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2025/02/17 mon
内容的に大丈夫な部分のみ
※一部抜粋
二十歳くらいの記憶だと、品川駅まで行ってから横浜というイメージがあった。
しかし池袋や新宿から一本で行ける湘南新宿ラインというものが、いつの間にかできていたようだ。
時代はどんどん便利になるものだと感心する。
高橋ひろしから指定されたのは桜木町駅。
横浜の隣の駅らしい。
川越から池袋。
池袋から横浜。
三十分ちょっとで着くので驚く。
昔は横浜までかなり遠いイメージしかなかった。
乗り合わせ時間いれなければ、一時間ちょっとで横浜まで着いてしまうのか……。
根岸線に乗り換えて一駅。
桜木町駅へ到着。
外へ出ると、広大な景色と近未来的に見える建物が視界に映る。
心なしか空気すら違うように感じた。
周りにはたくさんの人がいる。
しかし空間的な余裕からか、すっきりして見えた。
地図上ではここから少し歩けば海。
そう考えただけで、身体がブルッと震える。
埼玉の川越も、新宿も海は無い。
確かこの先がみなとみらい。
思い出すのが二十八歳の五月十三日。
ジャンボ鶴田師匠が亡くなった日。
衝撃的なダメージを負った俺は、二日間『ワールドワン』を休んだ。
その頃付き合っていた酢女の小野恵子が横浜だったのもあり、翌日ここへ来たのだ。
当時は案内されるままこの辺りを歩いた。
駅から見える大型の観覧車。
何も知らずに通りを歩いていると、いきなり道沿いにちょっとした遊園地のようなものが出現したので、驚いた記憶が蘇る。
あの時から十三年も経ったのか……。
携帯電話が鳴る。
高橋ひろしから。
「岩上さん、今どの辺にいますか?」
「桜木町駅出たところですよ」
「駅出たところに喫茶店見えます? コーヒーショップって言えばいいのかな? そこにいます」
「了解しました。すぐ向かいます」
高橋ひろしが指定した喫茶店は、すぐ目の前だった。
店内へ入ると、左手奥の席で立ち上がって大きく手を振る人間が見える。
高橋ひろしだった。
最後に会ったのがゲーム屋『ワールドワン』で客として来ていた頃。
約十年ぶり再会。
「お久しぶりです」
「ようこそ横浜へ、岩上さん」
テーブルには手前に高橋ともう一人の男。
奥に制服を着た女子高生三人が座っている。
どういう組み合わせだ?
「座って下さい、岩上さん」
「失礼します」
隣の短髪の男が一礼してくる。
「紹介しますね。今一緒に仕事をしている一原さん。一さんて覚えて下さい」
「はじめまして、岩上です」
「一原です。高橋ひろしから色々お噂は聞いています」
今回のインカジの話は、この一原の知り合いから来たものらしく、このあとそのオーナーと俺は会いに行くようだ。
奥の女子高生三人は『JKリフレ』という若い学生を使ったマッサージなどのアルバイトらしい。
「岩上さんも、横浜で落ち着いたらうちに遊びに来て下さいよ。こういう若くて可愛い子たちが、相手してくれますから」
高橋ひろしは、いつも陽気で明るい。
俺が浅草ビューホテルを辞めたあとだから、彼と出会ったのは二十半ばの頃。
あれから十五年以上も過ぎたのだ。
「あの『ベガ』の鳴戸さん…、今頃どうしているんでしょうね?」
「また懐かしい名前が出ましたねー。もうとっくにどこか消えたんじゃないですかね。あの性格じゃ……」
俺にとって初めての裏稼業のオーナー。
高橋にとっては鬼のように店の金を抜いていたオーナー。
六本木のヤクザの事務所で鳴戸にボコボコに殴られたあの出来事。
プロレスは八百長ではない。
身体を張って命も賭けて抗議した若かりし頃。
傷だらけで『ベガ』へ戻った俺。
高橋ひろしと共に働いたのは、あれが最後だった。
駅前のコーヒーショップを出て、高橋ひろしと女子高生三人組と別れる。
俺は一原と行動を共にした。
みなとみらいとは逆方向へ歩いていく。
「岩上さん、横浜は初めてなんですか?」
やたら飲み屋が多い通りを歩く一原。
「いえ…、全日本プロレス行く前だから二十歳くらいの頃、横浜シーパラダイスあるじゃないですか。それで金沢八景に数ヶ月住んでいた事がありますね」
