つらつら日暮らし

施食会と盂蘭盆会の関係について

施食会と盂蘭盆会、非常に良く似ていることもあって混同されていることがあるという想いを持っているのだが、この発想自体が実は「宗旨と行持」との関わりがあると知った。よって、その文面を紹介しながら、考察を加えていきたいと思う。まず、そもそものきっかけは、明治期に編まれた最初の『洞上行持軌範』の影響である。本書は、江戸時代末期に混乱した宗門行持を斉整ならしめるために編まれた文献で、その際に何故斯様に定めるに至ったかを説明したところに特徴がある。

そこで、この施食会(当時は「施餓鬼会」と呼ばれているが、拙僧の文では「施食会」とし、引用は資料としてそのまま用いる。なお、「施餓鬼」は現在は用いられない呼称である)については、以下の記載がある。

以上諸規の示す処に拠るに、解制自恣の日、即ち盂蘭盆会施餓鬼を修するは禅林の通規なり。今より一百廿五年前明和二年乙酉秋、尾州興正寺諦忍律師の著述せる盆供施餓鬼問弁と云雑書あり。施餓鬼と盆供とは各別の物なり、一混するは非なりと喋々弁明したれども、彼が如きは元と是れ律門の偏見にして、蝦跳れども斗を出でざるものなれば、固より取るに足らず。禅林の通規は第一義天に立て法界を大観す。嘗て偏見局量に依らず、大心を廻して大法を修するなり。今ま前に抄出する処の諸規を参考するに盂蘭盆会に於て施餓鬼を修するは同一なりと雖、其の施設の供具幢幡に少異あり。依て諸規を折衷し之を左に確定す。
    『洞上行持軌範』巻中、引用に当たりカナをかなにし句読点を適宜付す


このようにあって、どうも、施食会と盂蘭盆会を分けるべきだという見解は、他宗派の僧侶が唱えたことだとしている。この諦忍律師という人は、生没年が1705~1786年で、真言律宗になるとされている。名古屋にある八事山興正寺の5世となり、様々な研究を行った当代では最高クラスの学僧であった。そして、その見解に対して、宗門としては否定する見解に立ったということが以上の文章からよく分かると思われる。

おそらくは、この諦忍律師の著した『盆供施餓鬼問弁』について、かなり流行ったとも思われ、それが宗門僧侶の見解にも影響を与えていたため、敢えて否定したのだろう。それでは、その諦忍律師の見解はどうなっていたのだろうか?ちょうど、同著を見出したので、検討してみたい。

○問、今時、世上を見るに、七月に入や否、直に盆供を執行ひ、施餓鬼と盆供とは全く一事なりと思ひ混乱して修する者あり。是歟、不是歟、如何。
 答、是は大ひに不可なり。施餓鬼と盆供とは各別の物なり。何ぞ一混すべけんや。盆供は目連より起り七月十五日に限る。施餓鬼は阿難より起り毎日黄昏に修す。盆供は百味五菓を以て十方自恣の僧衆を供養し、施餓鬼は一器の浄食を以て専ら餓鬼趣を救ふ。由来、雲泥の隔あり。是を一混するは大なる謬なり。
    『盆供施餓鬼問弁』第一問答


本書の名前が『盆供施餓鬼問弁』であるから、当然に盆供養と施食に関する話なのだろうとは思っていたが、まさかの第一問答が、まさに当記事で扱う問題そのものであった。よって、諦忍律師の在世時、余程大きな問題になったのだろうと思う。そして、諦忍律師の見解は、ただ行持の由来や、行うべき日付にのみ該当するのではなくて、その内容にまで踏み込んでいるところが重要であるかと思う。先の『洞上行持軌範』の見解を見ていくと、宗門では盂蘭盆会と施食会について、折衷して行うように見える。つまり、行持面でそれほど大きな差を付けていなかったことを意味していよう。にも関わらず、諦忍律師はバッサリと否定的見解を示したので、その後、明治期に入り、宗門では諦忍律師の見解を更に否定せざるを得なかった、といえる。

そして、『洞上行持軌範』ではこの施食会に関する行持・差定は以下の2通りとなった。

・通常施餓鬼
・大施餓鬼


なお、いわゆる「盂蘭盆会施餓鬼」というのは、この場合夏安居解制の日(旧暦7月15日、新暦8月15日)に合わせて行われるもので、その場合、1日から14日までが「通常施餓鬼」を修行し、15日正当に「大施餓鬼」を修行することとなった。また、供物に関しても「通常施餓鬼」については、浄飯・浄水・菓物がそれぞれ一器ずつであり、「大施餓鬼」については、茶湯珍饈を中心に五菓を盛るという内容となった。

結局、諦忍律師の指摘する内容に近付いたことを意味しているけれども、宗門ではその両方ともに「施餓鬼」という一事を中心に据えるということで、差異化を図っていることとなる。その結果、唱えるべき文言がいわゆる『甘露門』を主として行うこととなり、行持面での混乱を、宗門なりに局限させたということになろう。他にも、幢の飾り付けなどに、通常と大とで差異があるけれども、拙僧自身もうちょっと勉強しなければならないので、この辺にしておきたい。

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