①の続きです→
『箱』を玄関扉開けてすぐの場所に置いているのは「そこしか置く場所がなかったから」だそうだ。彼は、玄関スペースの8割程を占めるその木箱を慣れた動きでひらりとかわし、奥へ消えていった。
私はその超・巨大箱の存在感に圧倒されながらマンボウのように体をぺたんこにして隙間をかいくぐり、どうにか家の中に入ることに成功した。彼はかつて毎日これの横を通り出入りしていたというのか。
玄関スペースはやはり埃っぽかったものの、なんとなく落ち着く不思議な香りがした。
少し進むと、和室の入口らしきふすまが見えた。
「ここのお部屋、和室?開けてもいい?」
「うんいいけど、」
言い終わらないうちに開けた。
すると、某大人気海賊系少年漫画でおなじみの効果音とともに、中に入る者を拒む要塞の兵のような出で立ちで
冷蔵庫
が暗闇の中から現れた。
よく見るとふすまぎりぎりのところにこちらを向いて設置されており、その上なんと稼働していた。そこそこの大きさだったので、横を通り抜けて和室に入ることも、中を見渡すことも困難だった。
この時点で私はかなり笑いを堪えていた。
「なッ・・・なんでこ、ここにッ冷蔵庫がッ?・・・」
決して馬鹿にしているわけではないという意思を伝えたい一心で、できるだけ明るくポップに聞いてみた。
「そこに置いといたら、帰ってきてビールとかすぐとれて便利なんだよね。それに他に置く場所ないし」
吹き出しそうになるのを抑えたが、限界は近かった。
まだ廊下を数歩進んだだけなのに、既に来る前のイメージ像が甘すぎたと痛感していた。
廊下にもよくわからないモノたちがあちこちに点在しており、足元にはふわふわと周囲の仲間を吸収し育ちまくった綿埃くんたちが隅っこを中心に集結していた。
数少ない床が見えるエリアでは虫さんが天を仰いで静止しており、よく見ると虫さんそのものにもうっすら埃がかかっていた。その後も床が見えるエリアに限って虫さんが発見されるが、いずれも静止状態だったため、なるべく焦点を合わせないことで回避(?)可能だった。(ちなみにこの子達の回収は相当後のことになる)
そして、ついにリビング・ダイニングへと足を踏み入れることになった。
そこは魔界だった。
→③へ続きます