『蕎麦がき研究入門』

知らない・映えない・バズらない。なのに昔からある食べ物“蕎麦がき”に今、光を当てます。普通に食卓に上がるその日まで。

もしも蕎麦がきスイーツがバズっている世界だったら…(DPZ投稿)

2020-01-03 17:17:28 | その他

※本記事には実際には存在していない店や現象が登場しています

いらっしゃいませ!「バックウィートカフェ表参道」へようこそ!オーナーの石井です。


寒くなってきましたね。長時間外で並ばせてしまい、申し訳ありませんでした。まずは「蕎麦茶ラテ」で体を芯から温めてください。



牛乳でそば茶を煮出した、ほんのり甘い真冬に最適の飲み物ですよ。

さてさて。こちらが当店のメニューです。

ご存知かと思いますが、うちに来る約7割のお客さんは「パンケーキ風蕎麦がき」がお目当てなんですよ。蕎麦がきをバターでこんがり焼いて、クリームチーズと蜂蜜をかけた一品です。



蕎麦粉を牛乳で溶いて作った蕎麦がきなので、濃厚かつクリーミーな味わいが大人気。週末ともなると表参道の当店から外苑前くらいまで行列ができるんですよ。
※なんと驚き!蕎麦がきスイーツを求める人の行列は1㎞にもなるそう

濃厚といえばこちらも人気。「バナナピーナッツ蕎麦がき」です。
これはね、私が敬愛するエルヴィス・プレスリーをイメージして作ったんです。エルヴィスは「ドーナッツの食べ過ぎで死んだ」なんていう都市伝説がありますけど、本当に好きだったのはピーナッツバターとバナナをトーストで挟んだサンドウィッチだったんです。アメリカではそれを「エルヴィスサンド」なんて呼んで、定番メニューにもなってます。

この蕎麦がき、実はバナナジュースで溶いてるんですよ。



それをバターで焼いて、ピーナッツバターを混ぜた生クリームといろんなフルーツを添えて完成です。ハワイのカフェなんかで出してもなんの違和感もないくらい、美味しい一品ですよ。

この二つがうちの主軸メニューなので、無理してメニューを増やす必要はないと思ってます。でも、こちらの「チョコドーナッツ風蕎麦がき」は、「もう一品食べたい!」という人や持ち帰りメニューとしても人気なんです。

これは油で揚げた蕎麦がきにチョコレートをまとわせて冷やしたもの。


蕎麦がきは基本的に、出来立ての温かいうちに食べなければその美味しさが半減してしまう食べ物。しかし、このメニューによって冷めても美味しい蕎麦がきを開発することができました。

冷めても美味しいどころか、キンキンに冷やして食べる夏季限定の蕎麦がきもあります。
「フルーツミルク白玉蕎麦がき」です。このメニューに使う蕎麦がきは、白玉粉を半分混ぜてあります。



あとはたっぷりのフルーツとよーく冷やしたシロップをかけて完成。このメニューをお出しする時期は、おかげさまで行列が外苑前を超えて青山一丁目の方まで伸びてしまうんです。
※行列は遂に1.5㎞に到達!

今までは「蕎麦とスイーツ」というとガレットの独壇場でしたけど、皆様が蕎麦がきスイーツの魅力に気づいて下さってとても嬉しいです。これからも蕎麦がきの魅力をどんどん広めていきたいです!

☆バズる様子のない蕎麦がき
…って、こんな店は当然存在していない。唐突な始まり方で申し訳なく思っている。申し遅れました。片手袋研究家、蕎麦がき研究家の石井です。

先日、私は「黒蜜きな粉蕎麦がき」を食べながらぼんやり考えていた。

※バニラアイスに牛乳蕎麦がき、そこにきな粉と黒蜜を少々かけて完成です

温かい蕎麦がきの横で徐々に溶けていくバニラアイス。それをたっぷり蕎麦がきに絡ませて、口に放り込む。美味い。めちゃくちゃ美味い。しかも作るのも超簡単。だからこそやっぱり不思議だ。なぜ蕎麦がきはこんなポジションに甘んじているのか?

