『 うさぎの言霊 』 Rabbit's Kotodama 

宇宙の謎、神と悪魔と人とは?

《 第二章 》 〈 第三話 〉 邪神との対談

2019年02月03日 18時12分37秒 | 小説



ところで現在、悪魔共は、アラスカ州以外のアメリカ国内を使い、
多国籍軍を六等分し、東西二手に分かれての 戦争ゲーム を始めました。

 東軍の大将は、ドルン。 本陣はロサンゼルス。
 西軍の大将はオルゴラン。 本陣はニューヨーク。

アンドラスタを除いた悪魔将軍2人づつが、それぞれの軍に加わり、
3 VS 3 の因縁の決戦が始まったのです。

 巻き添えを喰らった人間の兵士と民間人の皆様の地獄は、
 想像を絶するものとなるでしょう。

ただ我等異色のトリオは、なんと地下深くの邪神の巣窟へ赴き、
私がぁ、 邪神アポフィス と 対談 することに ・・・

ベニ様の御指示により、三十郎様は円座に成りきり、
チカチュウ様は私のポケットの中に隠れることに ・・・


 さて、無害で牙の無いウサギの私が、奴と対談して何を掴むのか ・・・

 皆様は、その様子を私の隣に居るような意識で
 静観して頂きたいと思います。


  《 キャラクター&キャスト 》

邪 神 アポフィス  / ブラ〇ド・ピット
 妻  イングリッド / チャーリ〇・セロン
侍 女 ルリエス   / ジェシカ・アル〇

氏神 : スプリングフィールド (三十郎) ジャン・レ〇
湖神 : ナセル (チカチュウ) キャサリン・ゼータ・ジョーン〇
うさぞう : 信造 : 作者 / 伊藤  敦〇


   

      ( 推奨BGM )

   あこがれ / 愛   ジョージ・ウィンストン 

    






      ここは、邪神の移動地下神宮の一室。



     それにしても、どういう部屋なのだろう?


         床の色は艶やかな漆黒。


       部屋を仕切る壁、認識出来ません。

         天井、判別出来ません。



  果て無く続くような闇の中、床に設置されたスタンド照明が、

  直径二十メートル程の円の縁に、等間隔で十箇所確認できます。


    その照明が、この部屋を柔らかく照らしています。



    照明が照らす物の一つは オーディオセット です。

     我等の目の前にありますから良く見えます。


  大きなターンテーブルが三段ラックの一番上に設置され、

     中段には重厚な真空管アンプが御座います。



       下段には何十枚かのレコードが・・・


  その両脇には、大型のタンノイ社製のスピーカーが御座います。


          中々渋い趣味です。


     そのオーディオセットから二メートル程先に、
       豪華で大型の一人用ソファがあり、

        そこから少々離れた場所、
      若干控えめで小さいソファに女性の姿が ・・・


     ただ、どう見ても後妻や愛人という感は無い。

         単なる侍女と思われる。


      彼女はこちら側に背を向けているので、
      我等の存在は気付かれてはいません。


      その先には 大型の盆栽 が御座います。


      恐らくは真柏(しんぱく)だと思います。

       それも相当年代が経った物です。


  その幹は曲がりくねり木質部が白骨化し、表皮は剥がれています。



  当然、盆栽ですから人為的に形を整えられている筈です。

        邪神の趣味なのでしょう。

        この迫力、優雅さ美しさは

     女性の姿を模しているようにしか思えません。



  強いて言えば、日本画の 「見返り美人」 が当てはまります。

       或いは、ト音記号 でしょうか?

  
      
 その隣には、金属製と思しき艶消しで銀色の額縁が御座います。

   床から細く伸びた先の縦長楕円形という重厚な額縁。


    その額縁の中には、美しい女性の肖像画が ・・・


          油絵であろう、その絵 ・・・


  アポフィスの自作であるそうですが、妻がモデルなのだろうか?