「あ、高橋ひろしから聞いてますよ。岩上さん、小説家だけじゃなく、全日本プロレスもなんですよね。いやー…、本当凄い人を紹介してくれたもんだよなあ……」
「自分の場合、経歴だけですよ…。何の芽すら出ていませんし」
「何を言ってんですか。本だって出してるし、総合のリングにも上がってんだから大したもんですよ」
現実は十数万の金しか持っていないしょぼくれた四十一歳だ。
「今はどこへ向かっているんですか?」
「関内です。桜木町からだと次の駅ですね。ただ別の線で日ノ出町駅ってあるんですが、関内と日ノ出町の中間くらいのところで待ち合わせているので、近いし歩いたほうが早いかなと」
この辺の地理がまるで分からない俺は、黙ってついていくだけだった。
とりあえず横浜から根岸線だと桜木町に関内、別の線で日ノ出町か。
「桜木町駅から真っ直ぐ歩いていくと日ノ出町にぶつかるんです。今歩いているところは野毛っていう飲み屋街で」
新たな情報が次から次へ出てくるので、頭が追いつかない。
川越にあった『日活』のようなエロ映画館を通り過ぎ、交通量の多い通りへ出た。
「ほら、右斜に見えるのが日ノ出町駅です。その次の駅が赤線で有名な黄金町なんですよ」
赤線……。
立ちん坊たちで密集された風俗街。
思い出した。
長谷川明夫と共に裏ビデオの仕事をする際、彼は横浜で店を出したが五百万の赤字を出した。
その時横浜の店を撤収する際、車で向かった帰り、長谷川が説明していた場所だ。
あの時は大掛かりな手入れがあり、あの一帯を機動隊が取り囲んでいた。
俺は一原へその時の説明をした。
「横浜もあれがなければ本当に活気があったんですけどね。みんな未だ惜しんでいますよ」
「駅で言うと、あの日ノ出町の次が黄金町駅で赤線があった場所なんですね?」
「ええ、その通りです。あ、うちらはこの道を左へ向かいますが」
少し進むと川が見える。
一原は親切に色々説明してくれるが、把握をしていくのがやっとだった。
「これが大岡川で、このまま真っ直ぐ進むと地下鉄の伊勢佐木長者町駅。途中で伊勢佐木モール。川を渡って左側が、福富町になるんですよ」
着いて初めて理解できたのが、伊勢佐木モールとは関内駅から真っ直ぐ伸びる大型商店街で、距離にして一キロ以上に及ぶ長さである。
目に入るものすべてが新鮮だった。
「この先の伊勢佐木モールと平行する通りが、風俗だらけの親不孝通りなんですよ」
一原は伊勢佐木モールを右手に曲がり、細い十字路の喫茶店へ入る。
「おお、一ーっ!」
「あ、下蔭さん、お久しぶりです」
一原が挨拶した男は六十代前半のスキンヘッドだった。
下蔭と名乗るスキンヘッドの男は、パッと見人の良さそうな笑顔で俺を出迎えてくれる。
履歴書を渡し一通り目を通すと、ようやく口を開く。
「一が言ってた通り、何だか凄い経歴だな。岩上さんて言うのね。下蔭です、よろしく」
ここで一つ感じた事。
横浜の人間はギスギスしていなく、どこかのんびりしているのだ。
それは外から来た人間とって、とても心地良いものであり、また安心感を覚える。
あの歌舞伎町の住民の代表的な高橋ひろしが、何故新宿でなく舞台を横浜へ変えたのか、何となく分かったような気がした。
「今の店はよ、頼まれて共同経営でやってんだけど、様子見て独立するとは話していたんだ。まあ商売的に何とかなりそうだから、一ヶ月もしないで、新店を出す予定なんだ。もちろん岩上君も、今のところで最初は働いてもらうけど、後々は俺のほうへ来てほしいんだ。大丈夫かい?」
「ええ、もちろんです。下蔭さんの言われるよう自分は動く次第です」
「よし、じゃあ今日五日だろ? 七日から来れるかい?」
「畏まりました。時間は何時頃行けばよろしいですか?」
「そうだな…、夜の七時に来てくれ。場所は福富町の東通りだから、関内駅に二十分前に来ていれば大丈夫だな」
「了解しました」
明後日から俺の横浜での新しい生活が始まる。
七日になり、川越市駅から池袋へ向かう。
湘南新宿ラインで横浜。
乗り換えて二駅で関内へ到着。
時刻は六時二十分。
余裕見て二時間前に家を出たが、四十分も早く着いてしまった。
