岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

自身の頭で考えず、何となく流れに沿って楽な方を選択すると、地獄を見ます

闇 226(2012年川越祭り編)

2025年02月19日 09時24分19秒 | 闇シリーズ

2025/02/19 wed

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闇 225(寿町と横浜橋商店街編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

闇 225(寿町と横浜橋商店街編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

2025/02/18tue前回の章俺から見ると福富町も何か陰気で薄暗く、常にヤクザ者が徘徊しているようなイメージである。ここで真面目なサラリーマンが歩いているのを見た事が無い...

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仕事中客もゼロで暇だったので、久しぶりに小説を書いてみようと思った。

幸い店のパソコンにはワードも装備されている。

四十字×四十字設定にして、縦書き。

原稿用紙四枚分で一ページとして書いていくのが俺の執筆スタイルである。

最後に書いたのが『古の着物』で、あれは確か二千十一年の東日本大震災より前だったもんな。

 

古の着物 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

古の着物もはや俺には何もなくなった……。家族から忌み嫌われ、顔を見る度に罵倒を浴びせられ、人間としての尊厳を根底まで汚された。そんな気がする。決して...

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結局書き途中で小説は止まったまま、これだけの時間が過ぎてしまった。

 

新宿コンチェルト01 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

2010年11月23日~原稿用紙?枚『新宿コンチェルト』クレッシェンド第7弾、2010年11月23日より執筆開始過去から逃げちゃいけない業を背負ってまで、俺はま...

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新宿クレッシェンド第七弾の『新宿コンチェルト』も書き途中。

 

1 最終章 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

鬼畜道最終章1最終章-岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画等)鬼畜道最終章目の前には親父が倒れている。前にも同じこのようなシーンを見た。お互いいい年をしてからの親子...

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『鬼畜道 ~天使の羽を持つ子~』も同然に頓挫したまま。

気分を新たに新しい作品でも書いてみようかな。

どっちみちクレッシェンド系にしろ、鬼畜道のあとの話でも、俺が新宿歌舞伎町へ戻ったインターネットカジノは外せない話になるだろう。

ならば、新宿へ戻るところから書いてみてはどうだろうか?

俺はワードを起動し、作品を書き始めてみた。

 


『(仮題)ブルーライト新宿』

最近よく夢を見る。

新宿歌舞伎町…、あそこにいた頃の夢だ。

様々な裏稼業を体験し、数々の人間に裏切られ、もういい加減普通の生活へ戻ろう。

そう決めたはずなのに、何故?

