スリランカ:世界の指導者は強制収容所を終了させるよう要求すべき
帰郷への遅れは人権侵害の言い訳にならない
(ニューヨーク、2009年9月22日)-ニューヨークでの国連総会とピッツバークでのG20経済首脳会議に出席する世界の指導者は、強制収容所に違法に閉じ込められている26万を超える国内難民を直ちに釈放するよう、スリランカ政府に求めるべきであると本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
「戦闘員だったという嫌疑を掛けられた者たちに対する、強制収容所内での保護制度の欠如、秘密裏な隔離拘禁、しかも強制失踪の可能性すらある」という懸念をヒューマン・ライツ・ウォッチは表明した。お粗末な環境や過密収用かつ不適切な医療が、やがて来るモンスーン期での健康問題における重大な危険性を増大している。ヒューマン・ライツ・ウォッチ又、当局は収用所内の住民が何時になったら家に帰れるのかについて、オープンかつ誠実に説明するわけでもなく、先行きに対する不安な状態に放置している、と述べた。
先週、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、問題を列挙し、スリランカ政府に強く介入するよう各国政府にせきたてる、EU加盟国宛の書簡を送付した。
<http://www.hrw.org/en/news/2009/09/11/letter-eu-foreign-ministers-idps-
sri-lanka-ahead-un-general-assembly>
“収用所に閉じ込められている民間人は今現在自由への権利を有しているのであり、政府がそれに取り掛かってからという問題ではない”とブラッド・アダムス、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アジア局長は述べた。“世界の指導者は、戦争とそれに伴う難民化で多大な苦しみを味わっている、これらの人々が有していた移動の自由への権利を、完全に復活させようとする国連の要求を支持しなければならない。”
2008年3月以来スリランカ政府は、タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)との戦争によって難民化した全ての人々を、国際法に違反して彼らの権利そして移動の自由を奪って、事実上強制収容所に閉じ込めてきた。国連によれば、2009年9月15日現在政府は264,583名の国内難民を強制収容所と病院で拘束しており、一方12,000名に満たない人々しか釈放されたり帰郷したりしていないそうである。
先頃政府が「多数の収用所住民が解放された」と主張したのは、ウソであるとヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。9月12日に防衛省ウェブサイトに掲載された声明は「前日、政府が1万人近い人々を収用所から故郷へ帰すために釈放した。」と主張した。しかしながらそれは後に、人々は故郷の地方にある収用所に移送されたに過ぎなかったことが判明した。そこで人々は当局から更なる検査を受けているのである。スリランカ軍は「個人個人が既に登録され、何度も検査されて、釈放されても良いと判明していても、追加検査には数日から最大6ヶ月掛かる。」と表明してきている。
潘基文(パン・ギムン)国連事務総長とマヒンダ・ラージャパクサ大統領が5月23日に出した共同声明にもあるように、スリランカ政府はこれまで繰り返し国内難民を収用所から出来るだけ早く解放することを約束してきた。しかし戦闘が終結して4ヶ月経過しているが、殆ど何の進展もない。
先週スリランカを訪問した際に国連政治問題担当事務次長B.リン・パスコー(B. Lynn Pascoe)は、検査過程を終了した国内難民に収用所から出ることを許し、又残ることを選んだ者に日中の外出と、場所の如何に関わらず友人や家族と面会することを許可するよう、政府に要求する強いメッセージを発した。それに対しラージャパクサは、1月末までに難民となった民間人の帰郷を完了するための準備が整う見込みだが、その帰郷は帰るエリアの地雷除去の進展に掛かっていると語った。
“地雷除去は重要であるが、地雷の存在は人々を閉じ込めたままにして置く正当な根拠にはなり得ない。”とアダムスは語った。“難民の多くは地雷が残っているエリアから遠く離れた親族や受け入れ家庭に住むことが可能なのである。”