     正面を向いた、金髪の長い髪を旋毛の辺りで束ね、
        その髪を胸の前まで垂らしている。


          額にはダイヤやルビー、
     サファイアが散りばめられたアクセサリーが ・・・


  印象的なのは、彼女の青い目が余りにも情熱的で強い反面、

          悲しげであることだ。



     その大きく美しい眼差しが何を物語るのか?


    ・・・ 真っ赤な閉じた唇が語る事は無い。



         もう一つ印象的なのは、

     この 絵自体が鏡に映っているかのような

       描き方をしている という事だ。


           邪神の心情 ・・・


  絵の中の鏡に閉じ込められた美女の心情 ・・・  実に謎です。


    ・・・ 待てよ。 一つ思い付きました。

         妻が鏡に写っている ・・・ 

    その絵を描く事で、邪神がその絵に相対した時、
      鏡に写った妻はあたかも自分の隣に
      実在しているかの様な錯覚に陥る ・・・


      そんな効果を狙ったのだろうか?


   とすれば彼は相当妻に未練があるということになる。

  ただ如何せん、

そこまで夫に愛されているのに逃げてしまう原因が分かりません。


      これはもう作者に問う他ありません。


       その作者が何をしているのか?


         美女の絵の隣で先程から、
  数種類の色鮮やかなイングリッシュローズが絡み付いた
     パールホワイトのピアノを弾いています。

      この薔薇は床の鉢から伸びた枝を、
直接ピアノの側面に這わせるという凝った作りになっています。

        こんなのは初めて見ました。

         実に見事なものです。


 ただ、同じ曲を何度も ・・・


   何かに憑りつかれたように一心不乱という感じです。

      曲名は、ベートーヴェンの月光、第三楽章 ・・・




      乱れた感情が出ているのでしょう、

   難無く早弾きをこなしてはいますが、
  細部の微妙な表現が曖昧になり、

荒々しく叩き付けるという印象しか残りません。

表情は、若干斜め後ろ向きなので読み取る事は出来ません。

ですが、悲しみの波動の音霊が嫌と言うほど
 私の胸に突き刺さって来ます。


  このやり場の無い感情を、
   絵の中の妻に聞かせているのだろうか?


    彼は暫くして、鍵盤を バアン!! と叩き付け、
    そのままの姿勢で放心状態になってしまいました。


   見兼ねた女が歩み寄り、邪神に声を掛けました。



【 アポフィス様、休憩なされては如何でしょう。
 コーヒーをお持ち致しますので ・・・】


【 ・・・ そうか、済まない ルリエス。頼むよ ・・・ 】  


   彼は、力無く答えた。


【 では、少々お待ち下さいませ。】


  彼女が振り向いたその瞬間、我等の姿が視界に入ったようだ。

   キャアッ! と叫んだその驚き様は、無理からぬ事であります。

   何故なら、我等は気配無き侵入者なのですから ・・・


  だが、邪神はそうでも無さそうだ。

ハ ッ! としてこちらを向くと、首を横に振り苦笑している。

つまりは想定内であり、観念しているという事であろうか?


彼は、ゆっくりとした歩調でソファに座り足を組みました。

そこで溜息を一つ付くと、こちらを向き、
 鋭い眼光で私が何者かを探っているようです。


   私には、強烈な邪気による視線が突き刺さって来ます。



    静寂の中、奴が口を開きました。



【 ・・・ 僕はアポフィス、大悪党の党首だ。
       フッ、それでウサギさんの名は? 】


「 関口信造と申します。 訳有ってこのような姿ですが人です。
 正神の命により、失礼ながら勝手にお邪魔した次第で御座います。」


【 ・・・ 円座に座ったウサギの人魂か? 変わった刺客だな。

 まだ猶予期間は残っているが、どうぞ僕は抵抗はしない。
 何時でも拘束してもらって結構だ。】


「 いえ刺客ではありません。
 あなたと対談をせよとの仰せで参ったので御座います。」


【 対談だって? 何故かねぇ ・・・

 そうか君に対する神試し神鍛えの為、ここに送り込んだ。
 曇り無き霊眼で問題の本質を見抜け、とか言われたか?

