ゴミ出し日になると、いつもやってくる迷惑な動物がいる。そう、カラスである。ぼくが出勤する時、いつもゴミ収集所の周りに彼らはたむろして、「カーカー」言っている。
「汚い」「迷惑だ」「うるさい」「気味が悪い」「危ない」「凶暴だ」「意地が悪い」「不吉だ」
彼らを評する町の声である。
確かにその通りだ。ゴミの件を別にしても、車の前を平気で横切ったりするので、迷惑だし、危ないし、また不吉でもある。だが、ぼくは個人的に、それほどカラスを嫌ってはいない。どちらかというと、親近感を抱いている。
それは、学生時代に隣のおじさんがカラスを飼っていたことに起因する。まあ、飼っていたというか、羽をケガしていたカラスをどこからか拾ってきて、ケガが治るまで保護していたと言ったほうが正しいだろう。
そのカラス、拾われてきた当初は人間に警戒心を抱いていたのか、「カアカア」言ってうるさかった。しかし、しばらくすると、ヒョコヒョコとおじさんの後をついて回るようになった。おじさんが仕事に出かける時などは、いつもまでも見送っていたものだった。それを見て、それまでカラスに対して、あまりいいイメージを持っていなかったぼくも親近感を抱くようになったのだ。
また、こういうこともあった。ぼくが自動車の教習所に行っていた頃の話だ。
教習所は山の麓にあり、いつもカラスが下りてきていた。教習所内のコースを走っている時、ある場所に来ると、教官がいつも「ちょっとここで停まって」と言った。
言うとおりに停まると、教官は車を降りて「おはよう」と言った。誰に言っているのかと見てみると、教官の前に2羽のカラスが舞い降りてきた。
教官は、「ここをウロウロすると危ないよ。はい、これ食べて帰りなさい」と言って、餌を置いた。
車に戻ってきた教官は、「あのカラス、夫婦でね。いつも私が来ると寄ってくるんよ」と言っていた。
さて、昨日のことだった。上の電線にカラスが1羽とまっていた。その時、どこからともなく別のカラスが降りてきた。そして、そのカラスの横にとまった。
喧嘩でもするのかと思って見ていると、降りてきたカラスは、何と「カア」と言ってお辞儀をしたのだ。すると、最初にとまっていたカラスも、「カア」と言ってお辞儀をした。その後も、5回ほど交互に「カア」と言ってお辞儀をやっていた。カラスがお辞儀、そんなことあるのだろうか?
ちょっと不思議な光景だった。