無能主婦・塩茶のつぶやき

今日もゆるりと

2025/02/19 汚部屋④

2025-02-19 15:23:00 | 日記

   ③の続きです→

このお掃除の間にもトイレに行く可能性は高かったため、早めに確認しておきたかった。


度々お伝えすることになり申し訳ないが、今後も中々イカツイ描写が登場するので引き続きご注意いただきたい。


この家は、リビングを出て廊下を進むとトイレがあり、その近くに洗面所や脱衣所、お風呂がある。

「ここがトイレで、あっちの方が洗面所とお風呂ね。ちょっと汚いけど」

急にお風呂の方が気になり出した私は、先に見に行くことにした。
「汚い」という今更な申告は一旦スルーすることにした。


妙な緊張のなか足場を見つけつつ廊下を進む。洗面所前のスライドドアを過ぎてお風呂の扉をそっと開け、恐る恐る覗き込み、私は「ここのお風呂は全面ブラック仕様なんだね」と口にしようとして、咄嗟に飲み込んだ。ここまでに見てきたモノを鑑みるとそれは考えづらいような気がした。

「洗い場広くていいねー」
あまりにも無難なコメントだがそれくらいしか絞り出せなかった。
じっくりと中を観察してみると、壁や床の一面のブラックを作り上げていたのは、この世の全ての胞子を集結させたかのような信じがたい量の カビ だった。
カビたちはお風呂の使用者が一切掃除しないのを良いことに、少しずつ仲間を集め、増殖し、各地に出向いてはその生息範囲を広げ長年かけて現在の大国を築き上げたようであった。

よくよく見るとこぢんまりとしたイスや洗面器まで侵略されている。
私のアパートに来るまで彼はずっとこのお風呂に入っていたんだと思うと、私の心には何故か母性のようなものが生まれ、「この人を毎日綺麗なお風呂に入れてあげなければ!!」という謎の使命感まで抱いてしまった。

そして洗面所の方を見てみると、こちらは洗面ボウル内に不思議な茶色の汚れがはびこり、ボウルの元の色がほとんどわからない状態だった。かろうじて汚れの隙間を発見し、「洗面所は薄ピンクなんだ。可愛いね」という無意味なフォローを入れることで彼ではなくむしろ己を鼓舞することに成功した。

ある程度予想はついていたが脱衣所の床にも、前回登場のキッチンマットくんの関係者と思われるとんでもなく汚れまくったバスマットくんが佇んでいた。ちなみにバスマットくんは元々かなりタフだったことが裏目に出て、いま現在もなんと現役であり、しかもバスマットとしてではなく、室内で発生したすごく汚い水とかを吸い込む役割でこき使われている。


言うまでもないがお風呂や脱衣所・洗面所もありとあらゆるモノたちで溢れかえっていた。
我々はまたモノをかき分け足場を見つけつつ来た道を戻りトイレへ向かった。


トイレに関して言えば、入った瞬間に「これは少なくとも5年は掃除してないな」と一目で分かる容貌だった。
全体的に、茶色くホコリ被っている。
トイレが茶色に見えるほどホコリ被るという「過程」の想像が難しい状況と、壁に備え付けのタオル掛けにかかっているカラカラにしおれたタオルを見て、またもやじわじわと笑いがこみあげてきた。

トイレの中で笑いを堪えニマニマしながら、その流れで便器くんの中を覗いた。
便器内は、茶色い汚れがフチ裏から排水される方へと流れる「道筋」が、それはもうクッキリと浮かび上がっていて、あまりにも見事な濃い線ができているものだから見た瞬間吸い込まれるような錯覚に陥った。これはこれである種の芸術だと思ったくらいだ。

そうやって眺めていると、彼が
「僕がお風呂と洗面所を掃除するから、塩茶ちゃんはトイレをお願いね。」と言ってきた。

別に掃除場所自体は構わないのだがなぜその配置なのかと尋ねると、
「僕が汚したところは僕が責任持って綺麗にしないと。こんなに汚れたところで塩茶ちゃんに顔洗わせるわけにはいかないから。」と返ってきた。


トイレはいいんだ、
と脳内で発された声に思わず笑いそうになり、私はまた吹き出すのを我慢した。



私たちは黙々と、担当箇所を掃除した。
トイレのこびりつきは予想以上に強固で、洗剤をかけてはこすり、またかけてはこするというのをひたすら繰り返した。渾身の力を込めても汚れはほとんど剥がれることはなく、この便器内ステージにどれほどの積み重ねがあったのかをうかがわせた。
彼は彼でお風呂のカビ取りをしていたが、取り掛かる前にカビ取り剤を見せてきて、これは電池内蔵で一回一回レバーを引かなくても自動噴射されるんだよと嬉しそうに実演してくれた。
実演を一通り見終わって「へー、初めて見たよーすごいね」ととりあえず返事したが、彼はこの時だけでなく、その後も何かを手に持つと必ず私にそれを見せてきて、手に入れた経緯や思い出を語り出すのだ。全てしっかり聞いているといくら時間があっても足りないと察した私は、全ての話に「そうなんだ、すごいね」と返事することにして、それから私は話しかけると「すごいね」と返すだけの「すごいねマシーン」と化した。


この時点で、私のアパートの退去まで2ヶ月を切っていた。

なんとしても終わらせなければならなかった。

しかし、この時まだ、寝室のある2階は全くの手付かずだったのだ。




    →⑤へ続きます