いつだって見る夢は、楽しく人生を謳歌していた歌舞伎町時代のものばかり。

浄化作戦が始まり、仲間のほとんどは刑務所送りや執行猶予で前科者になり、残った人間の心はどんどん荒んでいき、あの街すべてに絶望したからこそ、俺は新宿を出た。

まだ未練があるのだろうか。

違う…、歌舞伎町を出て一般社会に溶け込もうとしたが、どこの空気も俺には合わなかったのだ。

現状に満足しているかと自己に問えば、答えは明白である。

まるで満足していない。

それどころか早く死ねたらいいのに…、そんな風に考える事も多い。

ずっと彷徨い続け、いつでも俺はもがき苦しんでいる。

家族との長年に続く因縁。

何とか良い方向へと頑張ったつもりでも、醜い現実を知った時、吐きながら発狂しそうになった。

もう、あんな思いをするのは嫌だ。

そんな感覚がずっと心の奥底で渦巻き、目を閉じればいつでも鋭利な刃物でズタズタに切られたような無数の傷を負った心臓が頭の中で描かれる。

血……。

何をしようと足掻けないものであり、またそれが自身の業へと繋がっていく。

小説というものを気付けば自然と書くようになっていた。

ずっとこれまでの自分を支配していたものは憎悪。

書く事でそれが少しずつ浄化できたような感覚。

そして無限に文章を書き続けた事で、一つ気付けたものもある。

愚かな俺は、この全身に流れる血をすべて吐き出してしまいたかったのだと……。

だから戦う世界へ身を投じ、また欲望と危険が渦巻く繁華街、新宿歌舞伎町へと本能的に動いたのだ。

そんな事をしても、何一つ意味をなさない虚しさ。

やってみて十数年経ってから、そんな当たり前の事に気付く俺は、未だ大馬鹿なのだろう。

それでもまだ俺は生に執着し、もがき続ける。

もちろん普通に一般人として生きようとサラリーマンをやった時代もあった。

聞けばみんな誰でも分かるような一部上場企業を三社、自身で開業した整体など色々試みたが、どれもこれも自分の道ではないと実感した。

通常の会社勤め、これは俺にとって非常に息苦しい水の中で、だらだらと時間を送らなければならない窮屈な環境でしかない。

共に働く社員らも、下手したら裏稼業の連中よりも狡猾で、セコい人間の集まりだった。

普通に黙々と働いてサラリーを得、それを老いながら続けていく毎日。

世間一般が望むような当たり前の環境などいらない。

常識的な日常など、とっくに俺には無いのだ。

常に背中を冷たい視線で見られているような錯覚。

そこまで嫌われるような生き方を俺はしてきたのだろうか?

決して自慢できるような、人に言えるような立派な人生など歩んでいないのは自覚している。

でも、家の中での孤立には何十年経っても慣れる事はない。

これまでを思えば、まだ新宿にいたあの頃のほうが幸せだった。

家の事など何も考えず、自分の事だけを考えられたからである。

また心の底から笑いたい。

日々を楽しく謳歌したい。

そして、温かいご飯が食べたい……。

うん、俺の人生なんだ。

悔いなく生きたい。

もういいじゃないか、自分以外の事にこだわるのは。

何の見返りも求めず懸命に動いたところで、待ち構えているのは罵倒と裏切り。

誰か一人を悪者扱いする事で、成り立つ家族。

もうたくさんだ。

毎日のようにあの頃の夢を見ているという事は、またあの街が俺を呼んでいるのかもしれない。

俺が逆にあそこの空気を求めているのかもしれない。

随分と長い期間、燻り続けていたような気がする。

ならば…、居場所が無く彷徨っているのなら、また戻ってもいいんじゃないか。

あの新宿歌舞伎町へ……。

 

また新宿歌舞伎町へ戻る。

それは決めたとして、次は何の職種をするかである。

過去俺がいた時代…、今から約七年前になるのか。

随分状況も変わっているだろう。

あの頃はポーカーゲーム機を使ってギャンブルをする『ゲーム屋』。

いや、これは一番街の大火事があった辺りから警察の手入れも激しくなり、今じゃほとんど無いだろう。

あれだけあったゲーム屋も絶滅状態。

モザイクのない無修正ビデオを販売する『裏ビデオ屋』。

今ではほとんどがDVD化しているが、まだ当時は四、五枚、一万円で売られていた。

それが知り合いの話だと、二十枚、またはそれ以上で一万円になったらしい。

二十枚一万円だとしたら、一枚が五百円。

そんな枚数が手に入るのなら、客も一度の来店で一、二万使えば十分満足してしまい、売上も落ちる。

しかも警察にパクられやすい仕事なのだ。

そんなリスクを背負ってまで、やるような商売でない。

しかも浄化作戦時、無数の店が捕まり、そのあとも警察の警戒が厳しく、店の数も相当減ったと聞く。

競馬や競輪、競艇のノミ行為をする『サテライト』。

これはもっとヤバい状況にあるみたいだから、影を潜めてひっそりやっている店が数軒だろう。

『キャバクラ』や『ヘルス』、『ソープ』といった女主体の商売は、まるで俺に向いていないのは自覚している。

自分がいくら頑張ったところで、結局は女の力次第なのだから。

では、何をする?

何の商売がある?