国連総会でのハイレベル協議に出席するためスリランカ政府高官代表団が今週ニューヨーク入りするだろう。ラトナシリ・ウィクラマナヤケ(Ratnasiri Wickramanayake)首相は、“国際的な平和・安全保障・開発を目指す文明間での多国間主義と対話の強化”という題で、9月26日国連総会に演説する予定である。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは世界の指導者に、スリランカの国内難民の悲惨な状態を、スリランカ代表団と議論する場合における重要議題にし続け、以下の追加事項を議論の場に挙げることを求めた。
恣意的拘束及び強制失踪の問題
政府はLTTEに関与していたと疑われる、1万人以上の国内難民を拘束したと表明してきた。政府はそのような人物を家族と分離し、別の収用所や正規刑務所に移送した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、スリランカの法律で規定されている保護に関わりなく、個々人が拘束された様々なケースを取りまとめた。多くの場合、当局は家族に捕らえた者の居場所を知らせず、秘密裏に隔離拘禁し、若しくは強制失踪とさえいえる状態にし、結果として特に虐待にあいやすくしている。
行方不明親族の追跡が出来ない問題
強制収容所にいる家族は、他の収用所や非公式な収容施設にいる可能性のある行方不明親族を見つけ出すための制度にアクセスすることが出来ない。強制収用所にアクセスしてきた人々は、「かなり多くの人々が、数週間又は数ヶ月後になっても、拘束された親族の所在を知らないでいる。」と報告している。伝えられるところでは、当局は「強制収容所に住まわせている者の登録を完了した。」そうであるが、行方不明親族のいる人々やその行方を追跡している団体が使用する可能な、名簿を作成していない。多くの場合行方不明家族の行方を追跡している国際赤十字委員会(ICRC)は、7月中旬から主要な強制収容所への立ち入りを禁じられている。
強制収容所内で保護制度が欠如している問題
強制収容所を管理している軍当局は、国連やICRCなどの人道援助団体が、強制収容所の中で効果的な監視及び保護活動を行うことを妨げている。強制収容所で生活している者と会話する際には、殆どの場合軍が同席することを要求し、強制収容所の環境に関する内密の情報交換を妨げている。政府の団体であるスリランカ人権委員会だけが軍の許可を得て強制収容所に立ち入ることができる。
強制収容所内の環境及びモンスーン期間における環境悪化が見込まれる問題
強制収容所は非常に過密状態となっていて、政府が民間人を釈放することを拒否しているために、それが又悪化している。モンスーンの到来とともに環境はさらに悪化し続け、かん難辛苦を増大している。8月中旬の激しい雨は大規模な洪水を引き起こし、テント他の避難施設を破壊、多くの者を調理不能に陥れ、道路を崩壊させ、飲料水のような重要な援助の配布を妨げている。水は又便所をあふれ出させ、生汚水がテント間に流れるようにさせてしまった。援助機関はモンスーン期における洪水による病気の脅威についてとりわけ懸念を抱いている。
適切な医療へのアクセス不足問題
強制収容所で生活している者は、適切な医療を受けられないでいる。医療施設は未発達であり、要員不足かつ資金不足な状態だ。居住者は医者に診てもらうために数時間も待たなければならず、又診てもらうだんになっても、シンハリ語を話す医者とタミル語を話す患者との間での言語障壁がしばしば効果的な意思の疎通を妨げている。多くの強制収容所は夜間に医者がおらず、緊急時に医療を受けることが出来ない状態に居住者を置いたままである。強制収容所の医者が外の医療機関に患者を紹介する場合には、軍の許可を得なければならない。ヒューマン・ライツ・ウォッチが取りまとめた幾つかのケースでは、軍は医者の紹介を拒否し、患者の様態悪化をもたらしている。
透明性と情報の欠如の問題
当局は強制収容所の住人を、彼らの長引く拘束の理由や親族の居所についての情報、そして帰郷に向かっての基準や手続きについての情報を提供しないまま、不安な状態に放置し続けている。9月11日当局は数百名の強制収容所住人に釈放すると伝えたが、実際は更に検査をするために住人を他の強制収容所に移送しただけだったのだが、その時のように、幾つかのケースで当局は故意に難民に事実と異なる説明をしてきた。
“悲しいかな、スリランカ政府には紛争によって国内難民化した民間人に、ウソを言い騙し約束を破るという経歴がある。”とアダムスは述べた。“国連、資金提供国、二国間関係を持つ国は、直ちに、具体的な進展を成し遂げるよう要求し、スリランカ政府による空約束で再度欺かれないようするべきである。”
2009年9月にヒューマン・ライツ・ウォッチがEU加盟国外相宛に送付した、スリランカにおける国内難民に関する書簡を読みたい方は、以下のサイトを訪れてみてください。