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2025/02/19 wed
前回の章
横浜での生活がまた始まる。
こっちは客の数も新宿や池袋に比べれば、半分以下。
暇な時は客席に座り、パソコンをいじっていても構わないので、本当に気楽な店だった。
ここ最近の日課は、空いた時間を利用した漫画のデータ集め。
画像データとはいえ、約二百ページ前後が単行本一冊なので、それを各漫画の巻数分揃えるとそこそこのデータ量になる。
例えば集英社の『北斗の拳』なら全二十七巻あるので、データ容量でいうと三ギガ半もあった。
最近はハードディスクでも、一テラという単位のものが出てきた。
一テラはギガに直すと千ギガ。
恐ろしい容量である。
あとは仕事中集めた漫画を読んでいるだけで、時間はいくらでも潰せた。
一日川越を挟んだので、今日はどの辺りを探索するか。
仕事、睡眠、横浜探索がすっかりルーティンになっている。
たまには日ノ出町駅方面にしてみるか。
ネットルームを出て左へ。
長者橋を渡ればすぐ駅だ。
今日は道沿いにここから桜木町駅方面へ向かってみよう。
右側には並行して野毛の飲み屋街。
ドンキホーテ、こっちにもあったのか。
JRAの場外馬券場を過ぎる。
ここにあるのに、すぐ近場の伊勢佐木モールにもJRAのエクセル伊勢佐木ある横浜は本当に不思議な街だ。
ひたすら真っ直ぐ歩いていくと、左手にステーキレストランが見えてくる。
『ブッチャーズグリル』。
ブッチャーって凄い名前を使っているな……。
屠殺者って意味だもんな。
それにプロレスラーで有名なアブドーラザブッチャーを連想させた。
肉好きの俺は早速入ってみる事にした。
階段で二階へ上がり、店内へ入る。
造りはファミリーレストラン。
席へアテントされ座る。
メニューを眺めてみた。
やっぱりここはステーキでしょ。
二百グラムのサーロインステーキを注文。
ブッチャーズステーキは思ったより肉も柔らかく、ライスやスープ、そして自分で取りに行くサラダバイキングなどブッフェ形式になっているので、中々いい感じ。
野菜の種類も中々豊富で好ましい。
ドレッシングは四種類。
ちょっとしたデザートまで置いてある。
ライスはもちろんお代わり自由で、カレーのルーまであるのはビックリ。
こういう店って、新宿や川越では車で行ける場所じゃないと無いもんな。
満足いくまで胃袋へ詰め込み、俺は店をあとにした。
横浜探索というよりは、何かいつも食べるものを求めて歩いているような気もするが、これはこれで楽しいからまあいいか。
マイペースに仕事を済ませ、ネットルームへ帰って寝る。
今日は以前通って休みで、ずっと気になっていたところへ向かう。
毛沢東も驚いたらしい餃子の店。
前回は閉まっていたが、今日は営業しているようで良かった。
野毛にある餃子の三陽。
店構えといい、この店は絶対に餃子が美味しい感じがした。
まだ昼の十一時前というのもあり、営業はまだと言われ、中へ入れなかった。
ブラブラ野毛を探索していると、似たような看板の店を発見。
歩いて十数秒の場所に支店。
看板通り本当に変わった店である。
迷子になるのも嫌だったので、三陽の近くの道を何度か往復してみた。
店の女性店員がまだ十一時前なのに「もういいですよ」と中へ入れてくれる。
別に急かした訳ではなかったが、有り難い気遣い。
メニューを手に取ると、膨大な数の料理や酒があった。
ランチメニューまであるのか。
餃子定食で五百円はとても安い。
品数が多過ぎて迷い、エリート定食だの壁ぎわ定食だの変な名前のメニューが多いから、しっかり見るのに時間が掛かった。
麺だと一番人気はチンチン麺か。
それにしてもチンチン麺って何だ?
