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「きみの色」感想。山場がないですねえ。「おだやかな凪」すぎるのも・・・

【ネタバレ】

◎「きみの色」

 「わたしが惹かれるのはーー」
 「わたしたちの色、わたしたちの音」

 2024年8月30日(金)公開、監督は山田尚子、脚本は吉田玲子、101分。

 日暮トツ子(cv鈴川紗由)、作永きみ(cv髙石あかり)、影平ルイ(cv木戸大聖)のほか、トツ子のルームメイトの3人(百道さく(cvやす子)、七窪しほ(cv悠木碧)、八鹿スミカ(cv寿美菜子))、作永紫乃(きみの祖母)(cv戸田恵子)、シスター日吉子(cv新垣結衣)、ルイの母(医者)(cv井上喜久子)、トツ子の母(cv佐々木優子)など。

 総合評価点は、上中下で中くらい。

 たまに書いていますが、私は映像や技術よりも物語に比重を置いています(映像が物語を規定し、物語が映像を規定する面があるにせよ)。




○メイン3人のcvは声優の素人で、素人っぽい演技でした。山田監督が目指した「ずっとおだやかな凪のような子たちの物語」には合っているとは言えるでしょうかね。

○トツ子の、意図的に他人がどういう色なのかが見えるのではなく、自然に他人が色で見えるという設定は、"ほぼファンタジー"です(いくつか前提があればそういう人は実在するとは思います)。
 トツ子が見える色というのは、概ね淡くて綺麗です。そういう映像と雰囲気は良かったです

物語は、山場がほぼ無く、今ひとつ。いえ、山田監督によると、こういうアニメ(注1)を敢えて作ったとのことですから、これはこういうものとして受け止め、私の好みではない方向の日常系だということです(ギスギスしている方がいいというわけではなく、葛藤が強い方がいいというわけでもなく)。
 3人には悩みがほぼ無いんです、ということで設定も物語も一貫した前提にして作れば、もう少しは私の好みになった気も。結構な悩みがあるという雰囲気を出しているのに、いずれもたいした葛藤もなくあっさりと解決しているので、たいした悩みではなかったんだと思うしかないです(注2)。本作は、3人の設定と、映像と、セリフと、に少し矛盾を感じる、といったところです。

(注1)山田監督曰く、「ギスギスするのつらいです。ずっとおだやかな凪(なぎ)のような子たちの物語もあると思っていました。物語然とすると、この3人がウソになってしまう気がして、物語的な盛り上がりをあえて排除しているところがあります」(「小原篤のアニマゲ丼」朝日新聞デジタル、2024年9月2日)。

(注2)パンフで3人の秘密について山田監督曰く、「内容としてはそんなことで……と思われるものではありますが、心に持った秘密はどんどん自分の中で大きくなっていってしまう。秘密を持っていること自体が、悩みになっていってしまうんですよね。抱えているものが大きくても小さくても、心の秘密は傷になる。それって誰もが通ってきたものだと思うんです。そうして悩んでいる方や傷を抱えている方が、少しでも楽になれたらいいなという気持ちで描いていきました。」
 山田監督曰く、「やわい子たちですが、芯は強くて、他人を大切にできる子たちです」(ORICON NEWS、2024年9月5日)

 秘密や悩みに、ざっくりとした分類で大中小とあるなら、本作は小さな秘密と悩みです。それこそ、小さな秘密や悩みは自分で解決してきているものです(自分で誰かに相談することも、秘密や悩みを持ち続けると決めることも含め)。できていないなら、概ね、解決方法を探せないその人に問題があるのか、その人がヤワなのです。

・あと、恋愛になりそうにない展開だったのに、最後にきみが大きめの船で旅立つルイを直接見送らず(友達ならこの場で直接見送れるはずです。)、船が出る途中に別の場所で「がんばれー」と叫んで、恋愛感情があるという雰囲気を出しました。きみがルイに恋愛感情かどうかは不明ながらも好感を持っているという描写はそれとなくありましたが、これはちょっと驚きでした。
 事前にHPを読んでいないので、恋愛ものの面があることは知りませんでした。どうせよくあるアニメ映画のように恋愛ものだろうとは思って見に行きましたが、見ていくと、それっぽさがほぼないことに気付いたので、珍しくそうではないアニメなんだと思って見ていったところです。事前に恋愛ものでもあると知っていれば、ようやくきたか、くらいには思ったかも知れません。

○学校は、保護者に連絡せずに高校を退学させるんだ・・・。
 退学したことを保護者である祖母に言えずにそれなりに悩むきみ。退学理由はあまり明確にされませんでしたが、強く悩んでいる感じはなく、それなりの悩み。それでもきみにとっては大きな悩みなんだと言われれば、それは理解できます。最後は言えましたが、祖母の対応はあっさりで怒りません。