前回前々回DPZさんに蕎麦がき研究の記事を紹介していただき、普段ではあり得ない数の方々が当ブログに訪問して下さった。紹介していただいた直後、見たことない角度で伸びていくアクセスカウンターを見て私は思った。

「遂に“知らない・映えない・バズらない”の負の三拍子から蕎麦がきが解放される日が来た!」と。

しかし、どうだろうか?あなたは職場で「最近気になってる食べ物があるんだ!蕎麦がきって言うんだけど」という会話を耳にしたり、夕方のニュースで「今、家庭で蕎麦がきを楽しむ人が急上昇中!」などという話題を目にしたりしただろうか?答えは、否である。かつてない注目を浴びる機会を得ても、蕎麦がきのポジションは全然変わらない。

しかし不思議と私に焦りはなかった。何故か?本当に切れ味が鋭い刃を、まだ隠し持っていたからである。その刃とは…そう。「黒蜜きな粉蕎麦がき」を見ても分かる通り、「蕎麦がきのスイーツ、甘味としての半端ないポテンシャル」。
こちらは私が作成した「蕎麦がき分類図」だ。これまで紹介してきたのは、蕎麦がきのおかずとしての側面だけ。勿論それらはどれも素晴らしく美味しいのだが、今後蕎麦がきが圧倒的なポピュラリティを獲得していくとすれば、最初はおやつ系の部分から火がつくと思っているのだ。しかし問題は、それをどう伝えるか、だ。

映画や本の企画を提示する際、綿密な企画書を作るより先に、短い映像を撮って見せたり、書籍の形にしてしまって見せた方が企画が通りやすい、という話を聞いたことがある。人間、具体的な形になったものを見た方が心を許しやすい、ということだ。

そこで私は考えた。蕎麦がきスイーツの魅力を皆様に知って頂くためには、「既に蕎麦がきがバズっている世界」を垣間見て頂くのが最善だろう、と。それが冒頭に登場した「バックウィートカフェ表参道」だ。

勿論こんな店は存在していないのだが、設定としては表参道にある蕎麦がきスイーツ主体のカフェ。店内飲食の他に「チョコドーナッツ風蕎麦がき」のテイクアウトなどにも対応している。オープンは2018年。昼の情報番組や雑誌で紹介されたのをきっかけに、とんでもない人気店に成長している(コロナは存在していない世界線です)。

商業ビルへの出店などは頑なに断っているが、2020年から新しい展開を始めようともしている。

あ、オーナーがその新展開について話し始めました。皆様に聞いて欲しいみたいですぞ!

☆新たな展開!和風蕎麦がきスイーツへの挑戦
再び「バックウィートカフェ表参道」の石井です!

お客様の食べっぷりを見ていて、何か信頼できるものを感じましてね。実は来月から当店、新しいメニュー展開を考えているのですが、一足先にお客様に見て頂きたくなってしまいました。

これが新展開のメニューです。

そう!これまで当店は洋風の蕎麦がきスイーツばかりご提供してきましたが、来月から和風のメニューも始めることになったのです。看板メニューはこちらの「蕎麦がきぜんざい」になります。
時間をかけてじっくり炊いたあんこと蕎麦がきの相性は抜群。

ただこのメニューはうちに限らず出しているお蕎麦屋さんも多いので、蕎麦がきの定番メニューではあります。

ずんだ餡と和えた「ずんだ蕎麦がき」もおすすめです。同じ餡でも小豆とはまた一味違った風味が楽しめますよ。良い枝豆が出回る夏場なんかは、青山からさらに赤坂見附くらいまで伸びるんじゃないかな?
※ぬわ~!行列は3kmにまで!最後尾の人はもはや何の行列か分かっていないそうです

「みたらし蕎麦がき」も絶品ですよ。


甘じょっぱいみたらし餡は、普通の団子よりしっかりした食感の蕎麦がき団子と相性抜群!蕎麦茶と合わせて頂ければ、美味しさ、さらに倍!

私が群馬を旅行した時、「焼きまんじゅう」という名物と出会いました。

すぐに思いましたよ、「あ!これ蕎麦がきに応用できる!」って。

そうして考案した、たっぷりの味噌餡と絡めた「焼きまんじゅう風蕎麦がき」も今回のメニューに加えさせて頂いてます。「みたらし蕎麦がき」と「焼きまんじゅう風蕎麦がき」はテイクアウトにも対応しております。町歩きのお供に、ぜひお買い求めください。

これが我々の新たな挑戦、和風蕎麦がきスイーツへの展開です。どうです?洋風スイーツに負けず劣らず、美味しそうなメニューばかりでしょう?

