多摩爺の「時のつれづれ(文月の19)」
あるラーメン屋店主の胸の内
1回目のワクチンを打って約10日、
どうしても都内に出かけなくちゃならない用ができたもんだから、
下町でラーメン屋さんをやっている従弟(いとこ)の店を訪問し、昼メシを食べることにした。
コロナ禍に陥る前までは、年に数度だがお店を訪問して、
互いの故郷のことや、子供たちのことを話し合い、
親交をあたためてきたが・・・ 巣ごもり生活に入り、連絡が途絶えてしまって1年半
大変申し訳なかったが、すっかり義理を欠くことになっていた。
忙しくなくなった時間帯を狙って13時過ぎに訪問したのだが、店内の席は8割方埋まっており、
こういったコロナ禍にありながらも、お客様に可愛がってもらえてることに・・・ ホッとひと安心
やれやれという言葉は適切ではないが、心配していた状況に至っておらず胸のつかえが下りた。
ラーメンを食べた後、土産のゼリーを「子供たちに食べさせてやって」と言いながら渡すと、
早々に帰宅するつもりだったが・・・ 店の外まで従弟が出てきてくれ、
10分程度だったと思うが、父が亡くなったことを含めて、
さまざまなことを話すことができたので、
コロナ禍に陥ってからの、従弟の奮闘記と、現在の胸の内を思いだしながら文字に起こしてみたい。
「お客さんは、けっこう入ってるみたいだけど・・・ 経営はどうなの?」
→ これが一番気になっていたこと
「在宅勤務などで、仕事帰りに寄ってくれるサラリーマンは減ったけど、
近所で再開発があって昼間は増えてるので、お客さんはトータルではプラマエ0ぐらい、
営業時間やビールの提供などには制約があるけど、都からの支援金もあるので儲けはほとんどないが
赤字にならない程度で、なんとか凌げてる。」
「でも、夜にビールを飲んでくれなきゃ、売り上げが落ちるんじゃないの?」
→ もう少し、突っ込んで聞いてみた。
「たしかに、調理しなくて栓を抜くだけで儲かるから、ビールが出ないのはつらいけど、
いまが踏ん張りどこだし、みんな苦労してやってんだから、
文句言ったからって、どうなるものでもないし、
悪いのはコロナだから、これでコロナが治まるなら・・・ 協力するしかないんじゃないの。」
「それは正論だけど、近所のお店は、夜遅くまでお酒を出してるんじゃないの?」
→ 悪いと思ったが、ちょっとカマをかけてみた。
「そういったお店も、あるにゃあるけど、
商売人として後ろ指を刺されるような仕事はしたくないから、
たかがラーメン屋だけど・・・ 俺はやらないし、やりたくないんだ。」
「気持ちは分るけど、人の噂も七十五日っていうじゃない?」
→ こういう聞き方は、悪かったなと思うし・・・ ちょっと申し訳なかった。
「確かにそうだと思うけど、地元のみなさんに可愛がってもらってるので、
ズルはしたくないってのがあるし、
子供たちに胸を張って、お父さんは頑張ってるって言えなくなるし、
女房もそれで良いと言ってくれてるので、
バカと言われても良いから、胸を張って仕事をしようと・・・ 家族で話し合ったんだ。」
「いやぁぁ、あれほどやんちゃだったのに・・・ 随分成長したなぁ。
叔父さんと叔母さんに、今の言葉を聞かせてあげたいよ。」
→ あまりにお利口さんの応答だったんで、ついそのように言ってしまった。
「1ヶ月だけ、たった1ヶ月だけ、
皆が不要不急の外出を控えて、酒を飲んで大きな声で喋るのを止めたら、
感染拡大は収束するのに・・・ それができない人たちが、
テレビで政治家を悪者にして正義ぶったことを言ってるけど、
そういった我が儘な人たちと違って、俺らみたいな小さな飲食店は、
ぐっと堪えて感染者をださないように頑張ってるのに、
マスコミは、それは報道しないんだから・・・ これもまた人災だよね。」
「まっ、俺んとこの場合は、銀座や新橋みたいな、家賃が高いとこで商売してるわけじゃないから、
そういった飲食店の苦労は分らないけど、
下町でも駅前でやってる飲食店を除けば、多くの店は支援金を貰えれば、
そこそこやっていけると思うよ。」
「オリンピックは・・・ どうなのよ?」
→ この問いはオマケに聞いてみた。
「外国の人が大勢来るんだから、感染者が全く居ないということはないだろうと思うけど、
問題は都内の若者じゃないの?
選手から感染者がでたら、濃厚接触者の特定は直ぐにできるし、
重症じゃなければ、纏めて隔離すればいいしさ、言うこと聞かなきゃ追放されるんだから、
そうまでして恥を掻きたい選手や関係者は居ないと思うけど・・・ どうだろう?
