☆あなたは「蕎麦がき」を知ってますか?
今年に入ってからちょっと気になって、周囲の人達にこの質問を投げかけてみている。私は日常的に蕎麦がきを食べる環境に暮らしているのだが、そう言えば人から蕎麦がきの話を聞いたこともないし、蕎麦がきのことを呟いている人も見かけない。これはどうしたことだ?
冒頭の質問に対し、殆どの人から「知ってるけど食べたことはない」という返事が返ってきた。まれに食べたことがある人がいても「どんな感じだったか覚えていない」という答えが多く、ご高齢の方だと「戦後すぐによく食べさせられた。嫌な思い出。2度と食べたくない」という人も珍しくない。若い世代だと全く知らないという人がグッと増える。
「蕎麦がきってそんなに当たり前の食べ物じゃないんだ!」
驚くと同時にとても不思議な気持ちにもなってきた。何故なら、蕎麦と聞いてまず思い浮かべるあの細長い蕎麦(「蕎麦切り」とも呼ばれる)よりはるか昔から、我々日本人は蕎麦がきを食べてきたからである。蕎麦切りが食べられるようになったのは江戸の少し前くらいからで、それ以前、1,000年以上の間日本人は蕎麦の実を「蕎麦がき」として食べていたのだ。(参照:日穀製粉株式会社)
1,000年以上の歴史を持っていて、現代でも少し気の利いた蕎麦屋なら日本中どこでも食べられるのに、これほど影が薄い食べ物が他にあるだろうか?ラーメン、たらこスパゲティ、ホットケーキ。なんでも良い。今我々が当たり前に食べているものは、過去に「これうまいじゃん!」が伝播して流行が起こり、やがては日常食として定着する、という流れを経てきたはずである。しかし蕎麦がきときたら、過去に流行した形跡もないし、定着もしてるんだかしてないんだか分からない現状。それなのに昔からなんとなくずっとそこにいる。不思議!私はこういう存在に弱い。何故なら私の肩書きは「片手袋研究家」なのだから。
私は道端に落ちている片方だけの手袋を15年間研究し続けてきた。
15年間で5,000枚は撮影してきただろうか?人によっては「5,000枚!」と驚くだろうが、私に言わせればそれでも少ない方で、私がもっとアクティブで各地に旅しまくっているような人間ならその倍は出会っていたはずである。それくらい、町は季節問わず片手袋で溢れている。それなのに、片手袋を気にする人は誰もいない。この「あるのに、誰も見ない」という現象こそ、私が研究対象として片手袋を選んだ最大の要因であったように思う。「よーし、それなら俺が徹底的に見てやろうじゃねーか!」ってなもんである。そして今、蕎麦がきが新たな「あるのに、誰も見ない」対象として私の前に立ち塞がったのである。よーし、お前のことも徹底的に見てやんよ!
「蕎麦がきとは片手袋である」。この事実に気付いた2020年、私の蕎麦がき研究が始まった。スローガンは「蕎麦がきは、次の次のタピオカ」。すぐにじゃないかもしれないけど、絶対に蕎麦がきムーブメントが来る!
☆蕎麦がきを作ろう!
…と、ここまで「蕎麦がきを知らない人が多い」ということを書いておきながら、蕎麦がきがどんな食べ物なのかに全く触れていなかった。皆さんの住んでいる町の蕎麦屋さんに行って貰えば、おそらく蕎麦がきも出している場合が少なくないと思う。まずはプロの味を堪能して頂ければ話は早いのだが、今回の記事の趣旨は「蕎麦がきを食べてほしい」ではなく「蕎麦がきを作って食べてほしい」なのである。蕎麦がき、実はめちゃくちゃ簡単に作れる食べ物なのだ。
※用意するもの(2人前)
・蕎麦粉…75g
・水…150ml(基本的には蕎麦粉の倍の分量だが、蕎麦粉の水分含有量などによってかなり変わってくる。棒を持ち上げてみてツツーと細く垂れるくらいのイメージ)
・鍋(テフロン加工などの焦げ付きにくいもの)
・棒2本(ホームセンターで丸棒を買って切るだけ。18mmが一番使いやすい)
たったこれだけ。あとは鍋に蕎麦粉と水をぶち込んで混ぜ(ダマにならないよう注意)、火にかけながら棒でかき回せば完成。
↑動画でもご覧下さい。
このモチモチとしたお餅のようなものが蕎麦がきだ。
蕎麦がきの作り方は他にも色々ある。例えば熱湯を一気に蕎麦粉に注ぎ込んで作るやり方があるが(『美味しんぼ』に登場した蕎麦がきはこれ)、これだとべちょべちょした感じに仕上がることも多い。「もう2度と食べたくない」と言っていたお年寄りも、戦中戦後にこの作り方で食べていたという。だが今回ご紹介したやり方なら失敗も少ないと思うし、仕上がりがよりモチモチになる。
厳密に言うと粉を一度ふるいにかけた方がキメが細かくなりダマにもなりにくい、とかまあ色々あるのだが、とりあえず最初は気にしない。「蕎麦粉と水を火にかけながら混ぜるだけの料理」。このイメージでOK。細部にこだわるのは後で良い。あくまでこれは一番基本のシンプルな蕎麦がきだが、5分もあれば作れるはずだ。
それでも一つだけコツがあるとすれば、「火にかけてからは大きく混ぜて、固まってからもしばらく空気を入れるように混ぜる」ということ。これでモチモチ食感に仕上がるはずだ。
あとは塩や醤油なんかをつけたり、海苔で巻いたりして食べるだけ。
絶対注意して欲しいのは、とにかく温かいうちに食べること!冷めると表面が固まって食感がボソボソとしてきて(それを防ぐために蕎麦湯に蕎麦がきを浮かべるスタイルも一般的)、美味しさが半減してしまう!