教わった道順通り歩いてみる。
駅を出て伊勢佐木モールに入り、真っ直ぐ歩くと右手にブックオフ。
五分もしないで着いてしまう。
ここを右に曲がれば福富町。
入って一番手前の交差する道が、東通り。
ブックオフからだと横浜のインカジは二分も歩かない場所にあった。
時刻はまだ三十分前。
まあ早く出勤する分には構わないだろう。
エレベーターで七階へ行き、指定された部屋番号のインターホンを押す。
「はい……」
「本日からお世話になります、岩上と申します」
少し間があってからドアが開く。
髪をオールバック風に上げた太った男が中へ招き入れてくれた。
「本日からここで働く岩上と申します」
「平田です」
奥のキャッシャー室らしき部屋から、長髪で昔の中国人武将のような顎髭を生やした男がのそっと出てくる。
「長谷川隆です。隆と呼んで下さい」
俺以外に従業員は、この二名だけらしい。
入口から入り左側にキャッシャー、右側へ周り奥へ細長く客席が見える。
全十二席。
入口手前が十二卓で、右奥が一卓。
店内には二名の客がいた。
「下蔭さんから岩上さんは経験者と聞いていますが、どちらでインカジをやられていたんですか?」
長谷川が質問してくる。
「新宿と池袋です」
「おー、都会だ。とうとううちも最先端の人が来てくれた」
太った平田が一人で喜んでいた。
「うちの店はクルーズを扱っているんですが、分かりますか?」
「ええ、クルーズですよね? 分かります。他のサイトは何を扱っているんですか?」
「え、他のサイト? クルーズ以外にあるんですか?」
横浜のインカジはクルーズの一サイトしかないのか。
これには驚いた。
「入れてー」
角刈りのメガネを掛けた客が札束を右手に持ちながら、ヒラヒラさせている。
「はい」
俺はダッシュで近付き、金を受け取った。
すぐ現金を数える。
二十万。
「十二卓様クルーズ二千ドル。十二卓様クルーズ二千ドルお願いします」
一連の俺の動作を見て、平田と長谷川は固まっていた。
十二卓の客は「いやー、お兄さん。いいダッシュだねー」と笑顔で感心している。
「何だ…、岩上さん、うちらが教える事、何も無いじゃないですか」
「いえいえ、こちらでは初日ですし、色々ご教授願います」
土地が変わってもインカジ業務でやる事は変わらない。
「新宿のインカジって、あんなキビキビ動いているんですか?」
平田が驚きながら聞いてきた。
「まあ向こうはインカジが激戦区になりますので……」
「何店舗くらいあるんですか?」
「はっきりとした数は分かりませんが、二十店舗はあると思います」
「えー! 二十? こっちなんて、うち合わせて二つしかないのに……」
「入れてー」
十二卓と向い合せの十一卓の客が、左手に金を持ちヒラヒラさせている。
「はーい」
平田が重そうな身体をのしのしと歩いていく。
金を数えるのに結構時間を掛け、キャッシャーまでゆっくり歩いてドアを開けてから「十一卓二十」と金を渡す。
こんなスローな動きで、よく客が怒らないと驚く。
俺の横浜での仕事時間は、夜七時から朝の五時までの十時間。
結局この日は最初にいた二名の客のみだった。
仕事を終え、外へ出る。
薄暗い福富町の町並みを歩きながら、バブル時代この場所はとても活気があったのだろうすっかり古くなった建物を見回す。
日にちが過ぎたけど、二千十二年十月八日。
今日から横浜での新生活が、ここで始まった。
地元川越から電車だと一時間半ちょい掛かる遠い場所だ。
以前いたのが二十年以上昔なので、見るものすべてが新鮮である。
今日この新しい地で、俺はまた新たなる一歩を踏み出した。
みなとみらいの観覧車、今度時間帯見計らい、一人で乗りに行ってみよう。
朝五時に終わるので、川越へ帰るのは七時近くになってしまった。
仕事は十時間とはいえ、往復で三、四時間通勤に取られるのは痛いな。
まだ向こうで部屋を借りようにも、そこまでの資金も持っていないし……。
まあこれはすべて自業自得である。
金を持てば使ってしまう自身の性格が生んだツケだ。
腹減ったけど、とりあえず寝よう。
起きてから何か作ればいい。
慣れない土地で疲れが溜まっていたのだろうか?