学者じゃないから、詳しいことは分らないけど、
目くじら立てるほど外国人からの影響は大きくないんじゃない?」
「外国人のことを心配するより、都内の若者と呑兵衛の方を心配する方が優先だよ。
オリンピックが無くなって、くそ暑いこの時季に、
緊急事態宣言まで出たら(当時はまだ発令されてなかった)なんの楽しみもなくなってしまうし、
苛つく人が余計にでて、もっと感染者が増えるんじゃないの?」
「仕事が終わったら早く家に帰って、子供とオリンピック見てた方が、
よっぽど健康的だと俺は思うし、普通の人は、多分そうすると思うけど、
なんだか、マスコミが不安を煽りすぎだよね。
こう言っちゃ申し訳ないけど、普通に気をつけて、真面目に生活してる人たちからしてみたら、
心配ないとまでは言わないけど、なんにも変わらないんだから、ビビり過ぎだよ・・・ 」
「ワクチンだって・・・ 足りない足りないって文句言ってるけど、
接種したことをシステムに入れてなくちゃ、国だって状況が分らないし、
システム投入が遅れるんだったら、県とか、市町村とかが、
現場への配送をコントロールしなきゃダメだよ。
自治体のできが悪いのに、国の責任にするのは間違ってると思うよ。」
「こんなこと言っちゃ、叱られるかもしれないけど、みんなが無責任だよ・・・
お酒の提供制限と、オリンピックをやるかやらないかだって、
議論する土俵が違うと思うけどね・・・ 」
これが都会の片隅で、ラーメン屋を営む店主の奮闘記であり・・・ 苦しい胸の内である。
おそらく、人と話す機会が少なくなっていたのだろう。
もともと話し好きではあったが・・・ 立て板に水のごとく、饒舌に胸の内を語ってくれると、
「2回目のワクチンが終わったら、奥さんと一緒にまた寄ってよ。」と言い残して
店内に戻っていった。
人情の厚い下町で、小学6年生の双子を育てながら、奥さんの手伝いとは別に従業員を雇い、
テーブル席と、カウンター席を合わせて、12~3席ある総てにアクリル板を設置して、
お一人様用に席を作り替えると、お客が帰る度に消毒を繰り返して、
何事もなかったかのように笑顔で接客を繰り返していた。
従弟のような店主は、珍しい存在なのかもしれない。
メディアに露出して「もう我慢ができない。」と言ってるような店主の方が、
実のところは多いのだろう。
でも・・・ 腹が立つことがあっても、けっして誰かをスケープゴートにすることなく、
コロナ禍を克服するまでは、必死に頑張ろうと、
歯を食いしばってる店主がいることも忘れないでいただきたい。
けっして上から目線ではないが、やんちゃだったあいつ(従弟)から、
まさか学ぶとは思いもよらなかった。
だれもが当然だと思うことを、当たり前のように黙々とこなすことの尊さを、改めて教えてもらった。
ガンバレ! 下町のラーメン屋
ガンバレ! 自慢の従弟(私より20歳年下だが・・・ ホントによく頑張ってる。)
追伸
あれから一週間、時間軸のスピードが・・・ あまりに早すぎて、頭の整理が追いつかない。
東京都に4度目の緊急事態宣言がだされることになり、再び飲食店へのしわ寄せがでることになった。
さらには、従弟の実家がある島根県松江市は、線状降水帯による大雨で大変なことになっていた。
実家の母に電話すると「松江が大変なことになってる。」と、
私が聞く前から、私の聞きたいことを喋り出すと、
「叔父さんと叔母さんは大丈夫だから」と・・・ 先ほど電話があったと言うではないか。
やれやれだが、従弟の頑張りを報告すると、夕方にもう一度電話するから伝えておくと言ってくれた。
けっして災害を待ってるわけじゃないが、親族の絆を再確認できる機会でもあったりして、
何事もなければ・・・ それでよいのに、阿吽の呼吸で連絡を取り合うんだから、
血脈という延々受け継がれてきた濃い縁に、感謝したいと思う。
今回従弟と会って、改めて感じたことがあるとすれば、自画自賛するわけじゃないが、
堅物だけど、良い言い方をすれば、少しだけ真面目で楽しむことが大好きな楽天的な家系なんだろう。
どこの家系も、そんなもんだと思うが、
それでも・・・ ご先祖様には感謝しなきゃいけないと思った。
来週になると、梅雨前線は列島から遠ざかると、ニュースでは言ってたが
試練の夏は、いまからが盛りだから、・・・ 油断はできない。
ワクチン接種が峠を越えるのも、もう少し先になりそうだし・・・ 厳しい日は続くが、
もうひと踏ん張り、堪えるしかないのだろう。
意見はいろいろあって良いと思うので、オリンピックに反対することを、私は否定してはいません。
ただ、この期に及んでという言い方に、不満を持つ人がいるかもしれませんが、
五者協議でやると決めたんなら、どうやって感染を防ぐか、どうやってバカ騒ぎさせないように盛り上げるか、どうやって楽しむか、
そろそろ、そちらに知恵を絞るべきだと思います。
だれかが決めなきゃならないことを、賛成と反対の意見が拮抗してるからと言って、
意見するのは良いとしても、足を引っ張ったり、邪魔をするような行為は、それこそ天下国家の恥だと思います。
コメントを頂戴しありがとうございました。
仰るとおりです。
さまざまな意見があることに異論はありませんが、この国のメディアは、まず批判から始まり
みんなで危機を乗り越えようと言った報道がなく、逆に危機を煽っています。
メディアの劣化と批判しても、本家本元がそういったことを取り上げないのですから、
情報をそこに頼ってる人は、いつのまにか、そうなんだと言う風になってしまいます。
ホントに困ったものです。
それにしても従弟さんは頑張っておられますね。正直者が馬鹿を見る世の中ではありませんように!
私もようやく来週の火曜日に1回目のワクチンを接種します。五輪閉幕までに国民の3割がワクチン接種が終わったのなら状況はかなり良い方向に進むはずですよね。そう信じてみなさんワクチンを接種してるのにマスコミ報道が酷すぎます。
感染者の中心は若者ですので夜の渋谷で仮設テントでのワクチン接種でもすればいいんです。