待てよ…、当時俺が整体を地元で開業していた頃、新宿時代の従業員が痣だらけで匿ってほしいと駆け込んで来た事があったっけ。

そう、以前俺が店長として営業していたゲーム屋の『ワールド』、その時一緒に働いていた従業員の島根。

彼は俺より一つ年上で、世代も近いせいか話もよく合った。

そんな男が何故痣だらけで俺の整体へ駆け込んできたかというと、店の金、四千万円分の穴を開けてしまったと必死に状況を説明してきた。

当時ワールドを辞める際、『インターネットカジノ』という新しい裏稼業の名義人を頼まれたと言っていた。

俺自身、インターネットカジノというものが、どのようなものかまったく分からない状態だったが、笑顔で見送った。

それから数年経っても島根はその店の名義人兼店長を続けていたらしいが、ある日知り合いからメチャクチャ太い客を紹介してもらったようだ。

一晩掛からずにその客は一千万円の金を簡単に溶かしてしまったそうな。

熱くなった客は、「あとで金をすぐ持ってくるから」としつこく催促し、島根は根負けした形でポイントを入れてしまう。

何でもポイントというのはインターネットカジノをやる際に必要なチップのようなもので、現場で金と引き換えにポイントを入れるらしい。

この辺の仕組みはゲーム屋と何ら変わりない。

その客にポイントのみ一千万円分入れると、またすぐ溶けてしまい、また追加、それも無くなるとまた追加と、合計三千万円分のポイントを客に渡してしまった事になったようだ。

その金額を無事もらえれば何の問題もなかったが、島根はうまい具合にその客へ逃げられてしまい、焦った彼はいつも現場で見ているのだからと、今度は自分で勝手に店のポイントを使い出した。

そしてズブズブと一千万円分のポイントを使い切ってしまい、その店のオーナーから毎日ボコボコに殴られ(店の金に手をつけたのだから当たり前である)、俺の整体へ逃げ込んできたという経緯である。

当時そんなひと通りの話を聞いても、俺には全然ピンとこなかった。

もちろんそれは今もであるが、一人の客が一晩で四千万円も使う事のできるギャンブルなど、俺には競馬のようなものしか思いつかなかったのだ。

競馬は天井がない。

百円でも百万でも一緒である。

しかしあれから数年経っても、俺の頭の片隅にはずっと『インターネットカジノ』とはどのような裏稼業なんだろうかという興味は渦巻いていた。

ゲーム屋は絶滅、裏ビデオはヤバい。

風俗、飲み屋系は嫌だ。

そうなると俺にとっての選択肢はまだ見た事もないインターネットカジノしかなかった。

さて、新宿歌舞伎町を離れてから七年。

もはや何の伝手もない。

ではどうやってインターネットカジノで働けるのだろう。

簡単だ。

あのスポーツ夕刊紙の求人広告を見ればいい。

以前俺が勘違いから新宿へ行ったのも、この変な求人広告を見てだったからである。

俺は早速近所のコンビニエンスストアへ行き、例のスポーツ夕刊紙を購入した。

部屋に戻ると、まず求人欄を探す。

「あっ、あった!」

広告欄には【喫茶 日払一二 新宿】と簡潔に記載された文字と連絡先の携帯電話番号が載っている。

多分だけど、この『喫茶』…、このご時世だしゲーム屋やサテライトを指すものじゃないはず。

これがきっとインターネットカジノだろう。

俺は広告を見ながら、携帯電話を手にした。


 

「……」

いまいち筆が乗らないな……。

二年近く書いていなかったからか?

