そろそろ札幌に着きたいな……と思わなくもないこのシリーズ。ご安心ください。札幌まであとたった500㎞です。
さて、静岡からここまで鈍行の旅をしているわけですが、今回は言わずと知れた青春18きっぷではなく、『北海道&東日本パス』という切符を使用しています。
簡単に言ってしまえば、青春18きっぷ・東日本限定版と言ったところでしょうか。JR北海道とJR東日本の普通列車・快速列車が、7日間乗り放題。5回分を分けて使える青春18きっぷと違い、一人で連続で使用することになります。エリアの制約が大きいのか、青春18きっぷが11500円なのに対し、北海道&東日本パスは10000円と割安になっています。指定席・グリーン車自由席などの扱い(グリーン車指定席を除き別途券を買うことで乗車可)や、普通列車がないために特急料金なしで乗れる区間(新夕張~新得など)などは共通しています。
今回のケースでは、静岡から熱海までがJR東海なので北海道&東日本パスでは別途乗車券が必要になります。熱海までの運賃は1280円なので、足すと11280円。青春18きっぷと大差ないように思えます……が。
今回北海道&東日本パスを使用した大きな理由の一つは、盛岡からIGRいわて銀河鉄道経由で北を目指すためです。
この鉄道は、2002年の東北新幹線八戸開業で生まれた副産物のようなものです。新幹線の開業で優等列車が消えた路線の経営がままならないとして、1997年の長野新幹線以降、並行在来線は原則廃止されることになっています。東北新幹線の盛岡以北も例外ではなく、八戸開業とともに東北本線の盛岡~八戸は第三セクターとなりました。県境を境に、岩手県側はIGRいわて銀河鉄道、青森県側は青い森鉄道となりました。
長野新幹線では、地元客の往来が少ない碓氷峠がネックになったのはわかりますが、わざわざJRから切り離す必要はあったのかと疑問がわきます。車両はIGR7000系という名称がつけられていますが、どこからどうみても701系です本当にありがとうございました。本数も東北本線時代から優等列車が消えたぐらいで、盛岡近郊では区間列車が運行されているほどの需要を抱えています。むしろ、地元客からすれば運賃の値上げが、そして外来客にとってはJRと別運賃になったことで、弊害の方が大きい気もするのですが。国策のために在来線を押し付ける今のJRの姿勢が正しいとは、私には思えません。
理由はともかくとして、JRと別会社なので青春18きっぷは使えません。しかし、青森県側の青い森鉄道とあわせると、盛岡~青森だけで5330円。これでは青春18きっぷを使っても安くなりません。しかし、北海道&東日本パスではIGRと青い森鉄道、同じく第三セクターの北越急行と、なぜか富士急行も乗ることができます。この区間を乗るだけで半分も元が取れるのですから、静岡~熱海など大した費用ではありません。
盛岡で夕食を取ってからIGRの改札をくぐります。当初は青森で夕食にするつもりでしたが、一ノ関から乗ってきた1543Mから乗り継いで青森につくのは20時48分。青森駅前は市街地から離れていることもあり店が少ないので、盛岡で食べた方が食いっぱぐれる心配がないと踏んでの判断でした。なにしろ、今日の目的地は青森ではないので……
よく考えたら、一ノ関にいたがらがらの快速「ジパング平泉」に乗っても間に合った(前回記事参照)……と、少し後悔していると、1番線に青い森鉄道の701系がやってきました。県境の目時を境に会社がわかれていますが、多くの列車は盛岡~八戸を通して運転されるので、こうしてIGRで青い森鉄道の車両を見かけることも少なくありません。どうせ701系だしね。
[盛岡18:15発/IGRいわて銀河鉄道・青い森鉄道4541M 盛岡発八戸行]
2両編成のIGR7000系は鈍行旅の客と地元客で満杯になり盛岡を発車しました。青山、厨川と停まるたびに地元客が下りていき、滝沢からは1両目後方のドアから乗車・前方から乗車のワンマンスタイルになります。花輪線乗り換えの好摩、新幹線とつながる沼宮内でどっと下車し、車内は大きなカバンを持った鈍行客ばかりが目立つようになります。
一戸・二戸付近を除くと目立った集落はほとんどありません。どっぷりと日が暮れた闇の中をIGR7000系はひた走ります。
県境の目時には19時38分。会社が変わりますが、運転は盛岡から八戸まで一体となっているので、他の駅同様十数秒の停車で発車します。
19時48分。約5分遅れで三戸に到着。途中ですがここで下車します。
反対のホームにいる青森行に乗り換えます。八戸でも乗り換えることはできますが、この列車は三戸始発なので、三戸で席を確保しておきたいところです。
同じことを考えていたのか、十数人が雪がしんしんと降る三戸で乗り換えます。
乗り込んでみると、701系なのにボックスが! 乗り込んだ青い森701系100番台は、青い森鉄道唯一の新製車両であると同時に、唯一のセミクロスシート車だったのです。盛岡から4時間、701系のロングシートに耐えるつもりでいた私には感激ものでした。
元がロングシートの車両なので、座席配置は独特なものになっています。
三戸でボックスシートを難なく確保。八戸で乗り込んだ乗客は余ったロングシートに座ります。三戸で乗り換えて良かった!
