「最近はうかつに部下を叱れない」。都内の広告会社で働く金子孝宏さん(仮名、41)はこう話す。
勤務態度や顧客への対応について叱るとむくれたり、しょげたり、場合によっては翌日出社しなくなったりする若手がいるという。
「謝りの言葉すら出てこない」とため息をつく。
「謝ることは自分を変えるチャンスと考えよう」。こう話すのは「『謝り方』の技術」(三笠書房)の著者で、話し方研究所(東京・文京)会長の福田健さん。
適切な謝罪ができれば相手は自分を見直してくれるかもしれず、関係が良くなれば前より積極的に仕事に取り組めるためだ。
では具体的にどうすればいいのだろうか。謝罪には大きく分けて「間違いを認める」「謝る」「改善策を示す」の三つのステップがある。
まずは自分の間違いを素直に認める。「自分は必ずしも悪くない」といった自己防衛の気持ちを持ったまま謝っても、誠意は伝わりにくい。
先方がどれだけ迷惑を被ったかを考えよう。トラブルに発展していなくても、自分でミスに気付いた段階ですぐに「ご迷惑をかけてすみません」などと伝えるといい。
「人は先に謝られると腹が立ちにくい」(福田さん)
突然訪問はNG
自分で気付かず、相手にミスを指摘された場合も「できるだけ早く」が基本。
上司など社内であれば比較的早く伝えられるが、取引先なら連絡を取ることが必要だ。
ビジネスマナーなどの指導をするヴィタミンM(横浜市)社長の鈴木真理子さんは「まず電話し、
その後にメールという順が基本。外出の多い相手ならメール、電話の順でも構わない」と話す。
メールだけで済ませると「軽く見られた」と受け止める人もいるので避けた方が無難という。
過失の内容によっては先方に直接会って謝る方がいいケースもある。ただ、突然出向くのはご法度。まずは相手の都合を確認しよう。
訪問前に上司に報告することも必要だ。上司が同行するかどうかは、上司の判断を仰げばよい。
一人では自信がない場合は「力を貸してください」などと頼むのも手だ。
「上司の謝罪を見ることで学ぶこともできる」(鈴木さん)
いざ相手に謝罪するときはどうするか。まず相手の話をよく聞くことが大切。
「お言葉を返すようですが」「それは誤解です」などと口を挟んではいけない。
「ごもっともです」などの言葉と共に真摯な態度で共感を示しながら、相手の怒りのポイントがどこにあるのかをくみ取ろう。
謝罪する際はみだしなみにも注意したい。
「落ち着いた色のスーツを着て、女性は化粧やアクセサリーを控えめにするといい」と鈴木さんは話す。
心から申し訳なく思っていても、派手な服や濃い化粧をしていると、「反省していない」と受け止められるケースもあるためだ。
最後は改善案を
相手が一通り話を終えたら、謝りの言葉を伝える。ただ「すみません」「申し訳ありません」を繰り返すばかりでは、本当に謝っているのかと疑われかねない。
「深くおわびいたします」「私のミスです」「おわびのしようもありません」などと表現をかえて、丁寧に伝えよう。
謝罪の後は原因や経過を説明する。ミスの言い訳をすべきではないと考える人は多いが「自己弁護のためではなく、相手のために説明は必要」と福田さんは指摘する。
迷惑を被った相手は、なぜこうなったかを知りたい。
単純なミスだったのか、やむを得ない事情だったのかなどを知ることは、相手が今後の対応を考えるうえでも大事な材料になる。
最後は改善策を提案する。ミスを防ぐための今後の取り組み内容や善後策などを話す。
例えば納期が遅れた場合は「○月△日に納品させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」といった具合に相手の要望とズレていないか確認する形で提案しよう。
次回は相手の性別や怒りのタイプなどに応じてどう謝るかといった応用編を紹介する。