塩茶家は、私の自室以外の部屋がいわゆる「汚部屋」だ。
汚部屋といってもレベルは様々だと思うが、室内の状況を人に説明すれば「わ〜かなりやばそうだな〜」と間違いなく感じるだろうくらいにはしっかり汚い。
私の部屋がその中でもマシなのは、私自身が管理可能な範囲がこの部屋だけ比較的広いからだ。とはいっても、ただでさえ狭い部屋に無理矢理押し込まれた夫のソファ三つは意地でも退けてもらえず、残ったスペースにも夫のかねてからの所持品を置かれているため実際使用できる場所はごく狭い範囲に限定されている。
なぜ片付けないのかと疑問に思うだろう。
答えは単純で、片付けさせてもらえないからだ。
以前あまりにも汚すぎる部屋を勝手に片付けたところ、気付いた夫に烈火の如く怒られ、それ以降家の中のモノを動かすことを禁止された。もちろん、「片付けたがらない家族へのポジティブな声かけ」とか「断捨離のメリット説明」とかあらゆる方法を試してはみたが、夫には効果がないようだった。
ここまで読んでくださった方の中には「あれ、なんか暗い話かな?」と思われた方もいるだろうが決してそうではないので安心してほしい。
もともと我々は結婚前、私の狭いアパートに夫が転がり込んできた形の同棲状態だった。
半年ほどそれは続いたが、いよいよアパートの更新時期となり、夫となる彼がその時点で既に所有していた一軒家に移り住むこととなった。
彼は、自分が一人暮らししていたその一軒家が非常に散らかっており、引越し前に一旦掃除が必要だと申告してきた。
汚いと言ってもそれほどではないだろうと甘く見た私は
「いや〜大丈夫だようちもあんまり綺麗じゃないしさ」などと今思えば大変にのんきなことを言い笑ってみせた。
掃除当日、彼は大量の指定ゴミ袋と軍手を携えていた。その時点で少し違和感を覚えたが、車に乗り込み件の家に到着すると、少なくとも家自体の外観はそれほど散らかった印象は受けない。というより、庭などは本当に「何もない」「空っぽ」といったかんじだった。
「なんだ、綺麗なおうちだね」
少し拍子抜けした私がそう言うと
「ここだけ見ればね」
とむこうを向いたままの夫が返した。
嫌な予感がした。
改めて家の外観を見てみると、綺麗は綺麗なのだが、なんというか、全体的に埃かぶっているような、くすんでるいるような・・・近隣の家は色味が豊かで生き生きとしているのに対して、この家だけなぜか「灰色」のベール?をかけられている気がした。(今思い返すと、ほとんど誰も住んでないに等しいのだからそうなっても不思議ではなかったのだが、その時は理由が分からなかった。)
そしていよいよ家の中に入る瞬間が訪れた。
緊張しながら玄関扉を開けると、目の前には、私が三人ほど入れそうな超・巨大な木の箱が現れた。
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