○ 2023年5月現在、無線LANの規格として広く普及しているのはWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)やWi-Fi 6/Wi-Fi 6E(IEEE 802.11ax)である。2022年に6GHz帯の利用が認可されたことで、Wi-Fi 6Eに対応する機器も徐々に増えてきた。
そんな中、最近は次世代規格として「Wi-Fi 7」という単語も出始めている。そこで今回は、2023年5月中旬時点で判明しているWi-Fi 7の情報を、特徴を“早分かり”できるようにまとめた。
Wi-Fi 7は、規格名IEEE 802.11beという7世代目のWi-Fi規格である。以前は「Extremely High Throughput」(EHT)とも呼ばれていた。6世代目のWi-Fi 6/6Eの後継規格となる。現在、仮(ドラフト)バージョンの規格が策定されており、2024年の策定を予定している。それを基に、今年(2023年)中のWi-Fi 7対応ルーターの発売を予告しているメーカーもある。
なお、現時点でWi-Fi規格を統括するWi-Fi Allianceから「Wi-Fi 7」という名称は発表されていない。チップベンダーや周辺機器メーカーが、IEEE 802.11beに対応する機器を説明するときに「Wi-Fi 7」を使っている状況である。そのためこの記事でも、IEEE 802.11beをWi-Fi 7として扱う。
規格上の速度はWi-Fi 6/6Eの4.8倍に。
Wi-Fi 7は、現行規格のWi-Fi 6/6Eより、さらなる高速化が図られる。Wi-Fi 7の規格上の最大速度は、46Gbpsとなる。Wi-Fi 6/6Eの最大速度が9.6Gbpsなので、約4.8倍の速さということになる。
またWi-Fi 7では、MU-MIMO(Multi User Multiple Input Multiple Output)の最大ストリーム数の増加、帯域幅の拡大、変調方式の高密度化などで、速度アップを狙う。MU-MIMOは複数のストリーム(アンテナ)を使い、一定時間の通信量を増やすことで高速化を計るMIMOに、複数デバイスが同時通信できる仕組みを加えたもの。MU-MIMOはWi-Fi 6/6Eにも採用されているが、その最大ストリーム数は8ストリームだった。Wi-Fi 7ではその倍の16ストリームに増えている。
帯域幅はWi-Fi 6やWi-Fi 6Eが最大160MHzだが、Wi-Fi 7では6GHz帯のみ帯域幅が320MHzに拡大される。帯域幅が倍に増えるため、さらなる高速化が期待できる。ただし2.4GHz帯は最大40MHz、5GHz帯は最大160MHzで従来通り。またWi-Fiルーターの発売を予定しているメーカーによると、帯域幅320MHzの日本国内での利用は現時点で保証されていないことから、日本国内では利用できない可能性がある。
変調方式は、新たに4K-QAM(4096-QAM)という方式に対応する。従来の1024QAMという方式の10ビット/シンボル(1シンボルは伝送データの最小単位のこと)から、より高密度の12ビット/シンボルになり、理論上では2割増の高速通信を可能としている。
Wi-Fi 6で採用されたOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)も、Wi-Fi 7で機能が拡張される。OFDMAは、1つの帯域を複数ユーザーで共用し効率良く送受信する仕組みだが、Wi-Fi 6/6Eでは、1端末につき1個のRU(Resource Unit、通信を運ぶ入れ物のようなもの)しか割り当てられなかった。Wi-Fi 7ではMulti-RU(Multi-Resource Unit)に対応し、複数のRUを1つの端末に割り当て、効率の良い通信を可能としている。また、従来よりも遅延を軽減できる。
Wi-Fi 7では、帯域幅の一部が電波干渉している環境で、一部の帯域を間引いて利用するマルチRUパンクチャリング(パンクチャリング、プリアンブルパンクチャリングと呼ぶ周辺機器メーカーもある)という仕組みも採用する。周囲との電波干渉も防ぎつつ効率の良い通信を可能にする。
異なる周波数帯の同時利用に対応。
Wi-Fi 7の周波数帯はWi-Fi 6Eと同様、2.4GHz帯、5GHz帯、6GHz帯に対応する。もちろん、従来のWi-Fiとの互換性も保たれる。また、セキュリティにはWPA4の採用も検討されている。
周波数に関連したWi-Fi 7の新機能としては、「マルチリンクオペレーション」(MLO、Multi-Link Operation)がある。従来のWi-Fi機器は、異なる周波数帯が独立して動作していた。複数の周波数帯が利用できる状況でも、利用する周波数帯のうちどれか1つを選ぶしかなかった。これに対してWi-Fi 7のマルチリンクオペレーションは、異なる周波数帯を同時に利用することで速度向上を狙える仕組みだ。
Wi-Fi 7の規格策定は2024年を予定している。仮バージョンの規格が既にあり、それに準拠したWi-Fi 7対応製品の販売を予告しているメーカーもある。
米Intel(インテル)は、Wi-Fi 7に対応するWi-Fiモジュールを、Wi-Fi Allianceの規格認定スケジュール (2023年~2024年の期間) に合わせて市場投入するとしている。過去の傾向から、Wi-Fiモジュールの出荷から半年後~1年後ぐらいにはこれを搭載したPCが登場するとみられる。早ければ2023年中にもWi-Fi 7対応PCが登場しそうだ。
Wi-Fi 7対応ルーターを既に販売予告しているメーカーがある。その1社であるティーピーリンクジャパンによると、発売時期は2023年夏頃だという。既に予価も公表しており、最も安価な機種で7万9800円となる。現在売っているWi-Fi 6やWi-Fi 6Eに対応するWi-Fiルーターが1万~5万円で販売されていることを考慮するとかなり高価だ。