書ける事はまだいくらでも書ける。

ただ、俺自身が執筆していて楽しくないのだ。

何となくまだ今は書く時期じゃないような気がした。

自流の流れに沿って。

うん、今は無理に書かなくていいや。

今日の仕事が終わって寝たら、川越祭り。

純粋に地元へ帰って楽しめばいい。

俺の中にある心の傷は、まだ完全には癒えていないようだ。

 

二千十二年十月二十日。

久しぶりの帰郷。

…と言っても横浜へ来たのが、十月の八日だからまだ二週間も経っていないのか。

当然これまで家族から俺に連絡など無い。

叔母さんのピーちゃんを始め、みんな俺があの家からいなくなったところでどうでもいいのだろう。

話も何もできない血の繋がった家族など、こっちこそクソ食らえだ。

俺はもう一人だけでいい。

ただ川越にはまだ大事なものがある。

だから俺は地元へこうして戻っているのだ。

いや…、待てよ……。

土曜、日曜と川越にいたとする。

実家へ泊まるのか?

一日こっちでゆっくりして、日曜日になってから川越へ戻って、日帰りで帰ればいい。

この日は特に横浜探索もせず、のんびり部屋で過ごす。

たまにはこんな風に過ごすのも悪くない。

どうせなら連休でなく仕事に出れば良かったか。

翌日昼近くになり、ネットルームを出る。

湘南新宿ラインで新宿へ。

新宿駅から西武新宿駅までを歩く。

少し遠回りをして歌舞伎町の一番街を通ってみる。

川越が生まれた地なら、新宿は俺が成長した街。

まだ若かったというのもあるが、初期のゲーム屋時代は本当に楽しかったなあ……。

『ワールドワン』のあった地下一階はバーみたいな店になっていた。

少し進んで四十四人が亡くなった大火災のビル。

解体もとっくに済み、未だ空き地のまま。

一番街通りを進むと、元コマ劇場跡地。

もうコマの中にあったフライキッチン峰も無くなってしまった。

時代の移り変わりとはこんなものか。

当たり前のように歌舞伎町で働き、稼いだ金を何も考えずに使っていたあの頃。

無知で本当に馬鹿だった。

第二次歌舞伎町インカジ時代では、俺はこの街から弾かれた形になってしまったのだ。

裏稼業が変わったのか?

俺の能力が落ちたのか?

まあ何でもいいか。

今の俺の居場所は横浜なのだから。

俺はタバコに火をつけながら西武新宿駅の方向へ向かった。

 

西武新宿線本川越駅で降りる。

土曜初日であるが、駅前は多くの人で賑わっていた。

中央通りを真っ直ぐ進み、岩上整体跡地の交差点に差し掛かる。

祭りなので隣の中華料理王賛は休みなようだ。

そのまま歩き、連雀町へ着く。

「あ、智一郎さんだ!」

町内の一人が俺に気付き、数名が寄ってくる。

「何で着物着ていないんですか?」

「ペイントしていないじゃないですか」

「最近川越で見掛けないですけど?」

「えーい、うるさい! 今は横浜にいるんだよ。祭りだから今こっちに帰ってきたの」

まずは栗原名誉会長のところへ顔を出すとするか。

群がる町内民をどかし、俺は先へ進んだ。

途中で小人を見掛ける。

コロボックル真紀美だ。

頭に手を乗せながら「前より身長が縮んでいる」と声を掛けた。

「あ、智君! おかえりー。横浜はどう?」

「面白いですよ。毎日色々なところを探索していますよ」

「フェイスブックの寿町の記事見たけど、あれ凄い面白かった!」

この頃SNSは、ミクシィからフェイスブックに時代は移行しつつあった。

以前真紀美に誘われ、俺も始めた形だ。

「あそこほど危険地帯はもう無いですけど、これからはしばらく横浜系の記事ばかりになりますよ」

「向こう行ってから、智君毎日楽しそうだもんね」

俺が真紀美と話をしていると、雀會詰所から松永さんが出てきた。

「おう、智一郎! こっち帰ってきたのか」

「あ、松永さん、お久しぶりです。今日の祭りですぐ横浜へ戻りますけどね」

「新宿じゃなくなったんだ」

「そんな事より松永さん……」

「何だよ?」

「入学金は用意できたんですか?」

「テメー、ぶっ殺すぞ!」

俺は笑いながら逃げて、栗原名誉会長宅へ向かった。

 

