VENUS AND MARS(1975 Wings)
前作『BAND ON THE RUN』の勢いを受けて、今度はメンバーを補充し(ドラマーは途中でまたも入れ替わったが)、準備万端。認知は十分とみてバンド名をウイングスに戻して放ったアルバムはまたも大ヒット。
路線的には前作を踏襲した感じで、頭2曲で掴みをとるあたりはまさに『BAND ON THE RUN』的。
しかし、バンドとしてのトータリティを意識してかポール以外のボーカル曲が2曲あり、かえって前作より散漫な印象も受ける。
とはいえ、個別にはいい曲も多いのだが。
これで盤石の体制を得たポールは、満を持してワールドツアーに乗り出すことになる。
ところで"MARS"って「マーズ」じゃないんかね?
ずっとそう思ってたんですが…。
01 Venus and Mars
クレジットは別だが、頭の2曲は実質メドレー。シングルでは2曲セットで短く編集してある。アコースティックでコズミカル、メドレーということでちょっと特殊ではあるが、傑作小品であることは間違いない。
02 Rock Show
デロリラリルレロロリルレラルレ…と上昇していくギターがキモ。「語り」部分のミュートギターはちょっと『Jet』的。歌詞には「ジミー・ペイジ」だの「レインボー」だのの固有名詞が出てくるが、当時のロック界はその辺の人たちが注目されていたのかな(デビューのタイミング的に、本当に「レインボー」があの「レインボー」なのかは確証がないが)。ちょっと複雑な構成にパンクっぽい臭い、最後のヴァースの高音ピアノなど、聴きどころ満載のまさに“ロック・ショウ”。
03 Love in Song
『Rock Show』の最後の変なピアノからクロスフェードでギターのイントロが始まるが、こちらは単なる曲間の処理。なんか東洋的な響きを感じるが、まあどうでもいいや。
04 You Gave Me the Answer
ポールお得意のボードビル調の曲だが、ビートルズの『Honey Pie』、『BACK TO THE EGG』の『Baby's Request』のような秀逸さは感じられない。ポールのボーカルがすべて。
05 Magneto and Titanium Man
とあるアメコミを読んで思い立った曲だとか。しゃべくり調のボーカルに愉快なコーラス。なんとなくthe Beatlesの「Maxwell's Silver Hammer」を思い起こさせる。タイトルも金属っぽいし。
06 Letting Go
ヘヴィなギターや重厚なブラスなど、ブルージーで味はあるんだけど、いささか長い。ちなみに邦題は『ワインカラーの少女』だが、「ワインカラー」なんてことばも「少女」なんて言葉も歌詞には出てこない。それらしいとこを上げるとすれば、冒頭の「She tastes like wine」という部分だけなのだが。そんな頭悩ませてひねり出すくらいなら、邦題つけなきゃいいのにねえ。
07 Venus and Mars(Reprise)
B面トップは、アルバムのタイトルナンバーがさらに宇宙度を増して登場。「スターシップ、トゥーワンゼレネ~ナ~イン」、訳分からんけどカッコイイなあ。『BAND ON THE RUN』の無理やっこな部分的リプライズとは比べものにならない。
08 Sprits of Ancient Egypt
宇宙から古代エジプトに結びつけるあたり、ポールの『ムー』好きを伺わせる(笑)。デニーのボーカルがまた『ムー』的に妖しい。しかし『遥か昔のエジプト精神』って邦題は、間違いじゃないけど歴史読本みたいで笑わせてくれる。
09 Medicine Jar
ギターのジミー・マッカロクが前のバンドの仲間と作っていたドラッグソングで、ボーカルもジミー。曲そのものは悪くないが、全体として見るとやっぱ浮いてる。このころはね、ポールも含めみんなドラッグをやってたみたいだけど、ヘヴィなドラッグは体に良くないよね、ジミー。
10 Call Me Bacl Again
ポールが“ロック用の声質”(「その5」参照)で歌い上げるロッカバラードだが、ちょっと『Let Me Role It』的な臭いもして、いささか退屈な一曲。
11 Listen to What the Man Said
軽快なサックスがむちゃカッコイイ、内容とは関係なく、夏の海辺をドライブしたくなる曲(ならんか?)。ギターはメインのリフだけでなく、バックのカッティグもシンプルだけどいい。ジョージにありがちな、ルートで終わらない無限ループ的な感じの進行で、「ワンダ~ロビロ~、ベイベー」のコーダで決着をみる。その後、メドレー的に次の曲になだれ込むが、シングルカットでは中途半端にフェードアウトしていってしまう。ちなみに邦題の『あの娘におせっかい』は、ビートルズの 『You're Gonna Lose That Girl』を『恋のアドバイス』としたセンスと同じものを感じるよ。
12 Treat Her Gentry/Lonely Old People
クレジットはメドレーのようだが、4拍子の『Treat Her Gentry』と3拍子の『Lonely Old People』の二つのパートの組合せという感じのスローバラードで、メドレー形式ではない。「フォトゥデ~イェイェイェ~」の声が裏返るところは圧巻だが、全体スローすぎてちょっと間延び気味。
13 Crossroads
トニー・ハッチ作曲の、イギリスのテレビドラマのテーマ曲だとか。ジョークのつもりらしいが、純然たる日本人のオイラにはどこがジョークなのかさっぱりわからん。ギターはポール。曲の最後に何か言ってるが、なんだろう?
***CD版ボーナストラック***
14 Zoo Gang
シングルカットされた『Band on the Run』のB面のインストロメンタル。これもテレビ番組のテーマ曲らしい。
15 Lunch Box/Odd Sox
後にシングル『Coming Up』のB面に収録されたインストロメンタル。これもメドレー的なクレジットだが、どこが『Lunch Box』でどこが『Odd Sox』なのかすらもよく分からん。
16 My Carnival
後にシングル『Spies Like Us』のB面に収録されたかったるい曲。
***この時期の他のオリジナルシングル***
Junior's Farm
1974年リリースのシングル。これも聴かせるロック! 「ハ!」というポールの合いの手(?)に、基本ルート打ちのベース、ドライなコーラスにもんどりうつギターソロと、むちゃカッコイイとこ尽くめ。エンディングまで、もう痺れまくり。
(つづく)
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