 ・・・フッ、まあいい。ルリエスよ、コーヒーを彼にも ・・・

 それと、いつもの曲を掛けてくれ。】


【 はい、畏まりました。】



  彼女は慣れた手つきで、レコードをターンテーブルに乗せると、
   静かに針は落ちていった ・・・ 懐かしい光景だ。

     彼女は邪神に会釈すると、フ ッ、 と消えた。


      むっ、この曲は ・・・ マイルス だ。

     


          ( BGM ) 

       ラウンド・ミッドナイト / マイルス・デイビス 


 

 ゆっくり、ゆっくり、写真を眺めながらスクロールしてください。

 でないと、曲と文面が同調しなくなりますので ・・・


 苦肉の策であります。



私は、ここの世界の創造主ですが、まだ不完全、未熟なので、

 

 ご容赦ください・・・


 





       ジャズの帝王、初期のナンバーか ・・・


     凡そ五十年前の曲、ラウンド・ミッドナイト。



  あなたジャズはお好きですか?


 好きか否かに係わらず、お聞き頂く他ありません。

何せ邪神の選曲なのですから ・・・


ただ、これは彼が操作したのか、先程より照明が落ちました。

その邪神 ・・・ 身動ぎもせず項垂れたまま、何も語ろうとしない。


 私を気にする余裕など、もはや無いようだ。

  思念想念といったものは、虚無の世界にあるのだろう。


    その虚しさを癒すものが、この曲ということだ。




   この曲は、トランペットのマイルスとテナーサックスの

   ジョン・コルトレーンとの掛け合いが絶妙なのだが ・・・



  























       






 成る程、今の邪神の心情に当てはまっているようだ。


序盤のマイルスのミュートという消音機を装着したペットの音は、

人のハスキーボイスに良く似ている。



 差し詰め、アポフィスの良心の声を代弁しているかのように ・・・





    『 僕の今までして来た事は、やはり間違っていた ・・・



    だが、もう取り返しが付かない ・・・



   甘い汁を吸い、快楽を追い求める自堕落な理想郷の中で、

  感覚は麻痺し正気を失ってしまった。


 そこから抜け出すことは出来ないんだ。


責めるなよ! しょうがないだろ!


もう遅過ぎるんだ! どうにもならない ・・・



 もはや夢も希望も無い。自業自得だよ。



  笑うんなら笑ってくれ ・・・


   同情など惨めになるだけさ。



     そう、今は覚悟を決めるだけ、覚悟ってやつをね・・・』












     その良心の声に反発するように、

    アップテンポのコルトレーンのサックスが語り掛ける ・・・


















『 おいおい、この期に及んで何だ。女々しいぜ!

   悪の帝王なら、それに相応しい最期ってものがあるだろ ・・・



    そう、己の信念を曲げるな。 


    最期まで、最期まで突っ走れよ。

   その方がお前らしいぜ ・・・

  嘆くな後悔もするな! 邪道を貫け!!


 これじゃあ、手下共に示しが付かないぜ。


正神や己の手下にも笑われ、そのうち忘れ去られる。


 分かっていただろう。


  それを承知で突き進んで来た。


   だから、クールに飛び込めばいいだろう、

   皆を従え紅蓮の炎の中へ ・・・


  さぞかし、さぞかし気分が良いだろうぜ!


それで悲鳴の合唱は不協和音となり、全次元に響き亘るだろう。


  上にいる奴等は、きっと耳を塞ぎ顔を顰める。

    ははは、そういう運命、宿命なのだよ!


     フフフフ、惨めだねえ ・・・ 』






















  


  


   その悪心の声に、良心らしき声が力無く返す ・・・


























   『 言ってくれるねえ。

    僕はそんな気にはなれないよ ・・・


    残された時間はもう無い。タイムリミットだ!!


