「逸子さん、左の脇ファスナーを開けると、タイムマシンが入っています」ナナが言う。「お願いします」
逸子は言われるままに右手を左脇へ伸ばしファスナーをさぐる。見つけにくいのか、左腕を差し上げて、さらに脇をさぐる。何とかファスナーのタグが見つかった。指先でつまんで下げた。が、うまく下ろせない。
「……ナナさん……」逸子が困った顔でナナを見る。「……ぴっちりし過ぎていて、下ろせない……」
「タイムパトロールの制服は一人一人に合わせていますから……」
ナナは言うと、逸子の左側に立ち、ファスナーを下ろそうとする。逸子は左腕を上げたまま、からだを左側へと軽く曲げた。何とかスーツにたるみを作ろうとしたようだ。だが、なかなか思うようには行かない。
「逸子さん、もう少しからだが曲がりませんか?」
「スーツのせいかしら、これが精一杯よ。何も着てなきゃ好きなだけ曲げられるんだけど……」
「言いましたように、制服は各個人のサイズなんです。悪用や転用をされないために」
「わたし、悪用なんかしていないわよ!」
「分かっています。ですけど、やっぱり無理があったんじゃないかと……」
「あらら、右側が吊ってきちゃったわ! ナナさん、早くしてぇ!」
「そんな事言っても、ぴっちりでびくともしません!」
「じゃあ、タイムマシンは永遠に取り出せないわ!」
「それは困ります! 何とかしてください!」
「……あのさ……」
恐る恐ると言った感じでケーイチが割って入る。スーツと格闘している二人は、きっとした表情でケーイチに振り返る。
「提案があるんだけど、聞いてくれるかな?」ケーイチの言葉に二人はうなずく。「オレが外に出ているから、逸子さんはそのスーツを脱いで、それからタイムマシンを取り出したらいいんじゃないかな?」
ケーイチの言葉に逸子とナナは顔を見合わせた。それから二人そろってケーイチに顔を向ける。二人の目に尊敬の光が宿っている。
「……なるほど、さすがお兄様!」
「そうですね、それが一番早いですよね!」
「そうかい? じゃあ早速実行だ。……オレは外にいるから、タイムマシンを取り出したら呼んでくれよ」
ケーイチは言うと、すたすたと玄関から外へと出て行った。ぱたんと扉が閉まる音がした。
「……逸子さん」扉の閉まった音を合図に、ナナが言う。「前ファスナーは下ろせますか?」
「大丈夫よ」心配そうなナナに、逸子は笑顔を向ける。そして逸子は首元のファスナーのタグをつかんで下げ始める。その手が不意に止まった。「いやだあ! 胸元でつかえちゃたあ!」
「ええっ!」ナナはあわてる。「どうするんですか!」
「ちょっと胸を押したり寄せたりしてくれないかしら? もう少しで下ろせそうなのよね」
「分かりました……」
ナナは逸子の胸をあれこれとする。逸子はファスナーを下げる。まだまだ、きつそうだった。
「逸子さん、育ち過ぎですよぉ……」
「もう少しだから、頑張って!」
何とか胸元をファスナーが通り過ぎた。途端にファスナーは一気に下がり、形の良いお臍が見えた。
「お腹周りはつかえなかったわね……」ほっとしたように逸子が言う。「そこもつかえていたら大変だったわ」
「そうですね、わたしだったらぴっちりなのに……」ナナはつぶやく。「……逸子さんの方が細いんですね……」
「さあ、これでタイムマシンは取り出せるわね!」
逸子にはナナのつぶやきが聞こえなかったようだ。
ナナは左脇のファスナーを難なく開けると、短い定規の形をしたタイムマシンを取り出した。一振りすると三十センチほどの長さになった。
「どこにも異常はないようです」ナナは隅々まで点検していった。「とにかく、これでタイムパトロールまで行きましょう」
逸子は、ナナがタイムマシンを点検している間にスーツを着直した。
「これ、着る時は簡単に着られるのに、面白いわね」逸子はにこにこしている。「じゃ、お兄様を呼んでくるわね」
逸子に呼ばれてケーイチが戻って来た。ナナの手にしているタイムマシンを見ている。
「ナナさん、さっきのメモリースティックみたいに、データが消去されてるなんて事は無いかな?」
心配そうな表情のケーイチに、ナナは笑顔を向ける。
「大丈夫です」ナナが言う。「これから先のタイムマシンは分かりませんが、わたしの時代のタイムマシンは、まだ手動で時間をセットするんです。ですから、その心配はありません」
そう言うと、ナナはタイムマシンを作動させた。押し入れの中が光り始めた。
「この空間では、やっぱり押し入れが出入口になっているんですね」ナナは言うと、光る押し入れの前に立った。「さあ、行きましょう!」
つづく