[三戸19:52?→青森22:04(約15分遅れ)/青い森鉄道585M 三戸発青森行]
15分ほど遅れて青森に到着。盛岡色のキハ40と肩を並べます。
後方車両でこの積もり方ですから、道中どれだけ降っていたか想像がつくと思います。
時刻はすでに10時を回り、ご覧の通り駅前は閑散としています。こんな時間に駅にいるのは、最終電車を待つ人か、もしくは――
――急行「はまなす」を待つ人ぐらいしかいません。
東北本線を途中駅に見向きもせずひたすら北上していた理由。それこそ、この「はまなす」に乗るためだったのです。
かつて全国的に走っていた急行も、特急への格上げや快速への格下げ、列車そのものの廃止などで数を減らしていきました。2012年のダイヤ改正で「きたぐに」が消えた現在、定期急行として残るのはこの「はまなす」だけです。
22時10分の入線予定とのことですが、まだ列車が来ていないのに、青森駅3番線では多くの乗客が「はまなす」を待っていました。見ての通り、雪は屋根の下にまで降りこんでいます。
「はまなす」の人気は、何よりもその使いやすさにあります。
「はまなす」の誕生は1989年と、比較的最近のことです。青函トンネル開業とともに誕生したこの列車は、青森と札幌を結んでいます。青森22:42発・札幌6:07着(下り)のダイヤは、登場時とほとんど変わっていません。快速「ミッドナイト」無き今、本州からくる寝台特急を除けば、函館本線を走る唯一の夜行です。急行なので、自由席なら運賃+1260円と安く済みます。道内の移動だけでも時間がかかるので、効率よく北海道を回るには必須とも言っていい列車です。
北海道&東日本パスを使ってきたもう一つの理由もここにあります。
元々青春18きっぷでもネックだった青函トンネルは、快速「海峡」の廃止でさらに使いにくくなりました。青函トンネルを通る普通列車がなくなったため特例区間が設定されましたが、その区間は青森の蟹田から北海道の木古内まで。青函トンネルを挟む最低限の区間だけが特例区間になったので、それまで「海峡」で青森~函館を通しで行けたのが、蟹田と木古内で乗り換えないといけなくなりました。両方の駅に停まらない列車に乗った場合は、特急券の他に運賃もむしりとられます。だというのに蟹田と木古内の接続も悪く、青函トンネルは18キッパーにとっての壁になりました。
しかし、北海道&東日本パスでは、急行券を買い足せば「はまなす」を含めた急行――とはありますが、事実上「はまなす」に限られます――を利用できるようになっています。これは、北海道&東日本パスが5日間用だった時代にあった、「「はまなす」の自由席に限り利用可能」というルールが拡大されたものです。追加料金が必要になったとはいえ、「はまなす」名物のカーペットカーや寝台車なども利用できるようになりました。北海道&東日本パスは、夜間を有効に利用でき、ネックとなる青函トンネルを抜けられる「はまなす」のためにあるような切符なのです。
ちなみに、新青森~函館の間では、特急の自由席も特急券を買うことで乗車できます。青函トンネルを越えるなら、18きっぷに比べ北海道&東日本パスが断然優位に立っています。
青い森鉄道のホームに移動して、「はまなす」の到着を待ちます。
やがて、青森運転所からディーゼル機関車に牽かれて「はまなす」がやってきました。
……が、「はまなす」がホーム端に停まってしまったため、先頭を務めるED79形の前面を拝むことは叶いませんでした。
基本は7両の「はまなす」は、年末年始ということもあって最大の12両にまで増結されていました。かつての青森を発着していた東北特急「はつかり」が最大13両であったことを考えると、いかに長いかが分かります。
「はまなす」は14系と24系の2種類の客車からなります。14系は客車にディーゼル発電機を積んだ分散電源方式、24系が発電機を積んだ電源車から各車両に電気を引く集中電源方式と異なっていますが、14系の電源を24系に回すことでこの問題を回避しています。
1号車のスハネフ14-551。「北陸」無き今、唯一の14系寝台客車です。24系と連結するための改造が施され、550番台を名乗っています。
2両目のオハネ25-11。これは後で解説します。
「はまなす」名物のカーペットカー・オハ14-512。これも車内は後ほど。
……と、こうして1両ずつ記録をつけていると、
なんということでしょう。ホームが途中で柵で仕切られて、奥に行けないではありませんか。
青い森鉄道は最大でも6両なので、それに合わせて線路が撤去されたのでしょう。
仕方がないので、反対側のホームからもう一度見ていきましょう。
ED79形は、東北地区で活躍していたED75形を青函トンネル用に改造、もとい、特化させた機関車です。トンネル内は高湿度になるためそれに対応した作りになっており、青函トンネルで使用される特殊なATC(ATC-L)を搭載しています。元々が客貨両用の万能機関車だったのを活かし、青函トンネルの主として数々の列車をけん引してきました。一部の列車では重連がみられます。最近ではEH500形に押されつつありますが、現在も「はまなす」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」「北斗星」の先頭に立っています。
続いて連なる客車たちを見ていきましょう。
本当は外観を一通り撮った後に内部を撮ったのですが、仕様上あわせて紹介していきます。
1号車のスハネフ14-551(寝台車)。この日の寝台はすべて満席。発車前からすでに車内は暗く、寝入っている人も多数見受けられました。
ちなみにこのスハネフ14形550番台、元は集中電源方式の24系のオハネフ25形です。。スハネフ14型が不足していた時に、車体の似ていたオハネフ25から改造されました。
「はまなす」のエンブレムが入るのはなぜか1号車だけです。
寝台車のトイレは1両に2つついているのですが、「はまなす」は片方が女性専用になっています。
2両目のオハネ25-11(寝台車)。しかし、この車両は2号車ではなく……
『増21号車』(ぞうにじゅういちごうしゃ)の札がかかっています。
これは、「はまなす」の基本編成において1・2号車が寝台車になっているためです。後々紹介する「カーペットカー」「ドリームカー」の存在が、この謎の号車番号を生みました。
車内にも『増21号車』の文字が。
中は1号車とほとんど変わりません。
3両目の『2号車』、オハネ24-502(寝台車)。
実はこの寝台車、オハネ14-509からの改造車です。そう、元は14系寝台車なのです。
もう一度言いましょう。
1号車:スハネフ14-502(14系)←24系からの改造車
2号車:オハネ24-502 (24系)←14系からの改造車
……あ、あるぇー?
