つらつら日暮らし

「赤袈裟」と「緋袈裟」について

以前、【「赤袈裟」一考】という記事を書いた時、「赤袈裟」と「緋袈裟」の関係を検討する必要を感じた。既に「赤袈裟」は論じた通りなので、この記事では主として「緋袈裟」を検討したい。前提として、上記リンク先の記事でも申し上げた通りで、赤袈裟よりも、いわゆる緋袈裟の方が一般的だという見解もあり、更にこの「緋」とは、元々皇室が身に着ける色だったともいう。

この記事では、その辺を明らかにしてみたい。

其の華台上に一の化仏と作り、緋袈裟を著け、結跏趺坐し、項背に光有り。
    『陀羅尼集経』巻6「観世音等諸菩薩巻下」


このように、「観世音菩薩」との関連で、「緋袈裟」を着けた「化仏」があるという。なお、この経典は密教系であるので、日本には密教系経典を通して「緋袈裟」が知られたと思っていたら、そこまで簡単な話では無かった。ただし、関連する記事を見付けたので、見てみたい。

 緋は正色にして本邦異域、例の賜色を用す。
 僧史略に、唐の玄宗、僧の崇憲が薬効を歎じて、始めて緋袈裟を賜ふ。
 続日本紀に、聖武帝、唐僧・道栄が来朝を嘉して、始めて緋袈裟を賜ふ。
    『顕密威儀便覽』巻上


これは、『類聚名物考』などにも引用されているので、この辺から「緋袈裟」の話が出てくるのだが、ちょっと調べただけでは『僧史略』には出てない感じがする。一応、同書の巻下に「賜僧紫衣」項があって、そこに「帝、悅びて緋袍の魚袋を賜ふ〈緋魚袋を賜るは唯だ憲一人なるのみ〉」とあって、いわゆる崇憲の話は出ているのだが、「緋袍」とは、袈裟では無くて、朝廷で着るべき衣服だから、「緋袈裟」とするのは間違いだと思う。

それから、聖武天皇の一件は、以下の通りであった。

又た敕するに、「唐僧の道栄、身、本郷に生じ、心、皇化に向かい、遠く滄波を渉り、作我が法師と作る。加以、子蟲を訓導して、大瑞を献ぜしむ。宜しく従五位の下階に擬すべし、仍りて緋色の袈裟并びに物を施し、其の位禄料、一えに令條に依る」。
    『続日本紀』巻10


こちらは、明らかに「緋色の袈裟」としているので、「緋袈裟」を授けたことが分かる。ただし、注目すべきは「宜しく従五位の下階に擬すべし」であって、いわゆる貴族の階級に列して、その一人として扱った様子が分かる。それを思うと、「緋袈裟」を授けたのは、冒頭でも挙げたように、皇室が身に着けるべき色の袈裟を用意することで、特別な位置付けの僧侶であることを、内外に印象付けた様子が分かる。

ということで、「緋袈裟」とは、皇帝・天皇の権威との関係がある色袈裟であることが分かった。

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