目を覚ますと夕方四時になっていた。
俺にしてはかなり睡眠を取ったほうだ。
パスタでも作るかな……。
一階の台所へ降りて、何を作るか冷蔵庫を物色する。
外へ買い物へ行くのも面倒だったので、玉ねぎを半分とピーマンを二つ、冷蔵庫から拝借した。
ソーセージの袋が開いていたので二本だけもらう。
野菜を切り、麺を茹でているところだった。
タイミング悪く叔母さんのピーちゃんが台所へ来る。
まな板の上に乗っている玉ねぎとピーマンを見ると、血相を変えて怒鳴ってきた。
「また人のものを勝手に使ったのか? この泥棒野郎が!」
「……」
「この泥棒が! ほんとおまえはゴキブリやダニ以下だね」
黙って料理を続けていると、耳元で何度も怒鳴ってくる。
面倒でも材料を買いに行くか、もしくは食事へ行けば良かったのだ。
しかし玉ねぎやピーマン二つ使っただけで、ここまでの言いようはさすがに無いんじゃないのか?
「これ終わったら、使ったもの買っておくよ……」
静かに言い返す。
「泥棒が何を抜かしてんだ! あとじゃない。今すぐ買ってこい!」
本当にこの人は俺が憎いのだろうな……。
何で俺は行くところすべて、こうなってしまうのだろう?
新宿にしてもそう。
池袋だってそうだった。
たまに家で料理を作ろうとすると、またもやこうなる。
こんな事すら試練だって言うのかよ……。
「おい、泥棒!」
本当にうんざりだ……。
よく動くその顎目掛けて、渾身の拳をお見舞いしたい。
いや…、殴るとかでなく、殺してやりたい……。
「おい、聞いてんのか? 泥棒が!」
ゆっくりと深呼吸した。
ここで暴れたところで誰一人特などしない。
おじいちゃんをまず困らせるなよ……。
勝手に野菜を少し使った俺が悪いんだから……。
何度も自分にそう言い聞かせた。
駄目だ……。
それでも苛立ちが収まらなかった。
「面倒だから返すわ」
そう言って、まな板にある刻んだ野菜をピーちゃんに向かってぶん投げる。
「おまえは何を考えているんだ!」
烈火の如く…、いや、テンションはそう変わらないか。
この人はいつだって全力で俺に憎しみを込めて怒っている。
もういいや……。
この家にいるのは本当にやめよう。
この人と話し合っても無駄。
昔を思い出しても意味が無い。
まだ何か喚いているが、もう気にするな。
俺がここを出ていけばいいのだから……。
「おい、火ぐらい止めろ!」
黙ったまま台所を出ようとする俺の背後から罵声が飛ぶ。
無視したまま俺は部屋へ戻った。
これ以上俺がこの家にいたら、いつかピーちゃんを殺してしまう……。
それなら俺が家を出ればいい。
横浜二日目。
非常に嫌な気分のまま家を出る。
ずっとムカムカしていた。
川越から通っていたが、通勤時間や往復の移動費を考えると、こちらへ泊まったほうがいいんじゃないかと思う。
仕事中も何故ピーちゃんは、俺をああまで敵視するのか考えてみる。
しかしいくら考えたところで、答えなど出ない。
二日目を終え、福富町内を歩き回る。
家に帰るのが本当に嫌だった。
こんな朝っぱらから、俺は何をやってんだろうな……。
まあいい、この街を少しでも知っておいた方がいい。
日ノ出町駅から伊勢佐木長者町駅まで伸びる道路へ出ると、ネットカフェを発見する。
鍵付き完全個室|ネットルーム伊勢佐木町店|ネットカフェ|コインランドリー
二十四時間で二千七百円。
こちらで部屋を借りられるほどの金は無いので、しばらくはここを拠点に生活をしていくしかない。
少なくともここなら部屋に鍵も掛かり、何といっても大型モニターにパソコンも使える。
喫煙場所は部屋から出て、喫煙場所へ行かなければならないのが面倒だ。
