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聡明な女とは

2024-01-15 02:15:00 | 日記
2024年になった。
2023年という年の未来感にどうも慣れないまま、2024年になった。

私には今、半年ほど前から付き合っている恋人がいる。彼と知り合ったのは約5年前だが、その間2年ほど疎遠になっており、昨年の夏頃再会し付き合い始めた。

およそ付き合い始めた頃、私は彼を警戒していた。もしかしたら彼は、私が気まぐれに別れを告げたりしたら、半狂乱になり私を殺しかねないかもしれない、なんて思った。それほど、彼の私への愛は異常なほど強かった。



それから半年、週に3回ほどのペースで会う日々が続いている。彼は今までに出会ったことがないほど、話が合い、気が合い、優しくて、穏やかで、心が広い人だ。私には本当に勿体無いほどの人だと思う。

反面、やはり不満は出てくるもので。
最近、ちょっとした口喧嘩が多い。と言っても、大抵が私の不満が爆発して一方的に怒り、彼がその私の態度に苛つき、喧嘩になるパターンなのだが。




恋人同士というのは難しいもので、相手との距離感や、他の大切なものとの優先順位なんかが喧嘩の火種になったりする。
私は、恋人とのスキンシップを大切にしたい。彼とのハグやキスは、まるで温かな羊水の中で漂っているような安心感に包まれ、仕事や日常を頑張るための糧になる。私にとってはとてもとても大切な、重要なことであるのに、彼の中でその優先順位は低いみたいだった。

彼の人生において、最も愛するものは「酒」である。
休肝日という言葉を嫌い、家でも外でも毎日5〜6杯の酒を飲む。だから、外食のために車を出す日は必ず私が運転する。

だが今回は、外食のために彼が運転をした。先週の金曜と、日曜のことだ。金曜、食事を済ませ帰宅する際、彼は直接私のアパートへ向かった。
これは異例だった。
私は母と2人暮らし、彼は1人暮らしのため、会う時はいつも、最終的には彼の家に寄ってから帰っていた。しかし今回は「今日は直帰だよ」と、私の家に直接向かった。
「またどうせ日曜日に会えるじゃん。明日うちに来てもいいし」
彼はそう言って、颯爽と帰路についた。
まあ、確かにそうだけど。私は小さな不満を抱えながらも、飲み込んで眠り、翌日には殆ど忘れていた。
そして日曜、集合時間に彼が私の家の近くにいたことから、彼の車で私を拾って行くことになった。食事を済ませ、車を出発させた彼は、迷わず私の家の方向に進んで行った。

その瞬間、私はひどく傷ついてしまった。
私にとって彼とのスキンシップは、疲れた心を癒し活力に変えてくれる大切なものなのに、彼にとっては違う。彼は一刻も早く私と解散し、酒を飲みたい。
だってどうせ、いつでも会えるし。今日の酒は今しか飲めないし。
そんな風に思われてる気がした。

私との時間を削ってまで酒を飲みたいと思っていることや、私とのスキンシップは彼には必要ないことなのかもしれないという思いが一気に頭を駆け巡り、私は面倒臭い女になった。
「私より酒が大事なんだ」
最初は冗談で怒ったふりをしていると思われていたようで、彼は半笑いで応じてきたのだが、私が本気で言っていることがわかると、彼は「キッツ」と苦笑した。

いつもそうだ。私の発言や態度を受け入れられない時は、いつも「きつい」と苦笑することで自分を正当化しようとする。彼の嫌いな部分の一つだ。


その後彼は私に謝ってきたのだが、私の思考は、彼に必要とされていないという思いと、ついでにPMSに支配され、形式上謝っただけの嘘の謝罪だと思い込んだ。
何も言わない私に彼は苛立ち、最終的には別れの言葉もなしに私は車を降りた。


喧嘩をした時は大抵、彼が折れて謝ることが多い。なのに私は、謝られるとどうしても苛立ちを隠せなくなってしまう。どうせ思ってないのに面倒だから謝ってるんだ。私に罪悪感を与えるために謝ってるんだ。

素直に謝れる方が良いに決まっている。
私はどうしても、素直に謝ることができない。自分が悪者になり謝ることができるひとのほうが、よほど大人だ。彼はいつだって、私より大人で、賢い。私は彼のそんな部分に嫉妬し、苛立ち、結果謝罪を素直に受け止められず、黙り込む。




恋愛は難しい。今、私と彼の人生は確実に交差している。その交差点は幸せに満ちているはずなのに、今現在、私と彼の交差点は傷つき赤い血を流している。
友達であれば、こんなややこしいことにはならないのに。どうして、女友達にできる配慮を、彼にはできないのか。友達にだって、自分のことわかって欲しいと思っているはずなのに、どうして恋人にだけその思いを我儘という形でぶつけてしまうのか。

自分の恋愛が続きにくい理由を、いつか彼に話した時、恋愛向いてないねと笑われた。

うん、そうかもね。向いてないや。


かと言って私には、今から彼と友達同士に戻る勇気はない。恋愛において、勇気も、度胸も、賢さもない私は、これから先彼とどう一緒にいたら良いのか。

冬の夜は虫の音も聞こえず、部屋には時計の秒針が時を刻む音だけが響き、なんだか寂しい。
明日、彼に謝ってみようか。
私にその勇気が出たら、の話であるが。