♪話す相手が居れば、人生は天国!

 人は話し相手を求めている。だったら此処で思いっきり楽しみましょう! 悩み事でも何でも、話せば気が安らぐと思うよ。

小説らしき読み物(40)

2016年02月05日 09時42分35秒 | 暇つぶし
                    
 何時しか季節は梅雨に移り、うっとうしい雨の日が続いている。
 其の日も朝から雨が降っていた……朝食の後、囲炉裏の側で暇を持て余している和久は、ダイスケと戯れる夕子に見惚れている。
「よう降る雨やなぁ……夕子、気晴らしに買い物にでも行くか?」
 夕子が朝霧に来て、初めて買い物に誘った和久。
「うん……でも、私って分からないかなあ……」
 夕子は、有名人である自分が、知られる事を気にした様である。
「大丈夫やでっ! まさか、こんな田舎にスーパースターの茜 夕子が居るやなんて、誰も思わんやろっ……似てる人が居るなあ位にしかなっ……」
 笑いながら気楽に答えた和久。
「そうだねっ和さん!……もしも分かったら、此の人に誘拐されて連れてこられました! って、騒がせようか!……」
 夕子は、悪戯っぽく笑いながら言った。
「あっはっはっ、そらええわ!……夕子、お前は面白い事を言うなぁ……」
 夕子の冗談に、大笑いで応える和久……笑いながら支度を済ませた和久は、ダイスケを抱いて待っている夕子に、傘を差し掛けて車に乗った。
「夕子、診療所に寄って行こう……診察してから出掛けようやっ!」
 暫く会って無かった武夫妻に、夕子が示す反応を期待した和久は、車を診療所に向けて走らせる……昼前の診療所に患者の車は無く、ダイスケを車に残して診療所に入って行く和久と夕子……だが、武夫妻に見せた夕子の笑顔は以前と変わらなかった。
 診察室に入った夕子の後ろ姿に、落胆の色を示した和久……和久の様子を受付の椅子に座って見ていた加代は、目を瞑り無言で小さく顔を左右に振った。
 診察が済み、診察室から出て来た武と夕子。
「和さん、お待たせ! 異状なしだ!……顔色も良く健康そのものだ!」
 和久の気持ちを察している武は、明るく振舞っている。
「加代さん、買い物に行くんやけど、何か要る物が有るんやったら一緒に買うてくるでっ……」
 側に来た夕子に気遣いをさせないよう、さらりと問い掛けた和久。
「ありがとう和さん……今は何も無いから、気を付けて行ってらっしゃい……ダイちゃんは車の中?」
「うん、診療所には連れて来れんから……そんなら行って来るわ!」
 車の所まで見送りに来た加代!……加代の姿を見たダイスケは、開けていた窓に飛び付き、甘える様に泣き始めた。
「ダイちゃん、お留守番していたの……お利口さんだねっ!」
 ダイスケを抱き上げて優しく言い、頬擦りをする加代……加代に抱かれて安心したダイスケは、加代の頬をぺろりと舐めた。
 二人が車に乗り、座席に座るのを見た加代は、助手席に座った夕子にダイスケを渡し、ダイスケの頭をそっと撫でた……加代に見送られた和久達は、小雨が降る山道を走り続けている。
「夕子、昼はそば街道で食べようか?」
「うん、美味しいかなあ……」
「どうやろか? わしも食べた事が無いからなあ……」
 話をしながら買い物を済ませ、ソバを食べて朝霧に帰って来た……囲炉裏に火を熾し、猪鍋を作り直した和久は、久し振りに葉ワサビの押し寿司を作って武夫妻を呼んだ。


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