トツ子は、他人が色で見えるということで友達が少ないということもなく、キリスト教系の女子高の寮の同部屋の他の3人と仲良くやっていますし、それ以外に学校での友達もそれなりにいる様子です。いわゆる親友はいない、ということであればいない可能性はあると感じましたが、定義にもよりますが親友がいないなんて珍しくもないのでは。
 自分の色だけが見えないことが悩みらしいことは画面からでも分かりますが、別のことで悩んでいる人には失礼なくらいのことです。そのことに悩んでいることが妥当であると納得できる描写は、ないといってもいいくらいでは。

ルイについては、離島の医療のため、母が唯一の医師である病院を継ぐため、自分も医学部を目指しているのに母に隠れて音楽をしていることの葛藤もあまりなく、医師を目指すことにはさほど迷いはない様子。が、鑑賞後に見ましたがHPのキャラ紹介に「好きな音楽の道に進みたい本心を隠している」とありました。母に音楽をしていることを隠しているということはプロになりたいということかもしれないという推測はできましたが、本当にプロになりたいと思っているなんて・・・。

3人それぞれに悩みや葛藤と呼べるようなものがほぼない、あるいは、あるという設定なのかもしれませんが悩みや葛藤はあまり描かれないということでもあります。
 ルイについては、それで悩むというのも十分あることとは思いますし、きみの悩みについても同様。トツ子については、自分の色だけ見えないことに悩むのはヤワ過ぎなだけでは。なお、トツ子だけは、解決までの過程がある程度わかるようには描かれています。

○雪で船が欠航になって帰れなくなったトツ子ときみ(嵐というわけでもないのに、あの程度の雪で欠航か・・・)、使っていない古教会でルイも一緒に夜を過ごしますが、女子高は男女交際禁止だったはずですが、一緒に一晩過ごしたことがバレれば問題になりそうです。
 ルイの家に2人を泊めれば良かったのにそうしなかったのは、ルイがまだ親に紹介する気になれなかったのかもしれませんし、夜という雰囲気と教会という場を利用して3人それぞれの悩みの語りの場(懺悔とか告解というほどに大げさなものではなく。)を作りたいという制作側の都合でしかないのかも知れません。
 なお、ルイは異性愛者(山田監督曰く、「ノーマルです」(「小原篤のアニマゲ丼」))ですが中性的で、まだ2人のことを恋愛対象としては見ていません。つまり、いわゆる、女子として見ていません。

○シスター日吉子がトツ子に学園祭でのバンド演奏をすすめましたが、退学者であるきみはいいとして(シスターもきみがバンドメンバーと聞いていて、OGもOKだと言っていました。きみがOKということは、校則違反とかで退学したわけではないということでしょう。)、学外者かつ男子であるルイがいることを確認したのだったかどうだったか。当日、バンドメンバーに男子がいると女子生徒が少しざわつきましたが、先生達がざわついた様子はなかったはずですし、多くの先生が音楽に合わせて楽しそうに軽く踊っていましたから、事前に知っていたということなのでしょう。
 アメリカの実写映画ならシスターがロックのバンド演奏や音楽に合わせて踊るというのは珍しくない気もしますが、日本人のシスターの多くが踊るのか、とは思いました。キリスト教が欧米からきていますからシスターも欧米化されているということなのだろうか、3人のバンドと曲と3人が認められたことを示したい制作側の都合でしかないのだろうか、とかなんとか思ったり。

○公式HPから。
「わたしが惹かれるのは、あなたの「色」。
高校生のトツ子は、人が「色」で見える。嬉しい色、楽しい色、穏やかな色。
そして、自分の好きな色。
そんなある日、同じ学校に通っていた美しい色を放つ少女・きみと、音楽好きの少年・ルイと古書店で出会う。
周りに合わせ過ぎたり、ひとりで傷ついたり、自分を偽ったりーー
勝手に退学したことを、家族に打ち明けられないきみ。
母親からの将来の期待に反して、隠れて音楽活動をしているルイ。
そして、自分の色だけは見ることができないトツ子。
それぞれが誰にも言えない悩みを抱えていた

よかったらバンドに、入りませんか?
バンドの練習場所は離島の古教会。
音楽で心を通わせていく三人のあいだに、友情とほのかな恋のような感情が生まれ始める。

わたしたちの色、わたしたちの音
やがて訪れる学園祭、始めてのライブ。
観客の前で見せた三人の「色」とは。」


○写真
 新宿ピカデリーにて。


 新宿バルト9にて。

















【shin】


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