〇 タブレットの「Fire」シリーズに力を入れる米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)。最近では子供向けタブレットや、タブレットで利用できるサブスクリプション型コンテンツサービスも提供している。
同社のタブレットは、子供向け教育デバイスとしての存在感を高められるだろうか。
専用カバーやコンテンツ1年分を付属。
アマゾン・ドット・コムのタブレット「Fire」シリーズはデバイス自体の価格の安さに加え、同社自身が「プライム・ビデオ」や「Kindle Unlimited」など低料金のコンテンツサービスを提供していることもあって、タブレット市場では高い人気を誇っている。
2023年9月21日には、10.1インチのタブレット新機種「Fire HD 10」(1万9980円から)を日本で発売することを発表。同時に、Fire HD 10をベースとした子供向けタブレット2機種を発表した。
その1つは、主に3歳以上の未就学児を対象としたタブレットの新モデル「Fire HD 10 キッズモデル」である。未就学児でも安心して使える専用のカバーをFire HD 10に装着。子供向けのインターフェースやペアレンタルコントロールなども搭載する。これに子供向けコンテンツが使い放題となるサブスクリプションサービス「Amazon Kids+」1年分を付けて、2万3980円で販売する。
そしてもう1つは、日本では初めて販売される「Fire HD 10 キッズプロ」というモデルだ。Fire HD 10 キッズモデルと同様にFire HD 10に専用のカバーやAmazon Kids+1年分が付いて、Fire HD 10 キッズモデルと同じ価格で販売される。だが対象年齢がFire HD 10 キッズモデルとは異なる。
前述のようにFire HD 10 キッズモデルは未就学児が対象だ。一方、Fire HD 10 キッズプロは6歳から12歳の小学生をターゲットにしている。それ故付属するカバーはかばんに入れやすいよう、Fire HD 10 キッズプロのカバーよりもスリムになっている。またカバーに貼り付けられるステッカーなども用意して、未就学児向けとは明確に差異化している。
Amazon Kids+で小学生向けコンテンツを拡充。
またFire HD 10 キッズプロの販売に合わせて、Amazon Kids+も大きく変更された。Amazon Kids+はこれまで未就学児向けのコンテンツが中心だったが、小学生向けのコンテンツを増やし始めた。
主なものとしては、朝日学生新聞社が発行する「朝日小学生新聞」のAmazon Kids+版である「朝日小学生新聞デジタルプラス for Amazon Kids+」が挙げられる。講談社からは「おしごとのおはなし」20タイトルをはじめとする小学生向け書籍が多数提供される。
ディー・エヌ・エーからはプログラミングを学べる「プログラミングゼミ for Amazon Kids+」、学習塾などを運営するワオ・コーポレーションからは知育アプリ「ワオっち!」のうち36アプリが提供される。
またそうしたコンテンツをより簡単に素早く見つけられるよう見せ方にも工夫した。Amazon Kids+には数千ものコンテンツが提供されている一方、その検索性に課題があるとの声が多くあったという。そこで「プログラミングをやってみよう」や「えいごをまなぼう」など内容が分かりやすいカテゴリーを追加し、目的のコンテンツを探しやすくしている。
小学生になると興味や関心を持つ分野が増え、利用するコンテンツの幅が広がる。それに対応して、2023年中には保護者向けの管理機能をより強化するとしている。具体的にはAmazon Kids+の利用開始時に、カタログにはないアプリを追加できるようにする。保護者がカタログ外のアプリでの課金を許可するような機能も追加する。
2023年中には、海外で人気のオリジナルゲーム「Sketch&Guess」も国内で提供する予定である。これは子供が描いた絵の内容を親などが当てるゲームだ。
デバイスの対象を小学生に広げたのを契機に、Amazon Kids+もそれに合わせて拡充しているのが分かる。
日本の学習ニーズに応える。
Amazon Kids+では前述のような学習系コンテンツだけではなく、子供に人気のキャラクターを取り入れた書籍など、娯楽系コンテンツの充実も図っている。ただどちらかと言えば子供の学習、さらに言えば直接的な勉強というよりも、将来に向けた興味や関心を高めるコンテンツの充実に力を入れているように見える。
その理由はアマゾン・ドット・コムが国内で実施した調査の結果からうかがえる。同社が小学生の保護者600人に実施した調査によると、コミュニケーションやマナーなど勉強以外のスキルも重要と考えている保護者が多かった。また子供の可能性を広げるため、学習系のコンテンツ以外にもプログラミングや新聞などを求める声が多かったという。
そうしたことから、元々力を入れている学習系のコンテンツに加え、学校ではあまり教えられないスキルや興味を高めるコンテンツの拡充も図っているようだ。
ちなみにFireシリーズのキッズモデルにおいても、米国ではエンターテインメントに注力している一方、日本では教育に重点を置いた利用をアピールしている。教育を重視する日本の保護者のニーズが、コンテンツの傾向に反映されているようだ。
Fireシリーズはタブレットの中でもデバイスの価格が安い。さらに多数のコンテンツを比較的安価に提供するAmazon Kids+を利用できるので、保護者にとって初期投資が少なく導入しやすいことは間違いない。それがキッズモデルの販売の伸び、そしてキッズプロモデルの展開に至った要因だろう。
ただ、より一歩踏み込んで本格的に文教市場に入り込むとなると、米Apple(アップル)の「iPad」シリーズや米Google(グーグル)の「Chromebook」などより、機能や性能、アプリなどの面で劣っているように感じられる。
それ故小学生向けの展開に当たり、強みのAmazon Kids+を生かして学習よりも知識を広げるという点に力を入れているのは理解できる。ただビジネスの規模を広げるならば、学校や塾との連携による本格的な学習デバイスとしての活用を推進する必要があるだろう。