何の因果か、「はまなす」では元24系の14系客車と、元14系の24系客車が手を取っています。どうしてこうなった。
3号車からは座席車両になります。車両はスハフ14-557(指定席)。基本編成(7両)の時は自由席ですが、増結している今日は指定席になっています。
座席の端には、大型の荷物を置くスペースがあります。
4号車・オハ14-512《カーペットカー》。
側面中央に、「のびのびカーペット」のイラストが入ります。
中はカーペットが2段、ひな壇のようになっています。下の段は通路に対して横に、上の段は通路に対して縦にそれぞれスペースが作られています。名前の通りのびのびとできる上布団もついていますが、追加料金は指定席料金(510円)のみとあって大人気の車両です。
続く5号車はオハ14-508《ドリームカー》。
通常より大形のリクライニングシートが並びます。確かに、通常の車両よりはいい夢が見られそうな車両です。こちらも指定席料金を追加するだけで乗ることができます。
カーペットカーとドリームカーは、編成組成に関わらず4号車と5号車になります。寝台車に『増21号車』があるのは、これらの車両が常に4・5号車になるからです。
ドリームカーの端には、ちょっとしたフリースペースがあります。
6号車のオハ14-505(指定席)。3号車に比べると空いています。
7号車のスハフ14-501(指定席)。14系客車は発電機を積んだスハフ14、中間車のオハ14、発電機なしのオハフ15があり、スハフ14の発電機は6両分の電源を供給できます。ここまでの8両で発電車両が3両(1・3・7号車)というのは、過多な気がします。むしろ発電機の音がうるさいので1両ぐらい発電機を撤去してもよさそうですが……
基本編成は増21号車以外のここまでの車両で構成されます。ここからの増結車両はすべて自由席です。
8号車はスハフ14-555。またしても電源供給過剰です。
年末年始なので、自由席はご覧のように混んで…… ない……だと?
むしろ指定席車よりも空いているような……
9号車・オハ14-531・10号車・オハ14-505もこの有様。指定席よりも悠々と座れます。
11号車・スハフ14-506。
せっかくなのでフラッシュをたいて撮影。
外に出ると、向かいに緑の客車の姿が。大阪と札幌を結ぶ「トワイライトエクスプレス」です。豪華な設備と日本一の走行距離を誇る列車ですが、青森では客の乗降ができません。ここで機関車を付け替え、進行方向を変えます。
「はまなす」のブルーと「トワイライトエクスプレス」にグリーンが対照的です。
「トワイライトエクスプレス」が去ったホームには、701系がうじゃうじゃ。こちらが青森駅の実情に近いと思います。
22時50分。既に発車時刻は過ぎているのですが、遅れていた青い森鉄道の列車を待ちます。定刻でも22:38着/22:42発とギリギリなので、避けて正解でした。道中、宇都宮・白石・仙台・盛岡と全ての線区で遅れていたので、下手をするとこの「はまなす」まで辿り着けなかったかもしれません。
いよいよ日本最後の定期急行・「はまなす」が出発します。
次回は最終回。「はまなす」の旅路をじっくりとお届けします。
さて、静岡からここまで鈍行の旅をしているわけですが、今回は言わずと知れた青春18きっぷではなく、『北海道&東日本パス』という切符を使用しています。
簡単に言ってしまえば、青春18きっぷ・東日本限定版と言ったところでしょうか。JR北海道とJR東日本の普通列車・快速列車が、7日間乗り放題。5回分を分けて使える青春18きっぷと違い、一人で連続で使用することになります。エリアの制約が大きいのか、青春18きっぷが11500円なのに対し、北海道&東日本パスは10000円と割安になっています。指定席・グリーン車自由席などの扱い(グリーン車指定席を除き別途券を買うことで乗車可)や、普通列車がないために特急料金なしで乗れる区間(新夕張~新得など)などは共通しています。
今回のケースでは、静岡から熱海までがJR東海なので北海道&東日本パスでは別途乗車券が必要になります。熱海までの運賃は1280円なので、足すと11280円。青春18きっぷと大差ないように思えます……が。