それと、実はもう一つの試みも始まります。勿論、我々のお店に来て頂いて召し上がっていただくのは嬉しいのですが、流石に赤坂見附まで行列ができてしまう状況は心苦しいのです。何より、我々の掲げる第一の目標は「蕎麦がきスイーツの普及」。皆様のご自宅でも蕎麦がきスイーツを気軽に作って頂ける環境こそ、我々の理想なのです。

ですから来月より、定期的に「蕎麦がきスイーツクッキング教室」も開催させて頂きます!当店でお出ししているすべてのメニューのレシピをお教え致しますので、そちらも是非是非、ご参加ください!

蕎麦がきスイーツの更なる発展にご期待あれ!

☆繰り返しますが、こんな店ありません
長々と書いてしまったが、こんな店もこんな状況も今の日本には存在していないのである。しかし、今回は「あり得る世界」として皆さんに蕎麦がきスイーツがバズっている状況を疑似体験して頂いた。どうだろうか?こんな世界、体験してみたくありませんか?蕎麦がきスイーツ、食べてみたくありませんか?蕎麦がきがバズる世界、あり得なくはないと思いませんか?

冷静に読み返してみたら、今回に限らず私自身の臭みが先行してしまって、蕎麦がき自体の魅力が伝わり辛くなってしまった感も否めない。であるからこそ、皆さん一人一人が積極的に蕎麦がきを食べ、作り、その魅力を伝える伝道者となって欲しいのだ。

帰省も叶わず、どんちゃん騒ぎも気が引けるお正月でも、我々には蕎麦がきがある。まずは新年、勇気を持って第一歩を踏み出して下さい。

ようこそ。蕎麦がきの世界へ。

蕎麦がき、その真の実力(DPZ投稿)

2020-01-02 20:26:00 | その他

前回は「知らない・映えない・バズらない」と負の三拍子が揃った食べ物、蕎麦がきについてごく基本的なことを書かせてもらった。

「蕎麦がきはじんわりと美味しい」「蕎麦がきは簡単に作れる」「蕎麦がきはいろんな調味料をつけるだけでも美味しい」といった内容だったが、DPZで紹介して下さったおかげで非常にたくさんの方に読んで頂いた。

「そんな食べ物あるんだ!」とか「じゃあ今度作ってみるかな」とか、或いは「え?蕎麦がきなんて当たり前の食べ物じゃないの?」と、私と同じ衝撃を受けた方もいらっしゃると思う(おそらく住んでいる地域などによっても蕎麦がきのポジションは変わってくるのだろう)。しかし、一番多くの人が抱いた感想は恐らくこれだろう。

「蕎麦がき研究家なんて言っておきながら、分類図の一つも作ってねーのかよ!」

確かに、「片手袋研究家」の肩書きをメインで名乗っている私からしても、その点はご心配おかけしたことを申し訳なく思っている。

私は道端に落ちている片方だけの手袋を15年間研究し続けてきた。

15年間で5,000枚は撮影してきただろうか?その膨大な蓄積をもとに構築したのが、「片手袋の分類法」及び「片手袋分類図」である。

これは蕎麦がきの記事なので詳細には触れないが、この分類図のおかげで「片手袋研究家」という肩書きがネタではないことを理解してもらえているのだと思う。

であるから尚のこと、蕎麦がき分類図も作らないで「蕎麦がき研究家」を名乗るのはおかしい、という皆さんの疑問は自分でも痛いほど理解できるのである。

でも安心して欲しい。蕎麦がきの分類図もきちんと構築しているのだ。

☆「蕎麦がき分類図」とは何か?
これが「蕎麦がきの分類図」である。前回、蕎麦がきの手軽さを「蕎麦粉と水を火にかけながら混ぜるだけの料理」と説明した。しかしあくまでこれは基本の蕎麦がきの話。私は研究に着手して割とすぐに、手軽であるからこそいくらでも応用できる料理であることにも気付いてしまった。しかし、新メニューを構築する際に発想の拠り所となるものが何もないのは心許ない。そこで蕎麦がきを構成する要素を幾つかに分け、それぞれに工夫を凝らせるようにしたのがこの分類図なのだ。つまり厳密に言うと分類図というよりはフローチャートに近いかもしれない。

