○ 海底センサーの「復調エラー」が発端。
2022年8月15日、気象庁は緊急地震速報の発出などに使う「東南海ケーブル式常時海底地震観測システム(以下「東南海システム」)」に障害が発生したと発表した。この障害により地震発生時、緊急地震速報の発表が平常時と比較し最大で13秒程度遅くなる可能性があった。
緊急地震速報は市民が地震の発生をいち早く知るための仕組みだ。この13秒により取れる行動は大きく変わってくる。なぜ東南海システムに障害が発生したのか。
「復調エラー」を検知しシステムを停止
東南海システムは大きく分けて5カ所の観測点とそれらをつなぐ海底ケーブル、陸上局の3要素で構成される。観測点の海底には速度型地震計や加速度地震計といったセンサーを設置、地震のデータを取得している。センサーは深いもので海底2000mに設置しており、それらをつなぐ光通信や電源などの海底ケーブルは全長210km(キロメートル)に及ぶ。取得したデータは静岡県御前崎市にある陸上局に送られる。地震発生時、陸上局はデータをコンピューターで処理して震源を特定し、緊急地震速報を発表する。
観測点からのデータ送信には光ケーブルを使うため、揺れの到達より先に地上局へデータを届けられる。揺れと光の伝達速度の差を利用することで、市民が揺れを感じる前に速報を受け取れることとなる。
観測点は震源に近い場所へ設置されるほど、早くデータを取得できる。ところが今回の障害によって東南海の5カ所の観測点が利用できなくなった。それにより付近で発生した地震を最初に検知できるのは、西方や北方に位置する国立研究開発法人防災科学技術研究所の「地震・津波観測監視システム(DONET)」の観測点となった。気象庁はDONETのデータを緊急地震速報の発出に活用している。東南海システムがカバーしていたエリアの地震を最初に検知するのが、遠方にあるDONETの観測点になったことで、最大13秒緊急地震速報の発表が遅れることになったわけだ。
障害の発端となったのは最南端にある観測点1に起因するエラーだ。「復調エラー」というもので、観測点から送る光信号を電気信号へ変換する機能に不具合が起きたことを示す。陸上局の光信号受光部で観測点1からの光信号の復調エラーを検知した。
復調エラーを検知した陸上局は東南海システムを自動的に全面停止させた。全面停止により、5つの観測点で取得したデータはいずれも緊急地震速報に使えなくなった。
誤報防ぐための全面停止。
では1つの観測点からエラーが発出しただけで、他4つの観測点も含め全面停止させる必要があったのだろうか。気象庁の地震火山部地震火山技術・調査課の晴山智地震火山観測企画調整官は「正常な動きだ」とする。
観測点にエラーが出ている時点で正しいデータを取れる保証がなくなり、他の観測点にも影響が及んでいる可能性が出てくる。データが正確でない場合、緊急地震速報の誤報につながる。実際2013年に、東南海システムの観測点のエラーが原因で緊急地震速報の大規模な誤報が発生した。その際の学びを生かし、気象庁は東南海システムのいずれかの観測点でエラーを検知した際には、緊急地震速報へのデータ活用を全面的に止める仕組みとしている。
8月15日のエラー確認後気象庁は問題の切り分けを進め、観測点2から5までには問題がないことを確認した。同26日には観測点2から5までのデータの緊急地震速報への活用を再開した。緊急地震速報に使わない観測点は1だけとなり、結果として遅れは最大3秒程度に縮まった。
事象再現されず、何をもって復旧とするかが課題。
気象庁は保守ベンダーであるNECネッツエスアイと協力して調査を進めているが、原因究明は難航している。復調エラーは8月15日に出たきりで、エラー発生時の状況を再現しての調査ができないからだ。現在は8月15日のログを頼りに、仮説を立てながら調査を進めているという。
この状況において難しいのは、何をもって観測点1に問題がないと判断を下すかだ。現在エラーが出ていない状況だが、原因が分からないため、次にどんなタイミングで出るか分からない。「もし原因が明らかにならなかった場合、観測点1の利用を再開するためには行政の判断が必要だ」(晴山氏)。
観測点1が利用できないことで生じる遅れはわずか3秒だが、晴山氏は「されど3秒、重大な問題と認識している」とする。数秒の判断の遅れが生死を分ける可能性もある地震。国民の命を守る「頼みの綱」となる東南海システムの完全復旧が待たれる。