つらつら日暮らし

戒律を学ぶこととは「法体行相」を知ること?

とりあえず、以下の一節を見ていただきたい。

中に就いて戒の要綱といふのは、所謂戒律の全部を包括して、之を組成する要領を法体行相の四とするといふことである。更に委しく言へば、戒法、戒体、戒行、戒相の四が完備しなければ、之を戒律といふことが出来ない、また此の四つで戒律の全部は尽されて居るといふのである。
    国民文庫刊行会『国訳大蔵経(附録戒律研究上)』昭和3年・国民文庫刊行会、49頁


以前、明治時代初期に書かれた別の文章でも、戒律については「法体行相」を知らなくてはならないのに、最近はけしからん、的な文章を見たことがあったのだが、どうも、これは戒律研究上、必須とされた考え方だったようである。しかし、どうも、個人的に読んでいる文献には、中々このことを指摘する場合がないようだし、どうなっているのだろうか?と思い、今回その疑問点を解消するべく、記事にした次第である。

 略ぼ四別に分かつ。
 一つには戒法、此れ即ち体なり。出離の道に通ず。
 二つには戒体、即ち出生衆行の本と謂う。
 三つには戒行、方便修成し本に順じて体を受く。
 四つには戒相、即ち此の篇に明かす所、篇聚に亘通す。
    南山道宣『四分律刪繁補闕行事鈔』巻中「随戒釈相篇第十四」


それで、先行研究などを見てみると、この箇所が文脈としては古いようで、ここから「法体行相」が「戒の四別」として体系化されたことになるのだろう。それから、直接に「法体行相」という用語で調べてみると、更に中国宋代の霊芝元照による『四分律行事鈔資持記』に見られることが分かった。そして、ここから後に続く文献でも見られるようになるので、少なくとも「法体行相」という四義について、戒律を学ぶときに必要だという見解は、南山道宣を淵源したものだと考えて良さそうだ。

既に道宣は見た通りだが、元照はどういう文脈でこの字句を用いているかだが、以下のように引用しておきたい。

戒に四義有り。法体行相、今、総相より唯だ戒法を歎ずるのみ。
    『四分律行事鈔資持記』上一上巻「釈序文」


以上であるが、確かに、戒には法体行相の四義があると明示している。ただし、これだけでは少し分かりにくい。よって、更なる用例も見てみると、以下の通りである。

如上の巻、宗を標し亦た法体行相を明かす。
    同上


結局、元照にとって、本書の「釈序文」自体が、戒の「法体行相」を明らかにしたものだという見解であったらしい。よって、この「釈序文」を丹念に読めば、意味は分かるところだが、少しまとまりがないことも事実である。よって、後代の文献ではあるけれども、この辺をしっかりとまとめた箇所があったので、見ておきたい。

 問う、通別二受の菩薩七衆の受持する所の戒、何を以てか体と為すや。
 答う、戒体の法門、是れ律宗の眼目、戒学の骨髄なり。
 行人の所細の物、此の体を以てす。
 学者の所持の旨、此の法に在り。
 万行の流出する所、
 衆徳の朝宗する所なり。
 法体行相に四科義有り。
 法とは是れ仏の所制の法なり。
 体とは是れ行者の納むる所なり。
 行とは是れ行人の摂する所なり。
 相とは是れ相貌を修する所なり。
 四科の妙戒、一時に現在す。建志成就して美徳円満す。
 此の四科中、戒体の一門、要妙の精髄、根源の基地なり。
 此の戒体を作無作と名づけ、亦た教無教と名づけ、新たに表無表と名づく。
    凝然大徳『律宗綱要』巻上


上記の通り、凝然大徳は「法体行相」をもって説明しているのだが、問題はこれが「戒体」について論じられていることであろう。凝然大徳の論理を丁寧に見ていくと、戒体の法門が律宗の肝心要の道理であり、戒学の骨髄とまで言い切っている。しかも、修行者が学ぶところは、この体を基本とし、持つ教義はこの法にあるという。

そこで、この体と法から、あらゆる修行が出てくるのであり、その結果が集まるところでもあるのである。

さて、凝然大徳はその上で、法体行相を指摘している。つまり、戒体の法門としての修行に展開するところ、法体行相をもって展開しており、その4つは以上の通りである。ただし、この4つは、「四科の妙戒、一時に現在す。建志成就して美徳円満す」とある通りで、四科に分かれた法体行相の妙戒は、一時に現在し、修行者の志が成就したときに、美徳として円満しているのである。

しかし、戒体の一門こそが、修行者にとっての持戒修行の全ての根源となるのである。

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