SMILEY SMILE

たましいを、
下げないように…

震える弱いアンテナ

2005-05-25 08:55:53 | 
汲む
 ―Y・Yに―

             茨木のり子


大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始るのね 墜ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなかった人を何人も見ました

私はどきんとし
そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇  柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
わたくしもかつてのあの人と同じくらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲むことがあるのです



「戦後詩の長女」とも言われる茨木のり子さん。

「自分の感受性くらい」しか知りませんでしたが、meiさんに紹介して

頂いて、下記の現代詩文庫を購入♪


「震える弱いアンテナ」

そう、これだ。

詩人の感覚、紡ぐ言葉は、偉大だなぁ。



茨木のり子詩集

思潮社

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紫陽花の風景

2005-05-25 02:28:55 | 
もう紫陽花の風景や もう丘を歩く彼女の姿
飛ばされて行っちまった 
もう間違いが無いことや もう隙を見せないやりとりには
嫌気がさしちまった

                  
                  ~小沢健二「カウボーイ疾走」


紫陽花が、色づき始めた

雲の流れ

雨の匂い

濡れた服の重さ

6月が、来る

陰鬱でありながらも、僕はワクワクしたりするんだ

私が生まれた月

太宰さんが生まれ、死んだ月


トイレの中の言葉

2005-05-25 01:47:41 | 
「自分の感受性くらい」

茨木 のり子


ぱさぱさにかわいていく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて

気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを
近親のせいにはするな
何もかもへたくそだったのはわたくし

初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった

駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ




奥さんが最近この詩を書いた紙を置いたんです。