一通り挨拶を済ませて外へ出ると、会う人から「あれ、ペイントは?」と次々言われ、仕方なく実家へ戻り自分の着物だけ取ってくる。

大正浪漫通りの化粧品店『加賀屋』へ顔を出す。

【資生堂】【Beauty Key】【ワタシプラス】加賀屋商店 | 資生堂の化粧品・コスメ店舗

「あら、智ちゃん、久しぶりじゃないの。最近顔見せないけど、どうしてたのよ?」

同級生ケンチンのお袋さんが笑顔で出迎えてくれた。

俺は横浜に現在いる事を伝えると、さすがに驚いている。

「たまには帰って来なさいよね。あ、そうだ。おばさん、赤飯炊いてあるから、智ちゃん食べていきな」

地元から離れて分かった事が一つある……。

俺は実家へ帰るよりも、まずこのおばさんに会いに来ているのだ。

この人がお袋だったらなあ……。

岩上整体時代から、ずっとそんな事を考えていた。

つまりここが、俺にとって誰にも言えない故郷のようなものになっていたのだ。

ずっといる場所ではないけど、それでも疲れた羽を休めに地に降りるところ……。

こんな事恥ずかし過ぎて、誰にも言えやしない。

だから俺は顔にパックを塗り、乾くとアクリル絵の具を使ってペイントを描き始める。

水性スプレーで髪の毛を金色に染めていく。

川越祭りで俺がペイントする事で喜んでくれる人がたくさんいるのなら、ずっとピエロでいい。

リングの上で本当なら色々な人に夢を与えたかった。

でも自身の力量では足りていなかった現実。

小説を書いて世の中を変えてみたかった。

少なくとも世の子供に対する虐待を減らしてみたかった。

でも、俺は頑張ってみたけど何一つ実現させる力など持ち合わせていなかったのだ。

だったらせめてこの祭りのひと時でいい。

道化師になって、多くの人を楽しませてやる。

 

加賀谷を出て隣のスガ人形店へ入る。

 

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スガ人形店

 

小中学生時代の一つ上の先輩栄治さんの家であり職場。

「おー、智ちゃん。また今年も派手にペイントしているねー」

俺が『新宿クレッシェンド』で賞を取って、周りの騒ぎが落ち着いた頃を見計らってお祝いしてくれた先輩。

そう見渡せば、俺には居場所なんていくらだってあったのだ。

もう必要以上に自分を閉鎖的に追い込む事なんてない。

俺は自由に行き、思うまま生きて行けばいいのだ。

次は家の目の前にあった映画館『ホームラン劇場』の櫻井さんところへ顔を出すか。

櫻井さんの経営する『櫻井商店』へ向かう。

川越の土産 川越お土産 川越 小江戸川越 川越お土産なら櫻井商店

人混みを掻き分けながら大正浪漫通りを真っ直ぐ進む。

「おう、智一郎」

店頭でビール販売をしていた櫻井さんが声を掛けてくる。

「あ、智一郎だ!」

岡部さんの同級生である小沢さんもいた。

「小沢さん、先日はホームパーティーへ招いて頂きありがとうございました」

「あ、智ちゃん!」

小沢さんと以前ぼだい樹で偶然会った時口説いていた女性の連れ子の美香ちゃんが、俺に気付き近寄ってくる。

まだ小学低学年のこの子は、小沢家主催のホームパーティーで二度会っていた。

よくもまあこんな俺を覚えていてくれたものだ。

 

闇 125(ぼだい樹での再会編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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「ねえ、写真一緒に撮ろうよ!」

