ハンガウトです。『泣ければらくちん』で、幼い子どもなら、泣いて気持ちがラクになりパニックも起こさなくなるけれど、年長になると泣けないと書きました。じゃあ、年長になったらどうするのよ、ということになりますね。そこで、少々長くなりますが、パニックへの対応について、おつき合いください。
大丈夫、パニックを起こす構造は同じ、本人なりに様々な思いが伝わらずガマンを重ねた結果、どうしようもなく爆発するので、そのとき体で表現している気持ちを受け止めれば、たとえ泣けなくても、自分の感情表出をコントロールできるようになります。これまでおつき合いのあった親子が、どんな工夫をしてきたのか、いくつかご紹介しますね。
どうすればいいの?
〇 Bくん、特別支援学校高等部の1年生。
体格がよいので、攻撃するつもりはなくても、パニックのときたまたまぶつかっただけで、おばあちゃんは吹っ飛んでしまいます。何につけても「自分はダメなヤツ」ということをつきつけられ、パニックが頻発しているのだと解ったお母さんが、考え出したのは布団むし。
タオルケットで試したけれど、1回でビリビリに。そこで、もめん綿の布団にして、くるんだ上から抱きとめるのだとか。おそらく現実には、抱くというより、馬乗り状態でしょうが…。
最初は、既に暴れている大柄な子をくるむこと自体で悪戦苦闘、でも2回目からは自分で布団を出してきて、お母さんがくるむまでの間、手加減して暴れてくれていたそうです。このように手加減してくれることって、意外に多いんですよ。私も何度も経験しましたが、本人がそれだけ、行動統制できているってことかな。パニックは2,3ヶ月で無くなりましたが、布団は3枚廃棄処分、だそうです。
〇 Cちゃん、支援学級小学5年生の女子。
少しだけ単語で会話可能な、ふだんは指示に従いやすい子なのですが、パニックになると、誰かれ構わず噛みつきます。お母さんだけでなく、学校の先生や友だちも被害甚大。そのときの気持ちまではいちいち解りませんが、噛みつく度に「また、やっちゃった」と自己否定感を募らせていることだけは、お母さんも納得。そこで何とか行動統制させようと、家では、厚手のタオルを常にお母さんが持ち歩き、本人が噛みつこうとしたときに、素早くそのタオルを口にあてがう、という方策で乗り切りました。そのうち、本人にタオルを持たせるようにして、噛みつきたくなったらタオルを噛むことを憶えてもらいました。徐々に、パニックは起こさなくなりました。
〇 Dくん、支援学級中学2年生。
お母さんが「パニックになるくらい、気持ちを出してくれれば…」と言うほど、まったく意思表示せず何もかも受け身の自閉症。質問すれば一応ボソリと応えますが、本音なのかは怪しい、自分から何かを要求することはありません。中学生になってようやく、自分の思いと違うときに、お母さんに向かって唸るようになりました。あるとき、たまたま学校の脇を通りがかったおばあちゃんが見かけた光景。
授業中なのに急に校庭に飛び出してきたDくんが、1本の大きな桜の木に向かって、大声で「わぁーっ!」と叫んでいたそうです。何度か叫び声をあげると、迎えに来た先生と一緒におとなしく教室に戻って行ったとのこと。「ウチの子が、ちゃんと感情表現したなんて、しかも誰にも迷惑かけずに…」と、お母さんは大喜び。
パニックではありませんが、年齢に相応しい感情表出の仕方を身につけるのは、表現が乏しい子にも共通して大事ですね。
ついでに余談、若い頃にアイディア商品の店でみつけた、ストレス解消グッズ。ひとつは<叫びの壺>とかいう名称で、壺の口に向かってモヤモヤを吐き出す、もう一つはシリコンでできたグッズで、ムギュウっとひねり潰すと、いくらでも変形するという代物。私たちおとなにも、必要ってこと。
〇 Eくん、特別支援学校の小学部4年生。
単語を言うこともありますが、会話は成立しません。パニックになると、転げ回って壁やドアを蹴りまくります。そこで考えた方策が、ダンボール蹴り。家ではいつもダンボールをたくさん用意しておき、パニックになったら即座にダンンボールを周りに置いて、上半身だけ抱きとめます。なので、足は自由に蹴ることができます。くり返すうちに、Bくんの布団むし同様、本人がこうすればよいと解ったので、ダンボールが置かれるまで待つ、やがては爆発する前に自分でダンボールを蹴りに行く、という行動ができるようになりました。
ちなみに、ふだんからサンドバッグのような物が使えるなら、体で気持ちをぶつけるようにするのも、多くの子ども(成人でも)に有効です。
〇 Fくん、特別支援学校の小学2年生。
話し言葉はありません。まだ体格は小さいはずなのですが、暴れ方がすさまじくて、大人1人では抱きかかえられません。そこで思いついたのが、和装用に帯の下につけるベルト。マジックテープによる脱着式なので、幅広ですが素早くつけられます。それを子どもの大腿部に巻くと、膝から下は自由にもがけますが、両脚を開くことができないので、お母さん1人でもなんとか暴れる我が子を抱きかかえられます。物や道具を使うと、なんだか虐待するみたいで、あまり声を大に言えないのですが、きっとFくん自身もそのおかげで思い切り気持ちを出せるのでしょう、自分でそのベルトを持ってきて、スタンバイするようになりました。
いかがでしょうか? 自閉症は、なかなか行動修正が難しいと思われていますが、本人が納得すれば、練習を重ねて、新しい行動を身につけられます。ところが多くの場合、おとなは、納得させようと理屈で言いきかせます。けれど正当な理屈をいくら並べられても、感情はそれが許せないということ、私たちにだってあるでしょ!? 理屈ではなく、気持ちの納得が必要なのです。行動だけをとりあげて、ひたすら練習させても、気持ちが納得していなければ、なかなか行動は変わりません。
身近な人が、「そんなにイヤなことがあったんだね」と認めてやると、まず本人の感情が納得します。そして、これまで本人が意識していなかったことでも、「ああ、そういうことだったんだ」と頭の整理もできます。そうすると、自分なりに気持ちの折り合いがつけられ、「じゃあ、別のやり方でもいいか」と、練習する気になるのだ思います。要するに、いかに「練習してみよう」という気になってもらうか、です。
どの例を見ても、それぞれの家庭によって工夫されているのが解ります。お母さんが、我が子の気持ちを受け止めて、それだけ真剣に工夫してくれているのですから、その期待に応えたくなるのは、子どもとして当然。だって、そもそも両方が相手を大事にしたいと思っている者同士、お互い大好きな親子なのですから。