   お遊びの時間はもう無いんだよ ・・・



 もうたくさんだ! 構うなよ、一人にしてくれ。


何も思い付かない、考えられない、ただ静かに時を迎えたい、



来たるべき時を ・・・ 静かに ・・・


 それが僕の最期の望みだ ・・・』






  異論反論あるでしょうが、あなたも想像してみて下さい。

      極悪非道を行い、自ら指揮し又、

  残虐な手下を野放しにした邪悪なる帝王の最期の心情を ・・・


     


        ( 推奨BGM ) 

        エリック・サティ作曲  
             グノシエンヌ  第1番 (演奏者不明)





 


  


      彼の思考は止まったままのようだ。


    私は素直な疑問をぶつけた。


「 アポフィス様 ・・・ あの絵と言うより、
 鏡の中の美女は何を言わんとしているのでしょう?」


【 フッ、無言で僕を睨んでいるのだよ。
 彼女の名はイングリッド。僕の妻だ。】


「 ・・・その、奥様はどちらへ?」


【 ここにいる。】・・・ 居る筈がない。 気配すらないのに・・・

「 こ、こことは?」


【 あの盆栽、真柏という。

  今年で丁度1000年になる。

   彼女はその真柏に憑依し850年余り。

   あれから一度も、一度も出て来てくれないばかりか、
   一言も発しないのだ!

   夫婦なのに ・・・何度も説得した!
   出て来てもう一度話合おうと・・・

  だが、それは叶わず今日に至ってしまった。】  



   彼は素直に話してくれた。

   それにしても謎だ。


「 そもそも何故、盆栽に憑依し
 心を閉ざされてしまわれたのでしょう?」


【 全ては 約5万3000年前、

 「 全宇宙のアセンションの大祭典 」 という

 大々的な宣伝が全宇宙合意の元で行われたことが原因だった。

  その時点で既に邪神に堕ちていた僕と妻は
  強烈なショックを受けた!

 そして最も恐れたのが、そのアセンションが完了した時、
 正と邪が完全に二極化され、邪道を選んだ者は裁かれることだ。

  何れ宇宙刑務所行きか、
  裁きの死を迎える他無い我等は絶望した ・・・

 故に、妻は主神様にお詫びをして、その証を立て、
 正神に復帰出来るよう力を合わせ精進しよう等と ・・・ 】


「 では、あなたは奥様の深い御愛情に答えなかったのですね。」


【 フン、その通りだよ。 僕にどうしろと?

 どの面下げて正神や、主神様にお詫びしろって言うんだ!
 もう好き放題やって来た癖は治らないし、治す気も無い。

 下座だのお詫びに感謝だの。
 下っ端の神や人間にすらやれって言うんだ!

 そんなことは僕のプライドが許さないよ。】


「 では、奥様はそのプライド、
 我と慢心を捨てようとしないあなたの態度に腹を立て、
 盆栽に憑かり無言の訴えをした。
 ということでしょうか? 」


【 ああそうだ。その通りだ!

 彼女の意志は強くてね。頑固だよ。

 言いたい事は分かるが、
 この僕の地位と権力は手放す訳にはいかない。

 絶対嫌だ! 嫌なんだ! 惨めな負け犬になるのは御免だ ・・・
 帰ってくれ、不愉快だ!


 もう話す事は無い・・・】


   そう言うと、彼は激しく頭を掻き毟った。
   そして、妻が憑り付いた盆栽に縋り叫んだ。


イングリッドォー! イングリッドォー! 頼む最期の御願いだ。

 出て来てくれ。頼む、顔を見せてくれぇ ・・ た、頼 む ・・・ 】


     悲痛に泣き叫ぶ声は、彼女に届いている筈だ。


    だが、850年も自分の意志を貫いて来た彼女には、
   自分勝手な願いが通じることは無い。

 何故なら、
先程から自分は最期まで変るつもりは無いと
宣言しているのだから ・・・


彼女の方が、毎日この堕落した夫を見て、泣き叫んでいたに違いない。

 故に気の毒でならない。


  いつのまにか現れたルリエスが、肩を震わせ泣いていた。


    気付くと、目の前が霞んで来た。

     もう、地上へ戻るということなのだろう。


         さようなら ・・・ ただ、ただ虚しい。





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