「うん、いいよー」

久しぶりの再会に乾杯し、ここ最近の経緯を説明する。

やっぱり地元っていいものだな。

携帯電話が鳴る。

中学時代の同級生の飯野君から。

彼とは川越祭りになると、合流して一緒にいる事が多い。

「岩ヤン、今どの辺にいますか?」

「うちの近くの櫻井さんの櫻井商店分かる? そこで飲んでいるよ」

「ではあとちょっとしたら、そっち方向へ行きますね」

飯野君とは中学卒業以来しばらく連絡を取り合っていなかったが、岩上整体を開業して少し経った二千七年の四月に久しぶりの再会を果たす。

 

闇 100(女子レスラー襲来&中学時代の同級生飯野君編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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それ以来いい付き合いは続いている。

俺が小説で頑張っていた頃、一番応援してくれた友達でもあった。

彼と合流し、自分の祭りの定位置の連々会へ向かう。

 

祭りに参加する。

これは祝い金も用意して納め、それで初めて参加したと言えると思う。

住所では今成の飯野君は、律義に連々会へ毎年祝い金を納めてくれる。

「おう、智一郎! あ、飯野君もいつもありがとうな」

連々会会長の吉岡さんは、俺と飯野君にお礼を言ってくる。

「おまえ、今横浜にいるのか? 今度遊びに行くからよ。楽しいところ連れて行けよな」

「まだ行ったばかりなので、落ち着いたら招待しますよ」

「まあ、ゆっくり飲んでって。俺はあっちへ挨拶行ってくるわ」

俺と飯野君は詰所の中へ入り腰掛ける。

携帯電話が鳴る。

「智いっちゃん、今どこいるの?」

そういった事も知らず、ただタダ酒を飲みに来る男もいた。

同じ中学時代の同級生である岩崎努ことゴリだ。

彼も山車が出発する間際のクソ忙しい時間になって、連雀へやってきた。

同じ川越でもゴリの住む月吉には山車が無い。

なので川越祭りの本当の醍醐味を知らない。

辺りも薄暗くなり、日曜の本当の本番が始まる。

二本の綱を持ち、街中を練り歩く。

山車の上では囃子連の雀會がお囃子をしている。

コロボックル真紀美が小太鼓を叩き、入学金を準備しなかった松永さんは金を叩く。

後輩の金子修一は笛を吹く。

連雀町には他所から様々な人間が連々会へ入りたがる。

なので他の町内に比べ、人が溢れんばかりになった。

俺ももう四十一歳。

若手に任せ、静かに詰所で酒でも飲んでいよう。

山車から離れ、連雀の詰所へ戻る。

「飯野君は何を飲む? ゴリは?」

「僕は何でも大丈夫です」

「俺は生ビールがいいなあ。あ、あと樽酒あるならそれも飲みたい」

詰所には様々な酒やご馳走が並ぶ。

「ねえねえ、お兄ちゃん。一緒に写真撮ろ」

「お、久しぶりだな。チビ助。ゴリ、悪いけど写真撮ってもらえるかい」

祭りではペイントした俺を見掛けると、様々なチビッ子たちが寄ってくる。

人数が多過ぎてどこの家の子供かまで把握していないが、毎年祭りになれば絶対に会う子たちも多く、俺がペイントをしないと許されない変な空気があった。

一人を抱っこするとチビッ子がこぞって並びだす。

何だかんだ子供をあやすのを好きな俺にとって、こうした空間は何よりも癒しになっている。

「岩上は本当に子供好きだよなー」

ゴリが変な感心の仕方をしている。

この子たちが大きくなった時、よくこうやって抱っこして持ち上げてくれたなあなんて、記憶の片隅に残ってくれたら、俺も嬉しいものだ。

おそらく俺も小さい頃は連雀町の人たちに、こうして色々可愛がってもらったのだろうから。

今日の祭りが終われば、俺はまた横浜へ帰る。

つかの間の休息だったが、俺にはいい休みとなった。

また来年もこの時期は、きっと俺は川越に戻ってくるだろう。

 

闇 227(横浜の飲食店編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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