
「他に何かあるんですか?」さとみは首をかしげる。「相手を小馬鹿にするにはあっかんべえが一番だと思うんですけど……」
「ふふふ、『箱入り少女 さとみ』は、余計な事を知る必要はないわ」百合恵は言う。「とにかく、ミツルはみつさんと学校のどこかに潜んでいるわ」
「何処でしょうね?」
「う~ん、わたしには分からないわねぇ…… 霊体が潜んでいそうな所って言えば、暗くて人気のない所だろうけど」
「学校だと、結構ありそうですねぇ」さとみはため息をつく。「どうしたものかなぁ……」
「この前みたいに、夜にでも来てみる?」
「そうですね。それが良いかもしれませんね」
「じゃあ、わたしから先生にお願いしてみるわ」
百合恵は出入り口から覗き込んでいる松原先生に笑顔で近付く。
「ねぇ、先生、お願いがあるんですけど……」百合恵の言葉に松原先生は笑む。「よろしいかしら?」
「何でしょう?」松原先生のにやけが止まらない。「なんでもやっちゃいますよ」
「あら、嬉しいわ」百合恵はすかさず言って優しく笑む。「じゃあ、今夜また学校に潜り込めないかしら? 北階段の時のように」
「え?」松原先生が困った顔をする。「う~ん、今日は、ちょっと……」
「あらあら、今日はお店に来てくださるっておっしゃっていたじゃありませんの?」
「そうなんですけど……」松原先生はぽりぽりと頭を掻く。「実は今日、彼女とデートなんですよ。彼女、すっぽかすと激怒するタイプでして…… すみません」
「まあ……」百合恵は驚くが、すぐに笑顔になる。「分かりましたわ。先生、気を遣って下さらなくってよろしいですわ。彼女さんを怒らせちゃいけませんものね」
「いいえ、本当に百合恵さんのお店に行きたいんですよ。あ、そうだ、彼女と行こうかな?」
「それは、ありがとうございます」百合恵は頭を下げる。「では、今夜は学校は無理ですわね」
「はい…… 申し訳ないです……」
「いいえ、お気になさらずに……」
百合恵はさとみの所に戻る。
「先生、今日は予定があるからダメですって」
「百合恵さんのお店に行くって言ってましたけど? 嘘つきって文句言えば良いじゃないですか!」
「大人には本音と建前があるの。それは真逆なものが多いのよ」
「でも……」
「ふふふ、それを全部包み込んで許せるのが大人なのよ。さとみちゃんにはまだ早いわね」
「そうですか……」さとみはよく分からないと言ったようにため息をつく。「……みつさん、大丈夫でしょうか……」
「豆蔵たちの話から考えると、ミツルは手荒の事はしないはずね。むしろ、大切にしているんじゃないかしらね」
「じゃあ、明日以降で大丈夫ですね」
「そうね。わたしから豆蔵に話しておくわ」
百合恵は言うと、再び窓の傍に行く。
「……会長」話しかけてきたのはしのぶだ。隣には朱音がいる。二人とも心霊モードのようだ。目がきらきらしている。「百合恵姐さん、窓の所で、霊体とお話ししているんですか?」
「姐さんねぇ……」さとみは苦笑する。アイの教育は、ある意味しっかりしているようだ。「まあ、そうね。大事なお話し中だから、邪魔はしないでね」
「はい」しのぶは素直に答えると、百合恵にデジカメを向けてシャッターを押している。「カメラに霊体が写っていればいいんですけど……」
「これだけの霊障が残っているんだもの、きっと写っているわよ」朱音が壁や窓を見て言う。「そうだ! 学校のあちこちを写しても霊体が写るかもしれないわ」
「ここの所色々あったもんね! それは言えそうだわ!」
二人はきゃいきゃいとはしゃぐ。さとみは心霊モード全開の二人に何を言ってもダメだろうと思った。
「じゃあ、百合恵さんのお話が終わったら出ましょう。高島さんもお掃除があるでしょうから」さとみが皆に言う。「分かった?」
「はいっ! 分かりましたぁぁ!」
アイを筆頭に朱音としのぶが大きな声で答えて頭を下げる。
百合恵が窓から離れる。それを合図に皆は用具室を出た。
「さとみちゃん」百合恵が言う。「豆蔵たち、明日以降になったのは残念がっていたけど、とりあえず外を監視しているって言っていたわ」
「そうですか。それまで何も無ければいいですね」
「さっきも言ったけど、心配ないわ。ミツルはみつさんを気に入っているから。わたしがさとみちゃんを気に入っているのと同じよ」
百合恵は言うとさとみを抱きしめた。
「わっ! やめてくださいよう! こんな朝からあ!」さとみは身を捩る。「しかも学校ですよう!」
「あら、じゃあ、夜で学校じゃなかったらいいのかしら?」
「そう言う事じゃありませんよう!」
「ふふふ……」百合恵はさとみを離す。百合恵は真顔でさとみを見る。「さとみちゃん、深刻になり過ぎないでね」
「はい、そのつもりです……」
さとみはほうっと息をはく。
つづく
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