ぼくは担任に反抗していたわけではなかったし、特に問題を起こしたわけでもなかった。しかし、なぜか担任はぼくを嫌い、クラスで何か事が起きると、すべてぼく絡みだと決めつけていた。おそらく、担任はぼくのことを不良だと思っていたのだろう。そういうこともあって、ぼくも担任を嫌っていた。
おかげで、父兄会の時、ぼくの母は他の誰よりも時間が長くかかったという。担任はその時、母に面と向かって、
「おたくの息子さんが、クラスで一番素行が悪い」
と言ったそうだ。当然母は憤慨して家に帰ってきた。が、憤慨していたのはぼくに対してではなく、担任に対してだった。
「いくらあんたの素行が悪くても、言い方というものがあるやろ!」
と言っていた。
そういうことがあって、ぼくは担任に対して『嫌い』を通り越し、敵愾心まで抱くようになった。担任もそれに気づいたのだろう。より以上に、ぼくに対する態度が硬化した。
ところが、そういう担任が一度だけぼくに笑顔を向けたことがあった。参院選前のことだった。
ぼくが廊下を歩いていると、向こうから担任がやって来た。担任はぼくを見つけると、急に笑顔になって、珍しくぼくに声をかけてきた。
「おい、しんた」
妙に上機嫌である。
「ちょっと話しがあるんやけど、いいか?」
そう言って彼は、ぼくを物理室に連れ込んだ。
「まあ、座れ」
ぼくは一瞬『何かやらかしたかなあ?』と思ったが、思い当たることがない。
「何ですか?」
「いや、他でもないんやけど…」
「?」
「お前んとこ母ちゃん、どこか支持政党あるんかのう?」
「えっ、知りませんけど、何か?」
「実は今度の参院選のことなんやけど…」
「参院選?」
「ああ。お前から社会党に入れるように言ってもらえんかのう?」
「えっ?」
「いや、無理にとは言わんけど」
ぼくはまだ若かった。こういう時、何と答えていいのかわからない。
ぼくが躊躇しているのを見て、担任は言った。
「あっ、そうか。お前んとこは新日鐵やったのう」
「はあ…」
「じゃあ、だめかぁ」
「えっ?」
「いや、いい。新日鐵は民社党やったか。そうかそうか…」
「・・・」
「あ、悪かったのう。もういい」
そう言うと担任はさっさと物理室を出て行った。
ふざけた男である。そういうことに生徒を利用しなくてもいいじゃないか。父兄会の時と同じように、面と向かって「社会党に入れて下さい」と母に頼み込めばいいのだ。確かに母は新日鐵に勤めてはいたが、会社の支持政党である民社党はけなしていたのだ。
それ以来、ぼくと担任の溝はいっそう深くなった。重ねて、こういうことをやらせる社会党も日教組も大嫌いになった。それが現在まで続いている。
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