片手袋の分類は三段階を経て行われるが、蕎麦がきは四段階設けた。

第一段階は蕎麦粉そのものに手を加えるか否か?勿論、一般的な蕎麦がきは蕎麦粉だけで作るが、そこに砂糖や粉チーズを加えてしまっても良いじゃないか。

第二段階は水分。「蕎麦粉と水」ではなく「蕎麦粉と水分」と捉えるだけで、選択肢はグッと広がる。

第三段階は味の方向性。前回、塩や醤油だけでなく蜂蜜や黒蜜との相性も良いことが判明したように、蕎麦がきはスイーツとしてのポテンシャルも計り知れないものがある。

第四段階、最後は調理法。おかず系、おやつ系、それぞれ焼いたり揚げたりすることでガラッと表情は変わる。

この分類図を作成したことにより、蕎麦がきを一番舐めていたのは私自身だったと痛感した。「蕎麦がきは次の次のタピオカ」をスローガンに頑張ろう、などと思っていたが事態はそんな生ぬるいものでなかったのである。どんな料理にも対応してしまう蕎麦がき。こりゃあ、一過性の流行り物とかではなくて、ご飯とかパンとか麺類とかに並ぶ、新たな日常食の誕生なのではないか?それって日本の食文化における一大転換点なのではないか?そんなことまで考えるようになってしまった。

煽ってばかりでもしょうがない。今回はおかず系を中心に、蕎麦がきをどんな形で応用していけるかをご紹介しようと思う。

☆何かに見立てることは新メニューの近道
これまでに蕎麦がき新メニューを考案する際、一番多く用いた手法は「何かに見立てる」というものである。蕎麦がきの最大の特徴は「モチモチした食感」にあると思う。それに近い特徴を持つ食材としては、餅・団子・お麩などがある。蕎麦がきをそれらの食材に見立て、分類図に沿って発想していけば大抵美味しいものが出来上がる。
(※ちなみにいずれの料理にも使用している「基本の蕎麦がきの作り方」はこちらの記事を参照してください)

例えばこれは蕎麦がきをニョッキに見立て、生クリームとゴルゴンゾーラのソースに絡めた一品。

こんな風に出来上がった蕎麦がきをニョッキくらいの大きさに丸めてソースと和えるだけ。これが信じられないくらい美味しくて、何度も作る我が家の定番メニューにまで昇格している。

同じようにニョッキからの発想で、トマトベースのソースやモッツァレラチーズなどと和えても美味しかった。

ニョッキとは少し違うが、ラザニアのように見立ててグラタンに入れてみたこともあった。これも当たり前に美味しかった。それもそのはず、蕎麦粉のクレープであるガレットという料理もあるので、蕎麦がきと西洋料理との相性の良さはある意味「当たり前」なのである。

韓国の餅、トッポッキに見立てるたのも正解だった。ニンニクと辛味が効いたスープを作って少し煮込む。最高。韓国の冷麺も麺に蕎麦粉を使用している場合が多いので、これも「当たり前」か。

ちなみに蕎麦粉の消費量ナンバーワンはロシアで、蕎麦の実を粥として食べるのが一般的だそう。蕎麦は様々な調理法で「当たり前」に世界中で食べられているのだから、蕎麦がきも日本的な型にはめる必要はないのだ。

とはいえ、日本的な料理との相性の良さは言わずもがな。

餅に見立てて磯辺風に焼いたのも美味しかった。

バター醤油で焼いて海苔を巻くだけだが、100点。

練り物のような使い方も手軽で美味しい。


これは妻がおでんを煮込んでいるのに気付き、バレないようにこっそり蕎麦がきを混ぜておいた時のもの。「え!いつの間に!」と驚く妻の顔が見たかったのだが、結果的にはおでんの具材としてあまりに馴染みすぎていて何事もなかったようにスルーされてしまった。

揚げ出し豆腐の要領で、蕎麦がきを揚げて温かいお出汁をかけるだけでも美味しかった。

この時は余っていた花麩も一緒に入れてみたが、私はこれが直木賞の選考会のテーブルに並べられても、なんの問題にもならないと思う。むしろ選考委員は帰りのハイヤー内でぼんやり考えることだろう。

(あのカリカリ、モチモチの美味いの、なんだったんだ?)

