◯ 「Apple Pencil Pro」に見る、入力デバイスが急速に進化する可能性。
コンピューターの入力デバイスは、長らくキーボードとマウスがその主流を占めてきた。現在、幅広く使われているタッチパッドも、当初は使いにくさが目立ち、マウスには及ばないと考える人が大半だった。
だが、アップルが世界で初めて導入したタッチパッドの「トラックパッド」は、その後の改良を経て、今ではマウスよりも多彩で入力しやすいデバイスとして認知されている。マルチタッチ操作が可能になり、移動の検出精度が高まってきたのが理由の一つ。OSやアプリケーションに合わせて、より高い機能が求められるようになったことも大きい。
進化自体はゆっくりしているため、昔からパソコンを使ってきたユーザーは、1980年代から大きくは変わっていないじゃないかと感じる人も少なくないだろう。しかし、技術の進歩は、時として急速に歩みを早める。
M4チップ搭載の「iPad Pro」と同時に発表された「Apple Pencil Pro」も、そうした可能性を感じさせる。
アナログタッチを融合。
Apple Pencil Proには、「スクイーズ」(ツールの呼び出し)、「バレルロール」(ペンの軸方向の回転を検出)、触覚フィードバックの3つが新機能として追加されている。
もともと「Apple Pencil」には高い位置検出精度、ペン角度の検出、「ホバー」と呼ばれる画面上の中空にペン先を近づけたときの位置確認機能など、昔からあるペン入力技術を改良し、ユーザーインタフェースを進化させる要素が盛り込まれていた。
今日、イラストレーターなどがiPadを使って作品を制作するようになったのも、こうした積み重ねがクリエーターを引き付けているからだ。
Apple Pencil Proでは、ブラシの形状を回転させることで油彩絵の具を混ぜるように描画したり、水彩絵の具を平筆で回転させながら花びらのような効果を出したりといったことも簡単にできる。ホバーでペン先の状態を確認できるだけでなく、ツールの影がほんのりと画面上に映り込むことにより、自分がこれから何をやるのか気付かせる演出もある。
アナログ的な回転という手法を盛り込むことで、画材やツールごとに変化する様子を直感的に再現可能。さらに、振動を通じたフィードバックやスクイーズで生産性を高めつつ、アナログを超えた表現にまで昇華させようとしている。
発表会場では、「Blender」と連動する3Dモデリングツールを使ってApple Pencil Proで3次元モデルを削り出したり、粘土のように変形させたりしながら編集するという画期的な体験もできた。
バレルロールと筆圧コントロール、ペンの角度検出によって、モデルを自在に変形できるのだ。背景として、AI技術により人間がやりたい操作をアプリ側が推測できるようになった点も大きい。
アニメーション制作の中で登場するキャラクターやオブジェクトは3Dでモデリングされていることが多い。3Dモデルの動く軌道をペン先で指定しながら、バレルロールによってモデルを回転させ、回転軸をペンシルの角度によって調整する。そんな使い方も提案されていた。
ペンという昔からのデバイスが技術革新によってこれだけ変化するのだ。アップルが提唱する空間コンピューティングの世界では、どんな新しい提案をしてくるのだろうか。