「何かあったんですか?」
「いやね、昨日の夜、店のセンサーが反応して、発報したらしいんよ」
「ああ、またですか。それで警備会社が来たんですか?」
「うん。調べてみたら、センサーが反応したのは、しんた君の売場やったんよ」
「いつもウチですねえ」
「うん。でも、今日はちょっと状況が違うんよねえ」
「え?」
「臭いっちゃ」
「は?!・・・やったんですか?」
「うん、清掃の人が、ブーブー言いながら掃除しよったよ」
話によると、ここ何週間か、ほとんど毎日、夜になるとセンサーが反応しているらしい。警備会社が駆けつけてみると、誰もいない。人が入った気配もない。おかしいと思い調べてみると、異様な臭いがするのに気がついた。臭いの根源を訪ねてみると、そこには何か液体のようなものがあったという。
ぼくは慌てて売場へと急いだ。店長代理が、「ね、臭うやろ?」と聞いた。しかし、ぼくにはいつもの臭いとしか感じられない。
「うーん、よくわかりませんねえ」
「ここまで来て。臭うやろ」
そう言われると、そういう気もする。すると、今まで麻痺していた嗅覚がだんだん効きだした。かなりの臭いである。
「ひどい臭いですね」
「そうやろ。ここ一面にあったらしいけ」
そこにあったものは、先に言った液体のようなものだったという。その正体は排出物、つまり『うんこ・しっこ』の類である。臭いからすれば、これは『しっこ』ではない。『うんこ』である。
いったい、何がこの排出物をばら撒いたのだろうか?こういう液体系の『うんこ』は、猫や犬のものではないらしい。もっと小さな動物だという。ということは、ネズミかイタチの類だろう。おそらく臭いの強さからいって、イタチのものだと思われる。店長代理は、「今日、罠を仕掛けて帰るけ」と言った。
しかし、仮に罠にはまったとする。その小動物がイタチだった場合、誰が処理をするのだろうか。罠ごと外に運び出すのはたやすい。しかし、その罠を誰が運ぶのかが問題になってくる。下手すれば、一発かまされるのである。その際、その人は息を止めて外まで持って行かなければならない。
手袋か何かをしてないと、手に臭いが付いてしまう。かなり強い臭いなので、手に付いてしまうと、一度や二度手を洗ったくらいでは臭いは落ちないだろう。食事の時、箸を口元に持ってくるたびにイタチの臭いがすれば、何を食べているのかわからなくなるだろう。
それだけでは万全ではない。イタチ持ち運び用の服を着ていないと、いったん衣服に臭いが付いてしまえば、その人はその日から『イタチ』とか『スカンク』とかいうあだ名が付いてしまうだろう。まったくもって世話の焼ける訪問者である。
さて、もうイタチ君は罠にはまっただろうか。ネズミ捕りを大きくしたような、籠状の罠である。もし捕まっているとすれば、朝ぼくと対面することになる。ぼくは今、イタチ君を見たいような、見たくないような、複雑な気持ちでいる。小動物は目がかわいいから、あの目を見るだけでも、けっこう癒し効果がある。しかし、一発やられるのも嫌である。
そういえば、今日の彼へのおもてなしは、鳥のから揚げだった。贅沢とも思われるが、イタチ君はから揚げが好物らしい。少しばかり贅沢でも、早く退去してもらうにこしたことはない。『野生のにおいのする店』といえば聞こえがいいが、つまり臭い店である。「あの店臭いよ」という評判が立てば、お客さんは敬遠して近寄らなくなるだろう。
まあ、から揚げでも何でも差し上げますから、早めに捕まって下さいませ。
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