今回北海道&東日本パスを使用した大きな理由の一つは、盛岡からIGRいわて銀河鉄道経由で北を目指すためです。
この鉄道は、2002年の東北新幹線八戸開業で生まれた副産物のようなものです。新幹線の開業で優等列車が消えた路線の経営がままならないとして、1997年の長野新幹線以降、並行在来線は原則廃止されることになっています。東北新幹線の盛岡以北も例外ではなく、八戸開業とともに東北本線の盛岡~八戸は第三セクターとなりました。県境を境に、岩手県側はIGRいわて銀河鉄道、青森県側は青い森鉄道となりました。
長野新幹線では、地元客の往来が少ない碓氷峠がネックになったのはわかりますが、わざわざJRから切り離す必要はあったのかと疑問がわきます。車両はIGR7000系という名称がつけられていますが、どこからどうみても701系です本当にありがとうございました。本数も東北本線時代から優等列車が消えたぐらいで、盛岡近郊では区間列車が運行されているほどの需要を抱えています。むしろ、地元客からすれば運賃の値上げが、そして外来客にとってはJRと別運賃になったことで、弊害の方が大きい気もするのですが。国策のために在来線を押し付ける今のJRの姿勢が正しいとは、私には思えません。
理由はともかくとして、JRと別会社なので青春18きっぷは使えません。しかし、青森県側の青い森鉄道とあわせると、盛岡~青森だけで5330円。これでは青春18きっぷを使っても安くなりません。しかし、北海道&東日本パスではIGRと青い森鉄道、同じく第三セクターの北越急行と、なぜか富士急行も乗ることができます。この区間を乗るだけで半分も元が取れるのですから、静岡~熱海など大した費用ではありません。
盛岡で夕食を取ってからIGRの改札をくぐります。当初は青森で夕食にするつもりでしたが、一ノ関から乗ってきた1543Mから乗り継いで青森につくのは20時48分。青森駅前は市街地から離れていることもあり店が少ないので、盛岡で食べた方が食いっぱぐれる心配がないと踏んでの判断でした。なにしろ、今日の目的地は青森ではないので……
よく考えたら、一ノ関にいたがらがらの快速「ジパング平泉」に乗っても間に合った(前回記事参照)……と、少し後悔していると、1番線に青い森鉄道の701系がやってきました。県境の目時を境に会社がわかれていますが、多くの列車は盛岡~八戸を通して運転されるので、こうしてIGRで青い森鉄道の車両を見かけることも少なくありません。
[盛岡18:15発/IGRいわて銀河鉄道・青い森鉄道4541M 盛岡発八戸行]
2両編成のIGR7000系は鈍行旅の客と地元客で満杯になり盛岡を発車しました。青山、厨川と停まるたびに地元客が下りていき、滝沢からは1両目後方のドアから乗車・前方から乗車のワンマンスタイルになります。花輪線乗り換えの好摩、新幹線とつながる沼宮内でどっと下車し、車内は大きなカバンを持った鈍行客ばかりが目立つようになります。
一戸・二戸付近を除くと目立った集落はほとんどありません。どっぷりと日が暮れた闇の中をIGR7000系はひた走ります。
県境の目時には19時38分。会社が変わりますが、運転は盛岡から八戸まで一体となっているので、他の駅同様十数秒の停車で発車します。
19時48分。約5分遅れで三戸に到着。途中ですがここで下車します。
反対のホームにいる青森行に乗り換えます。八戸でも乗り換えることはできますが、この列車は三戸始発なので、三戸で席を確保しておきたいところです。
同じことを考えていたのか、十数人が雪がしんしんと降る三戸で乗り換えます。
乗り込んでみると、701系なのにボックスが! 乗り込んだ青い森701系100番台は、青い森鉄道唯一の新製車両であると同時に、唯一のセミクロスシート車だったのです。盛岡から4時間、701系のロングシートに耐えるつもりでいた私には感激ものでした。
元がロングシートの車両なので、座席配置は独特なものになっています。
三戸でボックスシートを難なく確保。八戸で乗り込んだ乗客は余ったロングシートに座ります。三戸で乗り換えて良かった!