メニューを見直す。
塩味のラーメンでいいんだよな……。
それにしても凄い数の料理だ。
サワー系も変な名前が多く、テポドンサワーなど、北朝鮮が怒りそうなネーミングのサワーまである。
マムシ酒とマムシ粉末入りで、何故テポドンなのかまでは分からないが……。
今度時間作ってゆっくりここで飲むのも面白そうだ。
コース名も変な名前ばかりで、サラリーマン出世コースが餃子とチリソースとスペアリブと変な組み合わせだ。
今回は例のチンチン麺も餃子も入っている壁ぎわ定食を注文する事にしてみた。
店の謳い文句は『楊貴妃も腰抜かすギャルのアイドル』というチンチン麺。
店内は細長く、とても狭い空間。
ただ、従業員がとても感じよく、色々店のお勧めなど教えてくれる。
餃子は自慢するだけあって、ニンニクはたっぷり入っているが、とても美味しかった。
久しぶりに美味しい餃子を食べたような気がする。
壁に貼ってある賞状のようなものが目につく。
何だかこの認定書も凄いなあ。
『三陽様 貴店は汚い店構えにも関わらず、素晴らしい料理を提供してくれる店として認定します。 二千九年十一月二十六日 キタナシュラン』
確かとんねるずがやっていたテレビ番組だったっけ?
この辺では結構有名なお店なんだなと思う。
チンチン麺は味が濃く、元々タン麺好きでない俺にはう~んと言った微妙な感じ。
メニューに茄子の味噌炒めがあったのを見落としていたので、次はきっとこれと餃子を頼もうと心に誓う。
ふざけた名前だけでなく、リーズナブルさも旨さも兼ね揃えたいいラーメン屋である。
きっと俺は、またここへ来るだろう。
外へ出てネットルーム方向へ戻る。
そういえば住んでいる近場の道は歩いていなかったよな。
横浜の面白いところは、あらゆるところにいきなり洋食屋があったりする部分。
まさか現在宿泊している場所のこんな近くに洋食屋があるなんて、思いもしなかった。
横浜はショーウインドーで飾られたメニューの店が多く、とても懐かしい気分になる。
川越の今ではもう無くなってしまったデパートのニチイのエスカレーターを上がったところにあった二階の喫茶店を思い出す。
ランチだとお値段もお手頃だ。
今すぐ行きたい衝動に駆られるが、さっき三陽で食べたばかりだしなあ……。
今日は我慢して、明日行けばいいか。
まだ昼になったばかりなので、時間を持て余している。
俺は適当に道を歩きながら探索を続けた。
伊勢佐木モールへ入り、関内とは逆方向へ。
自然と足は横浜橋商店街の方向へ向かい、伊勢佐木モールと平行する大きな通り沿いにある公園を通る。
横浜は至る所に公園があり、とても和む。
結局また横浜橋商店街に来てしまった……。
何だか俺はこの場所をとても気に入っているようだ。
今日は商店街を横断してみるか。
一体この通りだけで何軒の魚屋や肉屋があるのだろう?
惣菜を売っている店が何軒もあれば、鰻屋だけで三店舗もある。
こんなところへ住めたら毎日が楽しくて仕方ないだろうな。
長い横浜橋商店街を抜けた先は、三好橋商店街と書かれた通りに出る。
さすがにこっちまで来ると、少し寂れた感じに見える。
今日はこの辺にして戻るか。
橋の手前にはテレビ番組の笑点みたいな落語をする建物があった。
どこへ行っても目新しい横浜。
こっちへ来てから毎日が楽しくて仕方がない。
この近辺に住む人たちが幼い頃、必ず親に言われた事があったそうな……。
「絶対にこの三つの場所には近づくな」と。
一つは、俺自身一度行ってビビった『寿町』。
もう一つが『中村町』。
しかし、ここは現在そうでもないらしい。
そして現在俺がいる暗黒街『福富町』。
見た感じは古い建物ばかりのミニ歌舞伎町であるが、俺自身この街で見た人種は『ヤクザ』、『バイヤー』、『中国人』の三種類しかない。
バイヤーとは何か長谷川に聞いてみると、新宿でいうところのキャッチと同じ意味なようだ。
つまり福富町は、一般人がまるでいない場所でもある。
それなのに何故かこんな広い公園まである福富町。
もちろん夜中なので人っ子一人もいない。
大人しくネットルームへ戻り寝る。