さて、もしここまで読んで実際に作ってくれた方がいるとしたら、どうだろうか?いや、あの、これ非常に言い方が難しいのだが、おそらく「美味し過ぎない」と思う。いやいやいや、美味しいんですよ。特に蕎麦の香りや風味を楽しむという点においては、蕎麦切りよりも上かもしれない。でも例えば「ドライエイジングビーフをオーブンで焼き上げ…」みたいな料理と比べれば、美味しさもぼんやりしてると思う。「あ〜、まあ、うん、良いんじゃない?」みたいな感じ。ただこの表を見て欲しいのだが、
私は、美味しさには「強さと速さ」があると思う。熟成肉のステーキみたいなものは美味いの強さもあるし、食べてから「美味い!」が来るまでの速度も速い。しかし、蕎麦がきはボンヤリした美味さだし、食べて即「美味い!」が来るわけでもない。でもこれ、逆に言うと食べ続けても飽きが来にくいということでもある。これはご飯とかパン、麺類といった主食としての役割を担う食べ物に共通した特性なのだ。蕎麦がきはタピオカどころか、一気にご飯レベルに到達できるポテンシャルを秘めてるかもしれない!
繰り返しになってしまうが誤解がないように言っておくと、ご飯やパンがそれ自体美味しいものであると同じくらい、蕎麦がきも美味しい。ただ、分かりやすくて強い美味しさを持っている料理よりは主張が弱い。でもだからこそ、ご飯やパンがそうであるように、どんな食材・味付けにも合わせる対応力がある。加えて様々な調理法でアレンジできる高い汎用性、調理の圧倒的な手軽さなどが蕎麦がきの魅力だ。
☆蕎麦がきは何を付けてもいける!
蕎麦がき研究を続ける中で、私は様々なレシピを考案してきた。それらも追々紹介していきたいのだが、その前に蕎麦がきは色んな調味料をつけるだけでも十分楽しめる。
今年の5月、蕎麦がきの普及と可能性の追求を目的に「リモート蕎麦がき」を開催した。具体的には、私と2組の夫婦、計5人が各家庭で同時に蕎麦がきを作り、様々な調味料を試して採点する、という内容だ。
参加してくれたのは、路上園芸マニアとして知られる村田あや子さんと街角狸マニアのむらたぬきさん夫婦。鉄塔ファンの加賀谷奏子さんと東京別視点ガイドの齋藤洋平さん夫婦。
まずは「蕎麦がき、食べたことありますか?」の質問をぶつけてみる。4人とも「う〜ん、あるような、ないような」と曖昧な返事。さすが蕎麦がき。印象が薄い(それどころか、後で思い出したのだが村田夫妻は私自身が作った蕎麦がきを過去に食べていたことが判明。これぞ蕎麦がきの真骨頂!)。
事前に蕎麦粉、鍋、棒は用意してもらっていたので、早速皆で作ってみる。ZOOMに「ガッコン!ガッコン!」という音が鳴り響いたのには思わず笑ってしまった。私の説明不足で両家とも棒ではなくすりこぎや箸、鍋もホーロー鍋を用意していたりして若干手間取る場面もあったが、それでも無事に完成。というかそれくらい手違いがあっても完成してしまうのが蕎麦がき。
昨今、様々な料理を「手抜き」と評して炎上する人が後を絶たないが、蕎麦がきに関しては手抜きという人がいても私は全く怒らない。というか、その手軽さこそが蕎麦がきの魅力なのだから。
そしていよいよ、ここからが本番。この日、事前に皆で話し合って準備した(それぞれ用意できなかったものもあるが)調味料は以下の通り。
(共通枠)
⒈塩 ⒉醤油 ⒊砂糖醤油 ⒋ポン酢 ⒌ナンプラー ⒍カレー粉塩 ⒎マヨネーズ ⒏七味 ⒐柚子胡椒 ⒑わさび
11.蜂蜜 12.海苔
さらに「これはいけると思う!」という独自推薦枠もそれぞれ用意した。
(独自推薦枠)
・石井・・・ゆかり、クリームチーズ
・齋藤&加賀谷・・・黒蜜、スイートチリソース
・村田&むらたぬき・・・ソース
まずは塩から。「美味しい!」という声が聞こえたので安心した。 実は以前、私の活動を見て知人が蕎麦がきを作ってくれたのだが、イマイチだったという感想だった。聞くと蕎麦粉が外国産だったとのこと。手軽さを売りにしておきながら蕎麦粉の質を追求したりするのは不本意なのだが、揚げたり焼いたりせずに蕎麦がきをそのまま食べる場合はシンプルな分、やはり蕎麦粉の質は味に直接影響してしまう。でも今回はご両家ともに国産蕎麦粉を用意して下さったので、そこは問題なかった。
