〇 パソコン選びにおいて、デスクトップPC、ノートPCを問わず、使用者の手に合ったキーボードを選ぶことは重要だ。キーボードの仕組みや仕様を理解することは、キーボードを選ぶうえで欠かせない。しかし、キーボードの種類について、詳細を理解していない人も多いことだろう。キーボードの基本的な機構について把握したうえで、ここ数年でのトレンドを確認しよう。
キーの押下を判定する3方式。
キーボードのキーを指で押すと、キーが沈み込む。こうした沈み込みによって、内部に組み込まれた電極などの接点が触れ、キーが押下されたことが判断される。そして、押下したキーから指を離すことで、バネなどによって、キーは元の位置へと戻る。これがキーボードの種類を問わずに、共通する大まかな仕組みだ。
しかし、どうやってキーの押下を判断するのか、どうやって元の位置までキーを戻すのか、という2点はキーボードによって差がある。具体的には、「メカニカル式」「メンブレン式」「静電容量無接点方式」の3つの仕組みがあることを知っておきたい。
1つ目のメカニカル式は、金属製のバネによって支えられたキーを押下することで、内部に組み込まれた電極などが触れる仕組みだ。こうした機械的なスイッチがキーごとに備わっており、それぞれのキーが独立しているため、1つのキーが壊れた場合にも、修理が行いやすいのが特徴だ。ストローク(キーが沈み込む幅)が深いため、しっかりした打鍵感を備える傾向も強い。自作キーボードやゲーミングキーボードなどでは、このタイプが多い。
なお、スイッチやバネの種類によって、キーがONになる深さである「アクチュエーションポイント」の深さ(1.5~2.2mmなど)や、キーを押し込んだときの反発である「荷重」の重さ(30〜80gなど)などは変わってくる。なお、スイッチの種類には、「リニア」「タクタイル」「クリッキー」「スピード」などがある。
2つ目のメンブレン式は、隙間を挟んで2枚の膜(メンブレン)を設置し、キーを押下することで、その隙間を潰して2つの接点を接触させる方式だ。このメンブレン式にはいくつかの種類があり、バネとしてどんな機構を使っているのかで名称が変わってくる。例えば、バネにドーム状のシリコンを使う「ラバーカップ式」、ひし形のスプリングを使う「パンタグラフ式」などは、このメンブレン式の一種に含まれる。
メンブレン式はメカニカル式に比べてコストを抑えやすく、搭載する製品は多い。特にパンタグラフ式のキーボードは薄く、軽い打鍵感を再現できることもメリットだ。しかし、キーが独立していないので、どこかのキーが故障した場合には、キーボード全体を交換する必要が出てくる。
3つ目の静電容量無接点方式は、押下しても物理的に電極が接触するスイッチがあるわけではない。その代わりに、電極同士が接近することで、変化する静電容量(蓄えられている電荷の量)を読み取って、押下を判断する仕組みだ。検知する値をカスタマイズすることで、どの時点でキーが押されたと判断するのか調整できるのが特徴。そのため、高級製品で採用されていることが多い。
注目の光学式や磁石を使ったホールセンサー式。
2017年ごろから徐々に増えてきたメカニカルキーボードの一種としては、機械的なスイッチではなく、光学式のスイッチ(オプティカルスイッチ)を搭載した製品があることも知っておこう。このタイプでは、キーの押下によってレーザー光の遮断状況が変化し、入力の有無を判断する仕組みだ。
光学式スイッチでは、入力判定の遅延が少ない。また、物理的なスイッチを備えないため、接点の劣化による故障がなく、耐久性の高さもうたわれる。ゆえに、ゲーミングキーボードなどで採用されることが多い。
最近では、2021年末に発売された米Vissles(ヴィッスル)の「LP85」のように、光学式スイッチ採用の薄型メカニカルキーボードが登場している。同製品はクラウドファンディング発の製品で、まだまだ主流な存在ではないが、今後、類似の特徴を持った製品が増えてくる可能性がある。
ほかには、キーに取り付けた磁石によって、押下時の磁力の変化を「ホールセンサー」(ホール効果を利用して磁界の変化を電気信号に変換する)で検出するキーボードも存在する。このタイプのスイッチを採用したキーボードは、静電容量無接点方式と同様にアクチュエーションポイントを柔軟に調整できるのが特徴だ。例えば、デンマークSteelSeries(スティールシリーズ)の製品が採用する「OmniPoint」というスイッチなどがこれに相当する。2022年には後継の「OmniPoint 2.0」を採用したキーボードが発売された。
このように、従来の枠組みにきれいにハマらない製品も増えてきている。2023年のキーボード選びでは、基本の分類について理解しつつ、ここ数年で登場してきた新しい仕組みも意識してみると面白いだろう。