逸子は言われるままに右手を左脇へ伸ばしファスナーをさぐる。見つけにくいのか、左腕を差し上げて、さらに脇をさぐる。何とかファスナーのタグが見つかった。指先でつまんで下げた。が、うまく下ろせない。
「……ナナさん……」逸子が困った顔でナナを見る。「……ぴっちりし過ぎていて、下ろせない……」
「タイムパトロールの制服は一人一人に合わせていますから……」
ナナは言うと、逸子の左側に立ち、ファスナーを下ろそうとする。逸子は左腕を上げたまま、からだを左側へと軽く曲げた。何とかスーツにたるみを作ろうとしたようだ。だが、なかなか思うようには行かない。
「逸子さん、もう少しからだが曲がりませんか?」
「スーツのせいかしら、これが精一杯よ。何も着てなきゃ好きなだけ曲げられるんだけど……」
「言いましたように、制服は各個人のサイズなんです。悪用や転用をされないために」
「わたし、悪用なんかしていないわよ!」
「分かっています。ですけど、やっぱり無理があったんじゃないかと……」
「あらら、右側が吊ってきちゃったわ! ナナさん、早くしてぇ!」
「そんな事言っても、ぴっちりでびくともしません!」
「じゃあ、タイムマシンは永遠に取り出せないわ!」
「それは困ります! 何とかしてください!」
「……あのさ……」
恐る恐ると言った感じでケーイチが割って入る。スーツと格闘している二人は、きっとした表情でケーイチに振り返る。
「提案があるんだけど、聞いてくれるかな?」ケーイチの言葉に二人はうなずく。「オレが外に出ているから、逸子さんはそのスーツを脱いで、それからタイムマシンを取り出したらいいんじゃないかな?」
ケーイチの言葉に逸子とナナは顔を見合わせた。それから二人そろってケーイチに顔を向ける。二人の目に尊敬の光が宿っている。
「……なるほど、さすがお兄様!」
「そうですね、それが一番早いですよね!」
「そうかい? じゃあ早速実行だ。……オレは外にいるから、タイムマシンを取り出したら呼んでくれよ」
ケーイチは言うと、すたすたと玄関から外へと出て行った。ぱたんと扉が閉まる音がした。
「……逸子さん」扉の閉まった音を合図に、ナナが言う。「前ファスナーは下ろせますか?」
「大丈夫よ」心配そうなナナに、逸子は笑顔を向ける。そして逸子は首元のファスナーのタグをつかんで下げ始める。その手が不意に止まった。「いやだあ! 胸元でつかえちゃたあ!」
「ええっ!」ナナはあわてる。「どうするんですか!」
「ちょっと胸を押したり寄せたりしてくれないかしら? もう少しで下ろせそうなのよね」
「分かりました……」
ナナは逸子の胸をあれこれとする。逸子はファスナーを下げる。まだまだ、きつそうだった。
「逸子さん、育ち過ぎですよぉ……」
「もう少しだから、頑張って!」
何とか胸元をファスナーが通り過ぎた。途端にファスナーは一気に下がり、形の良いお臍が見えた。
「お腹周りはつかえなかったわね……」ほっとしたように逸子が言う。「そこもつかえていたら大変だったわ」
「そうですね、わたしだったらぴっちりなのに……」ナナはつぶやく。「……逸子さんの方が細いんですね……」
「さあ、これでタイムマシンは取り出せるわね!」
逸子にはナナのつぶやきが聞こえなかったようだ。
ナナは左脇のファスナーを難なく開けると、短い定規の形をしたタイムマシンを取り出した。一振りすると三十センチほどの長さになった。
「どこにも異常はないようです」ナナは隅々まで点検していった。「とにかく、これでタイムパトロールまで行きましょう」
逸子は、ナナがタイムマシンを点検している間にスーツを着直した。
「これ、着る時は簡単に着られるのに、面白いわね」逸子はにこにこしている。「じゃ、お兄様を呼んでくるわね」
逸子に呼ばれてケーイチが戻って来た。ナナの手にしているタイムマシンを見ている。
「ナナさん、さっきのメモリースティックみたいに、データが消去されてるなんて事は無いかな?」
心配そうな表情のケーイチに、ナナは笑顔を向ける。
「大丈夫です」ナナが言う。「これから先のタイムマシンは分かりませんが、わたしの時代のタイムマシンは、まだ手動で時間をセットするんです。ですから、その心配はありません」
そう言うと、ナナはタイムマシンを作動させた。押し入れの中が光り始めた。
「この空間では、やっぱり押し入れが出入口になっているんですね」ナナは言うと、光る押し入れの前に立った。「さあ、行きましょう!」
つづく
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