☆もっと簡単に工夫する手もある
これらは分類図でいうと第四段階、「調理法」での工夫になってくるが、もっと手前の段階でバリエーションを増やす手もある。

これは蕎麦粉に粉チーズととろけるチーズを加えて塩胡椒をし、水の代わりにトマトジュースを混ぜて作ったトマト蕎麦がき。

これなんかは鍋を火にかけて蕎麦がきが出来上がった瞬間、一つの料理としても完成しているのだから嬉しい。オリーブオイルをかけて食べたら美味しかった。


これは蕎麦がきの手軽さを証明するべく、夜釣りの途中に野外で調理した時の写真。コンビニで買ったチーズと生ハムを混ぜて作ったのだが、醤油をかけて食べたら絶品だった。このレベルの料理が野外でも数分でできてしまうのだから、今流行りのソロキャンプとの相性も抜群だと思う。蕎麦がきの可能性、無限大。

☆勿論なんとなくの発想で作ってみても良い
既存の料理に捉われることなく、「こんなの美味しいんじゃないかな?」という発想だけで作ってみたメニューも勿論ある。

チーズと明太子を蕎麦がきで包んで揚げたものなのだが、私はこれがG7の晩餐会のテーブルに並べられても、なんの問題にもならないと思う。むしろ各国の首脳は帰りの飛行機内でぼんやり考えることだろう。

(あのカリカリ、モチモチの美味いの、なんだったんだ?)

これは基本の蕎麦がきにソースをかけて食べたら美味しかったことから発想した、たこ焼き風のそばがき。



たこ焼き風と言っても、タコを包んだ蕎麦がきを油で揚げてソースやマヨネーズをかけたもの。実はこのメニュー最大の特徴は、水の代わりにダシで蕎麦粉を溶いたところ。
こうすることでかなりたこ焼きに近い風味に仕上がった。

ただこのメニューを食べた時に一つの問題点が浮かび上がった。それまではどんな調理法を試しても、蕎麦がきの風味が消えることはなく、「蕎麦がきで作る」という意味がちゃんとある料理に仕上がっていた。しかしこのたこ焼き風。ダシで溶いてソースやマヨネーズをかけた結果、流石に蕎麦の風味は後退してしまったのである。

我々は創作料理を口にした際、「これ、わざわざ〇〇を入れる必要はないよね」とか「手を加えすぎて〇〇本来の良さを消してしまっている」などと言いがちである。しかし、“食材が持っている本来の良さ”とは果たして味だけのことなのだろうか?例えば蕎麦がきの場合、蕎麦の風味は勿論のこと「モチモチの食感」、或いは「作るのが簡単」といったような要素も食材が持っている本来の良さ”なのではないだろうか?そう考えると、このたこ焼き風蕎麦がきもやはり、蕎麦がきで作る意味がある料理であったと言えると思う。

蕎麦がきの進化はまだ始まったばかりだ。最初から通り一遍の決まり文句で可能性を閉ざさないで、皆さんもガンガンいろんな料理にチャレンジしてみて欲しい。
☆ある意味、前言撤回
前回、基本的な蕎麦がきの魅力を説明した際、こんな図を用いて「蕎麦がきは美味すぎない」という趣旨のことを書いた。

「美味いには強さと速さがある。どちらも微妙な蕎麦がきは強烈な美味さはないが、その分何回食べても飽きが来ない魅力があるのだ」と。この図で言えば青いエリアにあるのが蕎麦がきなのだ。

しかしそれはあくまでプレーンな蕎麦がきの話。これまで様々な新メニューを開発してきた結果、やり方によっては蕎麦がきも赤いエリアに持っていくことが十分できると断言する。

滋味深く優しい味わいを楽しむこともできれば、口に入れた瞬間「美味い!」と叫んでしまう料理にも化ける。もしSNSで「一週間蕎麦がきチャレンジ」なんていうバトンが回ってきても、慌てないで欲しい。そんなの余裕でクリアできるくらい、蕎麦がきを使ったメニューの幅は広いのだから。

そしてさらに、スイーツとしての実力も超一流だとしたら…。

いずれ、スイーツ蕎麦がきの魅力についても書いてみたい。

あなたは蕎麦がきを知ってますか?(DPZ投稿)

2020-01-01 09:17:00 | その他
☆あなたは「蕎麦がき」を知ってますか?
今年に入ってからちょっと気になって、周囲の人達にこの質問を投げかけてみている。私は日常的に蕎麦がきを食べる環境に暮らしているのだが、そう言えば人から蕎麦がきの話を聞いたこともないし、蕎麦がきのことを呟いている人も見かけない。これはどうしたことだ?