さあ、色々試していくぞ。ちなみに採点は10点満点。1番初めに試した塩を基準の6点として採点していこうとしたが、他の調味料を試すうちに塩の評価が高まり「別に基準点を決める必要はないか」となった。
「あ、これ良いな」「これは期待外れ」
食べながら思わず感想が溢れる。思えば今年は本当に色々な楽しみが奪われてしまった一年だった。こんな企画も一箇所に集まってやれば失敗もないし、もっと手っ取り早くできたかもしれない。しかし違う場所にいながら、皆でワイワイと同じものを食べる。しかも、背景には滅多に見ることがない人の家のキッチンやリビング、つまり日常生活が映り込んでいる。これは初めて経験する感覚であり、「リモート蕎麦がき」でしか味わえない楽しさだったかもしれない。
☆結果発表!
そうしておよそ15種類ほどの調味料を試して、いよいよ点数発表の時間となった。結果は以下の得点表にまとめてみた。
基本的にはどれも美味しかったが、事前に期待してたほどには力を発揮しなかったものもあったし、大外から一気にまくってきたダークホースもいた。前者は私の場合、カレー粉塩とゆかり。イメージでは「絶対に合うはず!」と思ったのだが、あまり美味しくなかった。ただカレー粉に関しては商品によって違いがあり過ぎるので、加賀谷さん齋藤さんは割と高めの点数だった。マヨネーズなんかも醤油と混ぜたりすれば、もっと違う結果になったかもしれない。
後者の代表はなんといってもナンプラー。実は私は当日用意できてない、という大ポカをやらかしたのだが、私以外全員の評価が高かった。むらたぬきさんは最高得点をつけている。赤字がそれぞれの最高点なのだが、被りがないところを見ると、勿論個人の好みの違いもあるだろう。基本的には「こんなの食えるか!」と言うほど酷いものはなかった。やはり蕎麦がき、懐が深い。
この後、個別に選評もいただいたのだが、皆さん仰ってたのは「複雑な味の方が合うかも」ということ。今回あらためて分かったのは、これまで書いてきたことと矛盾しているように思われるかもしれないが、蕎麦がきはアッサリ・サッパリしててスルリとすり抜けていってしまうような食べ物では決してない、ということ。蕎麦の風味も強いし、食感も割と重い。どんなに濃い味付けでも、必ず最後にフワっと蕎麦がきの風味が戻ってくる(それなのに印象が薄いのがますます不思議…)。それを受け止める為にはある程度濃くて複雑な味の方が、最後まで蕎麦がきと手を携えたままいられるようだ。私は用意してなかったが、大根おろしの評価が高かったのも絡み具合が増すからではないだろうか?マヨネーズに関しては、マヨネーズと蕎麦がきが握手しないまま別れていってしまう感じだった。
でもはっきり言って、こういう企画は「これ合わないな」も含めて楽しいものなのだが。
☆お正月には蕎麦がきを!
来年の正月は気軽に大勢で外食に出かける雰囲気でもないのかもしれないし、帰省が難しい方もおられるだろう。もし家にこもって正月の餅やおせちに飽きるようなことがあれば、蕎麦がきを作ってみてはいかがだろうか?その際、実家や友人たちとリモートで様々な味付けを試してみる、なんてのも面白いと思う。最後までその側面に全く触れていなかったが、蕎麦がきは酒の友としても昔から重宝されているので、その点も正月にぴったりかもしれない。
もし蕎麦がきを作ったり、相性の良い調味料を発見したりしたら「#蕎麦がき作ってみた」でTwitterに投稿してみて欲しい。
もっと蕎麦がきを広めたかったらAmebaブログははてなブログで書いた方がいいと思います。
間違えました。
正しくは
グーブログは時代遅れです。
もっと蕎麦がきを広めたかったらはてなブログかAmebaブログで書いた方がいいと思います。
です。
何度もコメントしてすみません。