今回新たに加わった巣板など整理するため、砥石ラックを作ってみたが、これを眺めながら、う〜ん、なんでこんなに必要なんだろ、と私でも思ってしまうのだ。で、もうこれ以上いらないと思っていたのについ買ってしまった巣板とは砥石の中でどんな位置にあるのか、ちょこっと説明してみようと思う。天然砥石の巣板は一般的に仕上げ砥の合砥より軟らかく粒度も6000〜7000番程度とされている。でも、専門家が言うには天然砥石の7000〜10000番の粒子が研ぐうちに次第に小さくなり最終的に12000番ぐらいの性能を出すようになるそうだ。しかも同じ番数の人造砥石より傷が浅く、人造には全く真似のできない仕上がりになるようだ。また、天然砥石で研ぐと錆びずらく人造なら1,5倍の粒度にしなければ同等にならないと言われている。
刃物研ぎはまず番数の低い中砥石で形を整え、その傷を番数の高い中砥石「青砥」で小さく慣らし、残った傷を完全に消す役目を「巣板砥」が担当する。私の場合、人造砥石「刃の黒幕」1000番で小さな刃欠けを直したり、砥石の当たらないエクボを削ったりと成形し、次に青砥でその傷を消す。私の黒ゴマ青砥は硬く締まっていて人造砥石1000番の傷が肉眼で見えないぐらいにしてしまう(右から3番目の上が欠けてるヤツ)。こいつは水を吸わず砥泥もすぐ出ないし粒度はたぶん4000〜5000番で、もう仕上げ砥レベルだが研削力が強くよく研ぎ下ろし、刃欠けが無ければまずこれから研ぎ始めることも多い。普通の研ぎならこの2本で充分だろうが、ただこの黒ゴマの青砥はダイヤモンド砥石で擦って砥汁を出すか名倉を当てる必要があるから一般的ではないかもしれない。
で、次に巣板にいくのだが、一般的な青砥ではまだ傷が残っていて、それを完全に消すための使用となる。写真では左から4列目の白っぽい小さな変形したやつで、丸尾山の「白巣板」。これは水に濡らして研ぎ始めるとすぐに砥泥が出て滑らかな研ぎ心地でよく下ろし中砥石の傷をきれいに消してくれる。地金と鋼を合わせた霞包丁だと、地金が美しく霞みよく切れる刃が付くのだ。丸尾山の白巣板は他の多くの山の巣板と比較して最も安定した性能を有していると言われている。もうここまでで充分で、早く終わらせたい時はこれで止めることもあるけど、刃物好き包丁好きは次に「最終仕上げ研ぎ」、「超最終仕上げ研ぎ」と続くのだ。ただ、私の場合、黒ゴマ青砥で傷がほとんど消えるものだから、白巣板を飛ばし、「合いさ」や「大上」「天井戸前いきむらさき」あたりの最終仕上げに行ってしまうこともある。まあ、最後の二つは研ぎでは無く磨きと刃付けの鋭さの追求であり、超最終仕上げ砥はより硬く目の細かい砥石で鏡面を狙うのだ。これは一般的にカミソリ砥と言われるものである。巣板は最終仕上げ砥より研削力があり、形も整えつつより傷を小さくし、より緻密な最終仕上げ砥石へつないで行く。なので研削力があり研磨力もあるのが巣板の理想である。私は初めて手にしたのがたまたま丸尾山の白巣板で、その性能に感動して使っていたが、奥殿の巣板の中に硬質で研削力のすごいのがあることを知り、手に入れたのが左端の木の台座に乗せたコッパで、噂通り以上の性能だった。まだ使いこなしてないけど、包丁に食い付くような刃当たりで強く研ぎ下ろし、砥泥がよく出て、切り刃が鏡面のようになる。これ自体で超最終仕上げ砥石のような。ただ、酸性が強く研いだ後地金に錆が浮くから、しっかり洗い後でチェックしないといけないのが難。なのでこの奥殿は巣板の役目より仕上げ砥として使う場合が多く、丸尾山で新たに発掘され始めた白巣板より研削力の強い「青巣板」を手に入れたいと思っていた。そんな時砥石好きに特に評判の良い大平山の巣板を知った。これは研削力が強力で、なおかつ研磨力も相当なもののようだった。でも、市販品はもちろん無く、どんな物だろうなと思っていたところ、ヤフオクに気になる一品が載ってしまった。目があってしまった、というべきか。青巣板はこれからも産出されるが、大平山の巣板はネットで出合うしかないのだ。で、手に入れたのが写真右から4番目の白っぽい中に黒が浮いた縦205mm、幅75mm、厚み33mm、重さ1291gの立派なもの。ただ、大平山の巣板はほとんどが蓮華と呼ばれるまだら模様のものだが、これはかなり硬い綺目の細かい砥石で蓮華がない白巣板である。しかも黒いカラス模様が浮いている珍しいものだった。ネットでいくら探してもカラスの浮いた白巣板はヒットしなかった。これはサクサクと研ぎ味よく強力に下ろし、丸尾山よりかなり強めで、綺目の細かさも同等以上かもしれない。丸尾山の地金は美しく曇るけど、こちらは明るく光り(?)鋼は鏡面になる。これも超最終仕上げ砥石に分類できそうだが、まあ最高の巣板の一つと言えるのではないだろうか。砥石屋さんの話によれば大平の巣板は大工さんに好まれたが、その中でも滅多に出ない蓮華の無い白巣板を見たらすぐ持っていってしまったと言っている。巣板はあと中山、神前、新田などが有名だが、私はこの大平の白巣板カラスがあれば、多様な鋼にも合いそうだし、当分他の巣板が欲しくなることはなさそうに思っている。毎日刃物を研ぎしかも繊細な刃付けが必要な人にとってこんな巣板が一本あればこれを当てるだけでこと済むのだから、優秀な巣板は喉から手が出るほど欲しいものだったのだろう。ちなみに硬い超最終仕上げ砥石では鋼や地金を磨くことはできてもほとんど削れないだ。
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