冒頭の質問に対し、殆どの人から「知ってるけど食べたことはない」という返事が返ってきた。まれに食べたことがある人がいても「どんな感じだったか覚えていない」という答えが多く、ご高齢の方だと「戦後すぐによく食べさせられた。嫌な思い出。2度と食べたくない」という人も珍しくない。若い世代だと全く知らないという人がグッと増える。

「蕎麦がきってそんなに当たり前の食べ物じゃないんだ!」

驚くと同時にとても不思議な気持ちにもなってきた。何故なら、蕎麦と聞いてまず思い浮かべるあの細長い蕎麦(「蕎麦切り」とも呼ばれる)よりはるか昔から、我々日本人は蕎麦がきを食べてきたからである。蕎麦切りが食べられるようになったのは江戸の少し前くらいからで、それ以前、1,000年以上の間日本人は蕎麦の実を「蕎麦がき」として食べていたのだ。(参照:日穀製粉株式会社

1,000年以上の歴史を持っていて、現代でも少し気の利いた蕎麦屋なら日本中どこでも食べられるのに、これほど影が薄い食べ物が他にあるだろうか?ラーメン、たらこスパゲティ、ホットケーキ。なんでも良い。今我々が当たり前に食べているものは、過去に「これうまいじゃん!」が伝播して流行が起こり、やがては日常食として定着する、という流れを経てきたはずである。しかし蕎麦がきときたら、過去に流行した形跡もないし、定着もしてるんだかしてないんだか分からない現状。それなのに昔からなんとなくずっとそこにいる。不思議!私はこういう存在に弱い。何故なら私の肩書きは「片手袋研究家」なのだから。

私は道端に落ちている片方だけの手袋を15年間研究し続けてきた。

15年間で5,000枚は撮影してきただろうか?人によっては「5,000枚!」と驚くだろうが、私に言わせればそれでも少ない方で、私がもっとアクティブで各地に旅しまくっているような人間ならその倍は出会っていたはずである。それくらい、町は季節問わず片手袋で溢れている。それなのに、片手袋を気にする人は誰もいない。この「あるのに、誰も見ない」という現象こそ、私が研究対象として片手袋を選んだ最大の要因であったように思う。「よーし、それなら俺が徹底的に見てやろうじゃねーか!」ってなもんである。そして今、蕎麦がきが新たな「あるのに、誰も見ない」対象として私の前に立ち塞がったのである。よーし、お前のことも徹底的に見てやんよ!

「蕎麦がきとは片手袋である」。この事実に気付いた2020年、私の蕎麦がき研究が始まった。スローガンは「蕎麦がきは、次の次のタピオカ」。すぐにじゃないかもしれないけど、絶対に蕎麦がきムーブメントが来る!

☆蕎麦がきを作ろう!
…と、ここまで「蕎麦がきを知らない人が多い」ということを書いておきながら、蕎麦がきがどんな食べ物なのかに全く触れていなかった。皆さんの住んでいる町の蕎麦屋さんに行って貰えば、おそらく蕎麦がきも出している場合が少なくないと思う。まずはプロの味を堪能して頂ければ話は早いのだが、今回の記事の趣旨は「蕎麦がきを食べてほしい」ではなく「蕎麦がきを作って食べてほしい」なのである。蕎麦がき、実はめちゃくちゃ簡単に作れる食べ物なのだ。

※用意するもの(2人前)
・蕎麦粉…75g
・水…150ml(基本的には蕎麦粉の倍の分量だが、蕎麦粉の水分含有量などによってかなり変わってくる。棒を持ち上げてみてツツーと細く垂れるくらいのイメージ)

・鍋(テフロン加工などの焦げ付きにくいもの)
・棒2本(ホームセンターで丸棒を買って切るだけ。18mmが一番使いやすい)

たったこれだけ。あとは鍋に蕎麦粉と水をぶち込んで混ぜ(ダマにならないよう注意)、火にかけながら棒でかき回せば完成。



↑動画でもご覧下さい。

このモチモチとしたお餅のようなものが蕎麦がきだ。
蕎麦がきの作り方は他にも色々ある。例えば熱湯を一気に蕎麦粉に注ぎ込んで作るやり方があるが(『美味しんぼ』に登場した蕎麦がきはこれ)、これだとべちょべちょした感じに仕上がることも多い。「もう2度と食べたくない」と言っていたお年寄りも、戦中戦後にこの作り方で食べていたという。だが今回ご紹介したやり方なら失敗も少ないと思うし、仕上がりがよりモチモチになる。

厳密に言うと粉を一度ふるいにかけた方がキメが細かくなりダマにもなりにくい、とかまあ色々あるのだが、とりあえず最初は気にしない。「蕎麦粉と水を火にかけながら混ぜるだけの料理」。このイメージでOK。細部にこだわるのは後で良い。あくまでこれは一番基本のシンプルな蕎麦がきだが、5分もあれば作れるはずだ。

それでも一つだけコツがあるとすれば、「火にかけてからは大きく混ぜて、固まってからもしばらく空気を入れるように混ぜる」ということ。これでモチモチ食感に仕上がるはずだ。

あとは塩や醤油なんかをつけたり、海苔で巻いたりして食べるだけ。

絶対注意して欲しいのは、とにかく温かいうちに食べること!冷めると表面が固まって食感がボソボソとしてきて(それを防ぐために蕎麦湯に蕎麦がきを浮かべるスタイルも一般的)、美味しさが半減してしまう!

