「もしかしたら…」
そう思ってぼくは、さらに強い念を送った。
「立ち上がれ、立ち上がれ」
すると子犬の体は、微かだが動き出した。さらに続けていると、その動きはだんだん力強くなり、体全体にエネルギーがみなぎっているようだった。
その後、子犬は足に力を入れだした。自分の意思で立とうとしているように、ぼくには見えた。何度も何度もよろけながらも、子犬は立ち上がろうとした。そして何度か目の挑戦で、ついに子犬は立ち上がった。
「立った!子犬が立った」
まるでアルプスの少女ハイジでクララが立った時ように、ぼくははしゃぎまわった。
ぼくはおよそ半年ぶりに、その子犬が立つのを見たのだった。
それ以降子犬は、段ボール生活をしなくなった。長い間寝たっきりだったので、動きはぎこちなかったが、それでも立って歩き回るようになった。
しかし、相変わらず、食べることはあまりしなかった。そのため、骨と皮だけの体のままだった。そして、それが致命傷になった。
子犬は、その後1年足らずで死んでしまった。
子犬が死んだ後、ぼくは一つだけ後悔したことがある。それは、子犬に念を送って、食欲が出るようにしてやればよかったということだ。犬が立ち上がったことに浮かれて、食欲の方をすっかり忘れていたのだ。もし、やっていれば、もう少し長生きしたかもしれない。
その後、ぼくの念力の記憶は薄れていった。
「そういえば、あの時念力で子犬を立たせたんだった」と思い出したのは、ごく最近のことだ。
もしあれから念力を鍛えていたとしたら、もっと違った人生を歩んでいたに違いない。少なくとも、肩や腰の痛みくらいは自分で治せるようになっていたことだろう。
そう思ったぼくは、あの時やったことを思い出しながら、肩や腰に念を送ってみた。しかし、すでにその能力は失われていたのだった。
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