[三戸19:52?→青森22:04(約15分遅れ)/青い森鉄道585M 三戸発青森行]
15分ほど遅れて青森に到着。盛岡色のキハ40と肩を並べます。
後方車両でこの積もり方ですから、道中どれだけ降っていたか想像がつくと思います。
時刻はすでに10時を回り、ご覧の通り駅前は閑散としています。こんな時間に駅にいるのは、最終電車を待つ人か、もしくは――
――急行「はまなす」を待つ人ぐらいしかいません。
東北本線を途中駅に見向きもせずひたすら北上していた理由。それこそ、この「はまなす」に乗るためだったのです。
かつて全国的に走っていた急行も、特急への格上げや快速への格下げ、列車そのものの廃止などで数を減らしていきました。2012年のダイヤ改正で「きたぐに」が消えた現在、定期急行として残るのはこの「はまなす」だけです。
22時10分の入線予定とのことですが、まだ列車が来ていないのに、青森駅3番線では多くの乗客が「はまなす」を待っていました。見ての通り、雪は屋根の下にまで降りこんでいます。
「はまなす」の人気は、何よりもその使いやすさにあります。
「はまなす」の誕生は1989年と、比較的最近のことです。青函トンネル開業とともに誕生したこの列車は、青森と札幌を結んでいます。青森22:42発・札幌6:07着(下り)のダイヤは、登場時とほとんど変わっていません。快速「ミッドナイト」無き今、本州からくる寝台特急を除けば、函館本線を走る唯一の夜行です。急行なので、自由席なら運賃+1260円と安く済みます。道内の移動だけでも時間がかかるので、効率よく北海道を回るには必須とも言っていい列車です。
北海道&東日本パスを使ってきたもう一つの理由もここにあります。
元々青春18きっぷでもネックだった青函トンネルは、快速「海峡」の廃止でさらに使いにくくなりました。青函トンネルを通る普通列車がなくなったため特例区間が設定されましたが、その区間は青森の蟹田から北海道の木古内まで。青函トンネルを挟む最低限の区間だけが特例区間になったので、それまで「海峡」で青森~函館を通しで行けたのが、蟹田と木古内で乗り換えないといけなくなりました。両方の駅に停まらない列車に乗った場合は、特急券の他に運賃もむしりとられます。だというのに蟹田と木古内の接続も悪く、青函トンネルは18キッパーにとっての壁になりました。
しかし、北海道&東日本パスでは、急行券を買い足せば「はまなす」を含めた急行――とはありますが、事実上「はまなす」に限られます――を利用できるようになっています。これは、北海道&東日本パスが5日間用だった時代にあった、「「はまなす」の自由席に限り利用可能」というルールが拡大されたものです。追加料金が必要になったとはいえ、「はまなす」名物のカーペットカーや寝台車なども利用できるようになりました。北海道&東日本パスは、夜間を有効に利用でき、ネックとなる青函トンネルを抜けられる「はまなす」のためにあるような切符なのです。
ちなみに、新青森~函館の間では、特急の自由席も特急券を買うことで乗車できます。青函トンネルを越えるなら、18きっぷに比べ北海道&東日本パスが断然優位に立っています。
青い森鉄道のホームに移動して、「はまなす」の到着を待ちます。
やがて、青森運転所からディーゼル機関車に牽かれて「はまなす」がやってきました。