起きたら、昨日からずっと気になっているこの近くの洋食屋へ。
俺は外付けハードディスクを部屋のパソコンへ取り付け、大画面で漫画を読む。
データで持っている巻数だけで、三百巻分の漫画データを持っているので、いくらでも暇潰しはできた。
俺は新宿で以前読んだ『シグルイ』をまた読み直す。
これは何度も読んでも独特の味があって面白い。
十巻まで連続で読み途中、睡魔が襲ってきたのでそのまま寝た。
目覚めると朝の九時。
まだあの洋食屋は、さすがにやっていないだろう。
二百円を持って、コインシャワーを浴びに行く。
コインランドリーを回し洗濯物を洗う間、喫煙ブースへ行きタバコを吸う。
飲み物は節約の為、近くのスーパーで安いドリンクを買い、部屋に置いてある。
常温なのが玉に瑕であるが、現状の俺は贅沢など言える身分ではない。
部屋で『シグルイ』の続きを見ながら時間を潰す。
昼になり、洗濯物を部屋の中で干してから外へ出掛けた。
ようやく待望の洋食屋すいれん。
徒歩一分もしない位置に、こんな店がある幸せを実感する。
これまで行った洋食屋は日ノ出町駅近くの『ミツワグリル』に、福富町の入口にある『グリル桃山』。
この『すいれん』で三軒目。
この辺にある洋食屋は、すべて制覇してみたい気分だ。
一体何軒あるのだろう?
しばらく外観を眺める。
やはりショーウインドーは何か落ち着く。
手書きメニューにスペシャルランチのステーキが書いてある。
ケースの中に飾ってあるメニューも、グラタンを始め、ミックスフライにピラフ、ポークカツレツにポークステーキ。
エビフライに、スパゲッティのミートボール?
A、Bセットがあってハンバーグかポークステーキ、それにエビフライや目玉焼きなど色々なものがついている。
ビーフシチューは二千百円もするから、本格的なやつだろう。
ハンバーグステーキももちろんあるな。
もう我慢できない。
俺は階段を駆け上がった。
店内は結構シックで落ち着いたいい感じの雰囲気。
従業員は老夫婦二人で営業しているようだ。
ここで俺はスペシャルランチのビーフステーキを注文。
値段は千五百円するが、とても楽しみである。
俺以外に客はまだ誰もいない状況。
比較的料理は早めに出てきた。
王道的な盛り付け。
ステーキに左からポテト、インゲン、ニンジンの甘煮にブロッコリー、エリンギのバター炒めもある。
ちょっと肉が薄く、焼き方とかを聞かれなかったのは残念だけど、これであの値段なら納得もできた。
付け合せのサラダまで付き、デザートのみかん。
ステーキ用のソースは、よくカレーに使うステンレスポットに入っての提供。
老舗らしく味も美味しかった。
また行ってみようかなと思える店。
こうして俺は洋食屋『すいれん』をあとにした。
日ノ出町駅と伊勢佐木長者駅を結ぶ道路を渡り、福富町側へ。
すぐ近場にある餃子の『翠葉』の前に出る。
【餃子の翠葉】横浜の餃子|焼き餃子|水餃子|鍋餃子|中華料理|宴会料理|
まだ少し食べ足りない。
実は餃子も食べたかったのだ。
この場所は、福富町西通りの信号交差点の角になるのか。
餃子メインの中華料理店といった感じの店。
メニューを見ると、麺類もご飯類もある。
外観をしばらく眺めてから中へ入ってみた。
本日半額だという餃子に、茄子チリ丼を注文。
本来餃子は二百九十円だが、この日は木曜日で半額の百四十五円らしい。
茄子チリ丼は三百九十円。
餃子は昨日行った三陽のほうが美味しかったけど、茄子チリ丼は中々美味しい。
これで六百円しないんじゃ、とても有り難い店である。
店を出て通り沿いを歩く。
今宿泊しているネットルームの斜め前に、変わったカフェを発見。
『横浜亜熱帯茶館 爬虫類Cafe』と書いてあり、外の看板にはお茶のメニューと店内の説明が書いてある。
二階にあるようで階段を上がっていくようだ。
非常に気になったが、ここは明日以降行こうかな。
中国茶メインで、食べ物は扱っていないようだ。
俺はそのまま伊勢佐木モールへぶつかると、右へ進む。
とにかく歩いてこの辺りを把握しよう。
伊勢佐木モールを散歩していると、こんな石碑があった。
何だ、こりゃ?
