無能主婦・塩茶のつぶやき

今日もゆるりと

2025/02/12 汚部屋③

2025-02-12 15:30:00 | 日記

②の続きです→


室内はとにかく暗かった。
この部屋には大きな窓が二つ、中くらいの窓が一つあったが、カーテンを閉め切っているだけではここまで真っ暗にはならないだろう。


この真っ暗闇の犯人は、全ての窓のカーテンレールに隙間なくビッシリと掛られた、洋服たちだった。
よくこんなに器用に並べられたもんだとある意味感心すると同時に、ここまで負荷を与えられてもビクともしないカーテンレールの頑丈さに驚いた。そしてなんと洋服はそこだけに収まらず、ダイニングテーブルの上にも相当な量が無造作に積まれていた。

「お、お〜やっぱりすごい洋服持ちだね〜」
圧倒的な洋服たちの攻撃力にたじろいだ私の口からは、それくらいしか出てこなかった。
普通こんな部屋を誰かに見せるとなればかなり躊躇するはずだが、彼からそういった「恥ずかしい」的概念は全く感じられず、それどころかちょっと誇らしげだった。(ように見えた。)

しだいに部屋の全貌が見えてくると、床という床、棚や小さな台やキッチン前のカウンターに至るまで、「そうしないと◯されるから」という理由があるとしか思えないほどモノで埋め尽くされていた。
モノたちの一つ一つは、まだ問題なく使える付箋や写真立てや、よくわからない記念品や、絶対に見返すことはないであろう書類など多岐に渡った。

先々、この部屋で生活することになるのか。

私はこの時になって初めて、自分がとんでもなく大きな山を登り始めたことを悟った。

まずは人間が歩く道を作るところから始めなければならない。一瞬気が遠くなった。

私は来た時から一番気になっていたエリアについて尋ねた。
「あ、そうだキッチン見てもいいかい?」

ちなみにここからは(できるだけぼかしているが)今まで以上に閲覧注意である。



キッチンは、ダイニングからカウンターを挟んで繋がっていた。
しかしもうお察しの通り、「憧れのカウンターキッチン」とか言ってる場合じゃない状態だった。

先にお伝えしておくと、このキッチンの掃除は数年に及んだ。入居前にできたことはほんのわずかである。

キッチンに入ると、まず真っ先に目に飛び込んできたのが、コンロ奥の非常に狭い幅に高々と積み上げられた謎の木の板らしきモノだった。

「これッ・・・なッ、なに?ブフッ」
限界を突破した私は吹き出しつつ、そしてなんとなくその正体を察しながらも聞いてみた。

「あぁ、それね、カマボコ板」
「ブファッッ」堪えきれなかった。

彼はカマボコを食した後、板から丁寧に身を削ぎ落とし、洗って乾かして、コンロ奥のスペースにジェンガのように高々と積み上げ続けているようだった。もちろん一列で収まるはずもなく、どんどん奥へと進み続けその時点で5列か6列くらいあった。保管しておく理由は「何かに使えるから」だそうだ。

しかも最も衝撃的だったのが、このカマボコジェンガには無数の黒い点がついており、それが床の飛び石空きスペースで天を仰いでいた彼らの生きた証だという点であり、それに気付いた私はすぐさま目線を外して見なかったことにした。(ぼかして書いているので意味が分からない方もいるかもしれないが分からなくても全く問題ないのでご安心いただきたい)



キッチンにはカチコチに固まった調味料や、彼が実家から持ってきて使わずに置いておいたと思われる賞味期限が7年くらい前に切れた食材や、これでもかとホコリ被ったお皿など、予想を凌駕するモノたちがたくさん存在した。

そして床には、元の色が分からなくなるまで汚れて踏みしだかれ、ボロボロに朽ち果てたキッチンマットくんが虚しげな目で横たわっていた。
もうこの子の役目は十分に果たされたと思うのだが、彼はそんな状態になった者をも見捨てない優しい心の(?)持ち主だった。

しかし最終的には捨てた。


我々はその日、リビングのガラステーブルの上にかろうじて二人分の食事スペースを確保し、コンビニで買ってきたごはんを電子レンジで温め、綿埃くんと愉快な仲間たちや、床で仰向けの黒い彼らや、彼らのアレらがついたカマボコジェンガや、瀕死のキッチンマットくんと共に昼食をとった。
色々考えると手が止まるので、思考停止でテレビだけを見て黙々とごはんをいただいた。


しかしこれほどの状況であっても、お風呂・トイレに比べたら大したことなかった。
我々は恐怖の水回りゾーンへと突入した。


     ④へ続きます→




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