……が、「はまなす」がホーム端に停まってしまったため、先頭を務めるED79形の前面を拝むことは叶いませんでした。
基本は7両の「はまなす」は、年末年始ということもあって最大の12両にまで増結されていました。かつての青森を発着していた東北特急「はつかり」が最大13両であったことを考えると、いかに長いかが分かります。
「はまなす」は14系と24系の2種類の客車からなります。14系は客車にディーゼル発電機を積んだ分散電源方式、24系が発電機を積んだ電源車から各車両に電気を引く集中電源方式と異なっていますが、14系の電源を24系に回すことでこの問題を回避しています。
1号車のスハネフ14-551。「北陸」無き今、唯一の14系寝台客車です。24系と連結するための改造が施され、550番台を名乗っています。
2両目のオハネ25-11。これは後で解説します。
「はまなす」名物のカーペットカー・オハ14-512。これも車内は後ほど。
……と、こうして1両ずつ記録をつけていると、
なんということでしょう。ホームが途中で柵で仕切られて、奥に行けないではありませんか。
青い森鉄道は最大でも6両なので、それに合わせて線路が撤去されたのでしょう。
仕方がないので、反対側のホームからもう一度見ていきましょう。
ED79形は、東北地区で活躍していたED75形を青函トンネル用に改造、もとい、特化させた機関車です。トンネル内は高湿度になるためそれに対応した作りになっており、青函トンネルで使用される特殊なATC(ATC-L)を搭載しています。元々が客貨両用の万能機関車だったのを活かし、青函トンネルの主として数々の列車をけん引してきました。一部の列車では重連がみられます。最近ではEH500形に押されつつありますが、現在も「はまなす」「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」「北斗星」の先頭に立っています。
続いて連なる客車たちを見ていきましょう。
本当は外観を一通り撮った後に内部を撮ったのですが、仕様上あわせて紹介していきます。
1号車のスハネフ14-551(寝台車)。この日の寝台はすべて満席。発車前からすでに車内は暗く、寝入っている人も多数見受けられました。
ちなみにこのスハネフ14形550番台、元は集中電源方式の24系のオハネフ25形です。。スハネフ14型が不足していた時に、車体の似ていたオハネフ25から改造されました。
「はまなす」のエンブレムが入るのはなぜか1号車だけです。
寝台車のトイレは1両に2つついているのですが、「はまなす」は片方が女性専用になっています。
2両目のオハネ25-11(寝台車)。しかし、この車両は2号車ではなく……
『増21号車』(ぞうにじゅういちごうしゃ)の札がかかっています。
これは、「はまなす」の基本編成において1・2号車が寝台車になっているためです。後々紹介する「カーペットカー」「ドリームカー」の存在が、この謎の号車番号を生みました。
車内にも『増21号車』の文字が。
中は1号車とほとんど変わりません。
3両目の『2号車』、オハネ24-502(寝台車)。
実はこの寝台車、オハネ14-509からの改造車です。そう、元は14系寝台車なのです。
もう一度言いましょう。
1号車:スハネフ14-502(14系)←24系からの改造車
2号車:オハネ24-502 (24系)←14系からの改造車
……あ、あるぇー?