前は回りの店ばかり気にしていたから気付かなかった。
ひょっとしたら俺は、色々見落としているところあるかもしれないな。
石碑に近付いてみる。
何々『伊勢佐木町ブルース』の歌碑?
平成十二年の出来事なのか。
歌手は青江三奈さんといって故人なようだ。
横浜はいいなあ……。
地元で活躍した人をこうして称える。
俺が小説で賞を取った時、川越は何もしなかったもんな。
唯一川越ケーブルテレビが取材にきてくれたくらいで。
「ん?」
歌碑には赤いボタンがついていて、押すと『伊勢佐木町ブルース』の曲が流れる仕組みになっていた。
何か横浜の人って暖かいよな。
俺は歌碑にあるボタンを押して、デジタルカメラで映像を撮ってみた。
これ、一人で撮影していると、非常に恥ずかしいものがあるな……。
まだ仕事まで時間はある。
これから観覧車に乗りたいなあ。
足取りは自然と桜木町駅の方向へ。
横浜って福富町や寿町のような混沌とした地域もあるけど、桜木町駅周辺になると、一気に開けている感じだ。
従業員の長谷川隆曰く、昔からの横浜の住人が指す横浜は関内や福富町周辺であって、桜木町のみなとみらいなどは埋め立てでできた土地に過ぎないと豪語していたのを思い出す。
横浜は本当に景色が最高だ。
とうとう憧れの観覧車が見えてくる。
ジャンボ鶴田師匠が亡くなった翌日、俺はこの場所を知らずに歩いていたのだ。
ちょっとした感動が全身を走り抜ける。
観覧車のところまでは近いように見えて、そこそこの距離がある。
この辺りはもう海が近いのかと思うと、不思議な感覚に包まれた。
ようやく観覧車のある小さな遊園地へ到着。
さて、観覧車にやっと初めて乗れるのか。
入口まで行ってガッカリする。
運悪く今日は遊園地自体、休みらしい。
せっかくここまで歩いてきたのになあ……。
どうりでこの周辺に人がいない訳である。
入口に貼ってあるパネルを眺めた。
世界最大の時計型大観覧車『コスモクロック21』。
ん、赤レンガ倉庫って、ここから一キロぐらいなのか?
それならば行ってみようかな。
ああ、観覧車乗りたかった……。
後ろ髪を引かれる思いで、俺は案内板の方向へ進んだ。
ハマっ風と言うのだろうか。
海から来る強めの風を頬に浴びながら、ゆっくり歩いた。
赤レンガ倉庫へ到着。
この辺は本当にお洒落で綺麗。
ゴミ一つ落ちていない。
人もいっぱいいる。
中には様々な店が入っているようだが、そろそろ戻らないと仕事の時間もある。
ここから関内駅、馬車道駅へ向かう通りがあり、看板の示す方向へ歩く。
途中の橋の上から海を撮影した。
馬車道というエリアに入る。
川越でそんな名前のレストランあったけど、ここと関係あるのかな?
なかなか古風な感じの博物館。
街並みがレトロな感じで、歩いていて気分いい。
川越の蔵造りの通りにある銀行の建物に似ている建物もあった。
馬車道通り沿いにトラフグ屋があり、フグが水槽を所狭しと泳いでいたので撮影する。
それにしてもランチタイム時に、二食はさすがに食べ過ぎた。
関内駅が見えてくる。
ここまで来れば、ある程度の地理関係は分かった。
俺は一度ネットルームへ戻り、職場へと向かった。
横浜もどんどん変わってるのだなって思いました
(よくもわるくも…)
> なつかしい... への返信
この章の中の店だと、洋食屋のすいれんが閉店してしまったようですね
ブッチャーズグリフも、もう無いんですよね
当時色々目新しくて写真撮ってあったのが、残っていて良かったです
もうこれ、小説というより、当時の写真日記になってますよね(笑)