シャワーはコインシャワー。
百円玉を入れれば十五分熱いお湯が出る仕組みになっている。
コインランドリーも配備。
それでも家に帰るよりはマシだった。
明日の昼になったら、百円ショップで洗濯物を干すものを買っておくか。
一部屋借り、タバコが切れたので外へ買いに行く。
斜め向かいにセブンイレブンがあったので入ろうとすると、入口にいた中国人女の客引きが声を掛けてくる。
「お兄さん、お酒? マッサージ?」
「ごめんごめん、仕事終わりでタバコ買いに来ただけだから」
店内へ入ると、中国人女がついてきて腕を組んできた。
「お姉さん、ごめんよ。本当に仕事終わってタバコ買いに来ただけだからさ」
「ジュース買って! ジュース買って!」
組んだ腕を離さないので、仕方なくカゴを持つ。
「ジュースくらいならいいよ」
「ありがと、お兄さん!」
そう言いながら中国人女は、ドリンクを五本くらいカゴへ入れてくる。
このくらいならいいか。
黙ってレジへ行こうとすると「お兄さん、パンもいいか?」と菓子パンを三つ放り込んできた。
「……」
随分図々しい女だな……。
黙ったまま歩いていると、今度は天津甘栗の袋をどんどん入れてくる。
さすがに苛立ち、俺はカゴを放り投げた。
「ふざけんな、自分で買え!」
俺はレジでセブンスターを二つ購入し出ようとすると、背後から中国語で罵声が飛んでくる。
どうでもよかったので、無視してネットカフェへ戻った。
フラットシートの上で、布団も掛けずにそのまま寝る。
部屋の広さはギリギリ俺が足を延ばして寝られるほどのスペース。
それでも微塵も惨めだとは思わなかった。
家にいて叔母さんのピーちゃんから言われる嫌味。
これまで生きてきた事を振り返れば、あの頃より辛い事などなかった。
自身の馬鹿さ加減も反省しつつ、ここからが俺の横浜の拠点にすればいいだけ。
あれだけ嫌な思いも経験しても、俺はまだこうして普通に考える事ができる。
つまり、俺は精神的に強くなり過ぎてしまったのだろう……。
今後も壊れる事はきっと無い。
だからこの選択で良かったのだ。
あのまま家にいたら衝動的な暴威に包まれ、いつか俺はピーちゃんを殺してしまうかもしれない。
これでいい。
金がある時に、もっと早くこうできていたらなあ……。
だから先輩の坊主さんは、俺が若い頃からあの家を出て一人暮らしをしろと再三言ってきたのだ。
馬鹿だよな…、こんなにもあれから時間が経って、ようやくそう動くなんて。
いいじゃないか。
これからが俺の第二の人生のやり直しだ。
本当にジャンボ鶴田師匠や三沢光晴さんの名を汚してしまっているよなあ……。
生きている価値など、俺にあるのか?
ある訳がない。
無いからこのような現状を迎えている。
死ねるなら死にたいなあ……。
それでも俺には自殺する勇気など無い。
無様な生き恥を晒して、これまで生きてきた。
ネガティブに考えたって、どうせ俺は死ねないのだ。
なら、泥を啜ってでも生きよう。
群馬の先生が言っていた試練?
そんなものクソくらえだ。
神様が本当にいるって言うのなら、何で俺をこうも嫌な思いばかりされるのだ。
俺よりも馬鹿で悪党など、もっといるだろうが……。
何をどうやってもうまくいかない人生なのなら、せめてこの新しい土地で一人孤高に生きてやる。
それが四十一歳になった俺の存在理由だ。
月日の表記が漢字なのが かえって新鮮ですね
先生がいらっしゃったのか~って
縁を感じながら拝読しました!
> あ、... への返信
まだ行きたてで横浜のよの字もないんですが、本当に暖かい場所でしたね
いいところも、悪いところもすべて引っくるめて余す事なく、書いていこうと思っています