さて、もしここまで読んで実際に作ってくれた方がいるとしたら、どうだろうか?いや、あの、これ非常に言い方が難しいのだが、おそらく「美味し過ぎない」と思う。いやいやいや、美味しいんですよ。特に蕎麦の香りや風味を楽しむという点においては、蕎麦切りよりも上かもしれない。でも例えば「ドライエイジングビーフをオーブンで焼き上げ…」みたいな料理と比べれば、美味しさもぼんやりしてると思う。「あ〜、まあ、うん、良いんじゃない?」みたいな感じ。ただこの表を見て欲しいのだが、

私は、美味しさには「強さと速さ」があると思う。熟成肉のステーキみたいなものは美味いの強さもあるし、食べてから「美味い!」が来るまでの速度も速い。しかし、蕎麦がきはボンヤリした美味さだし、食べて即「美味い!」が来るわけでもない。でもこれ、逆に言うと食べ続けても飽きが来にくいということでもある。これはご飯とかパン、麺類といった主食としての役割を担う食べ物に共通した特性なのだ。蕎麦がきはタピオカどころか、一気にご飯レベルに到達できるポテンシャルを秘めてるかもしれない!

繰り返しになってしまうが誤解がないように言っておくと、ご飯やパンがそれ自体美味しいものであると同じくらい、蕎麦がきも美味しい。ただ、分かりやすくて強い美味しさを持っている料理よりは主張が弱い。でもだからこそ、ご飯やパンがそうであるように、どんな食材・味付けにも合わせる対応力がある。加えて様々な調理法でアレンジできる高い汎用性、調理の圧倒的な手軽さなどが蕎麦がきの魅力だ。

☆蕎麦がきは何を付けてもいける!
蕎麦がき研究を続ける中で、私は様々なレシピを考案してきた。それらも追々紹介していきたいのだが、その前に蕎麦がきは色んな調味料をつけるだけでも十分楽しめる。

今年の5月、蕎麦がきの普及と可能性の追求を目的に「リモート蕎麦がき」を開催した。具体的には、私と2組の夫婦、計5人が各家庭で同時に蕎麦がきを作り、様々な調味料を試して採点する、という内容だ。

参加してくれたのは、路上園芸マニアとして知られる村田あや子さんと街角狸マニアのむらたぬきさん夫婦。鉄塔ファンの加賀谷奏子さんと東京別視点ガイドの齋藤洋平さん夫婦。

まずは「蕎麦がき、食べたことありますか?」の質問をぶつけてみる。4人とも「う〜ん、あるような、ないような」と曖昧な返事。さすが蕎麦がき。印象が薄い(それどころか、後で思い出したのだが村田夫妻は私自身が作った蕎麦がきを過去に食べていたことが判明。これぞ蕎麦がきの真骨頂!)。

事前に蕎麦粉、鍋、棒は用意してもらっていたので、早速皆で作ってみる。ZOOMに「ガッコン!ガッコン!」という音が鳴り響いたのには思わず笑ってしまった。私の説明不足で両家とも棒ではなくすりこぎや箸、鍋もホーロー鍋を用意していたりして若干手間取る場面もあったが、それでも無事に完成。というかそれくらい手違いがあっても完成してしまうのが蕎麦がき。

昨今、様々な料理を「手抜き」と評して炎上する人が後を絶たないが、蕎麦がきに関しては手抜きという人がいても私は全く怒らない。というか、その手軽さこそが蕎麦がきの魅力なのだから。

そしていよいよ、ここからが本番。この日、事前に皆で話し合って準備した(それぞれ用意できなかったものもあるが)調味料は以下の通り。

(共通枠)

⒈塩 ⒉醤油 ⒊砂糖醤油 ⒋ポン酢 ⒌ナンプラー ⒍カレー粉塩 ⒎マヨネーズ ⒏七味 ⒐柚子胡椒 ⒑わさび

11.蜂蜜 12.海苔


さらに「これはいけると思う!」という独自推薦枠もそれぞれ用意した。


(独自推薦枠)