何の因果か、「はまなす」では元24系の14系客車と、元14系の24系客車が手を取っています。どうしてこうなった。
3号車からは座席車両になります。車両はスハフ14-557(指定席)。基本編成(7両)の時は自由席ですが、増結している今日は指定席になっています。
座席の端には、大型の荷物を置くスペースがあります。
4号車・オハ14-512《カーペットカー》。
側面中央に、「のびのびカーペット」のイラストが入ります。
中はカーペットが2段、ひな壇のようになっています。下の段は通路に対して横に、上の段は通路に対して縦にそれぞれスペースが作られています。名前の通りのびのびとできる上布団もついていますが、追加料金は指定席料金(510円)のみとあって大人気の車両です。
続く5号車はオハ14-508《ドリームカー》。
通常より大形のリクライニングシートが並びます。確かに、通常の車両よりはいい夢が見られそうな車両です。こちらも指定席料金を追加するだけで乗ることができます。
カーペットカーとドリームカーは、編成組成に関わらず4号車と5号車になります。寝台車に『増21号車』があるのは、これらの車両が常に4・5号車になるからです。
ドリームカーの端には、ちょっとしたフリースペースがあります。
6号車のオハ14-505(指定席)。3号車に比べると空いています。
7号車のスハフ14-501(指定席)。14系客車は発電機を積んだスハフ14、中間車のオハ14、発電機なしのオハフ15があり、スハフ14の発電機は6両分の電源を供給できます。ここまでの8両で発電車両が3両(1・3・7号車)というのは、過多な気がします。むしろ発電機の音がうるさいので1両ぐらい発電機を撤去してもよさそうですが……
基本編成は増21号車以外のここまでの車両で構成されます。ここからの増結車両はすべて自由席です。
8号車はスハフ14-555。またしても電源供給過剰です。
年末年始なので、自由席はご覧のように混んで…… ない……だと?
むしろ指定席車よりも空いているような……
9号車・オハ14-531・10号車・オハ14-505もこの有様。指定席よりも悠々と座れます。
11号車・スハフ14-506。
せっかくなのでフラッシュをたいて撮影。
外に出ると、向かいに緑の客車の姿が。大阪と札幌を結ぶ「トワイライトエクスプレス」です。豪華な設備と日本一の走行距離を誇る列車ですが、青森では客の乗降ができません。ここで機関車を付け替え、進行方向を変えます。
「はまなす」のブルーと「トワイライトエクスプレス」にグリーンが対照的です。
「トワイライトエクスプレス」が去ったホームには、701系がうじゃうじゃ。こちらが青森駅の実情に近いと思います。
22時50分。既に発車時刻は過ぎているのですが、遅れていた青い森鉄道の列車を待ちます。定刻でも22:38着/22:42発とギリギリなので、避けて正解でした。道中、宇都宮・白石・仙台・盛岡と全ての線区で遅れていたので、下手をするとこの「はまなす」まで辿り着けなかったかもしれません。
いよいよ日本最後の定期急行・「はまなす」が出発します。
次回は最終回。「はまなす」の旅路をじっくりとお届けします。
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