・石井・・・ゆかり、クリームチーズ

・齋藤&加賀谷・・・黒蜜、スイートチリソース

・村田&むらたぬき・・・ソース



まずは塩から。「美味しい!」という声が聞こえたので安心した。

実は以前、私の活動を見て知人が蕎麦がきを作ってくれたのだが、イマイチだったという感想だった。聞くと蕎麦粉が外国産だったとのこと。手軽さを売りにしておきながら蕎麦粉の質を追求したりするのは不本意なのだが、揚げたり焼いたりせずに蕎麦がきをそのまま食べる場合はシンプルな分、やはり蕎麦粉の質は味に直接影響してしまう。でも今回はご両家ともに国産蕎麦粉を用意して下さったので、そこは問題なかった。



さあ、色々試していくぞ。ちなみに採点は10点満点。1番初めに試した塩を基準の6点として採点していこうとしたが、他の調味料を試すうちに塩の評価が高まり「別に基準点を決める必要はないか」となった。


「あ、これ良いな」「これは期待外れ」


食べながら思わず感想が溢れる。思えば今年は本当に色々な楽しみが奪われてしまった一年だった。こんな企画も一箇所に集まってやれば失敗もないし、もっと手っ取り早くできたかもしれない。しかし違う場所にいながら、皆でワイワイと同じものを食べる。しかも、背景には滅多に見ることがない人の家のキッチンやリビング、つまり日常生活が映り込んでいる。これは初めて経験する感覚であり、「リモート蕎麦がき」でしか味わえない楽しさだったかもしれない。


結果発表!


そうしておよそ15種類ほどの調味料を試して、いよいよ点数発表の時間となった。結果は以下の得点表にまとめてみた。




基本的にはどれも美味しかったが、事前に期待してたほどには力を発揮しなかったものもあったし、大外から一気にまくってきたダークホースもいた。前者は私の場合、カレー粉塩とゆかり。イメージでは「絶対に合うはず!」と思ったのだが、あまり美味しくなかった。ただカレー粉に関しては商品によって違いがあり過ぎるので、加賀谷さん齋藤さんは割と高めの点数だった。マヨネーズなんかも醤油と混ぜたりすれば、もっと違う結果になったかもしれない。



後者の代表はなんといってもナンプラー。実は私は当日用意できてない、という大ポカをやらかしたのだが、私以外全員の評価が高かった。むらたぬきさんは最高得点をつけている。赤字がそれぞれの最高点なのだが、被りがないところを見ると、勿論個人の好みの違いもあるだろう。基本的には「こんなの食えるか!」と言うほど酷いものはなかった。やはり蕎麦がき、懐が深い。


この後、個別に選評もいただいたのだが、皆さん仰ってたのは「複雑な味の方が合うかも」ということ。今回あらためて分かったのは、これまで書いてきたことと矛盾しているように思われるかもしれないが、蕎麦がきはアッサリ・サッパリしててスルリとすり抜けていってしまうような食べ物では決してない、ということ。蕎麦の風味も強いし、食感も割と重い。どんなに濃い味付けでも、必ず最後にフワっと蕎麦がきの風味が戻ってくる(それなのに印象が薄いのがますます不思議…)。それを受け止める為にはある程度濃くて複雑な味の方が、最後まで蕎麦がきと手を携えたままいられるようだ。私は用意してなかったが、大根おろしの評価が高かったのも絡み具合が増すからではないだろうか?マヨネーズに関しては、マヨネーズと蕎麦がきが握手しないまま別れていってしまう感じだった。


でもはっきり言って、こういう企画は「これ合わないな」も含めて楽しいものなのだが。


☆お正月には蕎麦がきを!

来年の正月は気軽に大勢で外食に出かける雰囲気でもないのかもしれないし、帰省が難しい方もおられるだろう。もし家にこもって正月の餅やおせちに飽きるようなことがあれば、蕎麦がきを作ってみてはいかがだろうか?その際、実家や友人たちとリモートで様々な味付けを試してみる、なんてのも面白いと思う。最後までその側面に全く触れていなかったが、蕎麦がきは酒の友としても昔から重宝されているので、その点も正月にぴったりかもしれない。


もし蕎麦がきを作ったり、相性の良い調味料を発見したりしたら「#蕎麦がき作ってみた」でTwitterに投稿してみて欲しい。